最終話 交錯する世界
三日後、ブギースプーギー王国の周辺は大きく変化していた。
「先日、アルテミスとの交戦を経て、我々ブギースプーギー王国はアルテミスと不可侵条約を結ぶことに成功した。今後、我々はアルテミスに技術を提供する代わりに領土外の治安の維持を担ってもらうこととなった」
国王によって公布されたこの声明だが、国内では余り快くは思われなかった。和平条約と異なり不可侵条約はマイナスのイメージをもたれがちである。さらに今回このような声明を出すこととなった背景には、ひとえにアルトがゼロに完全敗北を喫したと言うことを表わしていた。本来であれば社会的制裁を与えられてもおかしくないところを、不可侵条約を結ぶという形で終結させられたのだ。まるで舐められているような、しかし変な事をすればいつでも潰しに書かれるぞと言う圧力を感じさせる。
これによる国民の意見は様々だった。魔族なんかに自分たちが負けるわけが無いと言い張る者も居るし、アルテミスに変な事をされないか気を揉んでいる者も居る。中には素直に(表面上とは言え)平和が訪れたことを喜ぶ者も居る。
「なんだかんだで丸く収まりましたねぇ」
「よく手出しをしなかったもんだ」
商業都市アーキンドムに構えたラドルの拠点で二人は話をして居た。トーヤと凄まじい攻防を繰り広げた挙げ句、ヨルムンガンドの不可思議な甲殻による攻撃の反射によって重傷を負ったラドルだったが、異世界人の少女リンカのポーションを飲むことでものの数日で回復していた。本来なら数ヶ月はかかる骨折もたった2日で完治してしまい、ラドルの常人離れしたフィジカルにはサルサも呆れるばかりだった。
「結局、アルトの奴は女どもを手放しはしなかった。情が移っているのか、単に女好きなのかは知らないが」
「ドラテアさんもお姉様に会えたようですし、よかったですね」
「よくはねぇだろ。そもそもあいつが手出ししなければ何も起こらなかった」
アルトは今回の戦犯だとして国から追放された。元々アルテミスに戦争を仕掛けようと発案したのがアルトであり、その言い出しっぺ且つ主犯格であったアルトが責任を取らされるのは必然であった。国内に居られなくなったアルトは今まで購入してきた女奴隷達+ドラテアを連れてどこかの森の奥へ行ったそうだ。世間では失踪したと言われているが、マサトという異世界人の先例を知っていたため、同じように村か何かを作ってハーレムを形成し、スローライフでもしてるんだろうとラドルは思うことにした。
アルトが居なくなったことを国は悲しんではいたが、どうやら王族やその関係者の一部は彼の正体に少なからず気付いていたらしく、親衛隊が
「(それにしても、異世界人にはまだあんなに強い奴が居たのか)」
ラドルは先日交戦したトーヤの事を思い出していた。魔族の力を解放する前とは言え、あのラドルとほぼ対等に渡り合えていた実力者だった。能力をひけらかすわけでも無く、かといってこちらを舐め腐っていたわけでも無い。無駄をそぎ落として徹底的に殺しに掛かる、ラドルの知る異世界人の多くの特徴に当てはまらない存在として、妙に印象深かった。
「どうしたんですか?ラドルさん。トーヤさんのことが気になるんですか?」
「俺が異世界人を気にするもんか。あんな女々しい野郎なんか」
「そういうラドルさんも女々しいところありますよ。ほら、フォウさんの事だってきっちり白黒付けましょうよ。男ならスパッと——————あいてっ?!」
「うるさいっ」
からかってくるサルサの頭をラドルは小突いた。
「痛いじゃ無いですか。オイラの頭から大切な情報がすっぽ抜けたらどうするんですか。せっかく女神にまつわる噂を聞きつけたって言うのに」
「本当か?」
「ええ、まあ———————」
こうして、ラドル達は再び彼らの日常に戻る。異世界人、そして彼らを寄越してくる女神に仕置きするために。
「今回は随分迷惑を掛けたな」
「本当にねぇ。でもこれで一つ解ったね。エリスには少なくとも単独で仕掛けちゃ行けないって」
トーヤと白衣を着た銀髪の眼鏡の青年が話しているのは、「対転生者特別防衛機関」の本部にある医務室だ。普通の人間ならば宿屋に泊まっただけで復活できるような怪我でも、「転生者(この世界での異世界人全般の呼び方)」に負わされる傷はそれでは回復しないことも多い。中には独自に治療薬などを調達する必要があるため、こういった専用の医療機器を取りそろえているここは拠点の要の一つでもあった。
「だが、あの瀬久原をやったっていうのは驚いたぞ。よくやれたな」
「実際、相当苦戦していたみたいだよ。調べてみたら“タッチ”って能力は本来は“スマートフォン”っていう機械の機能を元にした能力だったみたいだしね。滅茶苦茶応用が利いていたみたい」
「スマホ、か」
瀬久原を仕留めた一番の要因は、シュヴァルツの能力と絶望的に相性が悪かったためだろう。シュヴァルツは「アサシン」という職業を持っており、その能力で姿を消すことが出来るのだ。瀬久原の「タッチ」というスキルはあくまで目で見えているものに触れる能力だったためシュヴァルツを捉えることが出来なかったのだ。さらに彼の持つ能力として毒沼を精製することが出来る。これに触れると勿論毒に冒されるが、これが「タッチ」越しでも通用することは瀬久原も想定していなかったようで、完全に意表を突く形となっていた。
当然だ。本来スマートフォンは指で画面に直接触れて操作するのだ。タッチでシュヴァルツに触れるのは、いわば毒液を垂らしたスマホの画面をこねくり回すようなものだ。
「(それにしても、あの人は無茶苦茶強かったな・・・・・・・異世界人を殺さずにとどめておけるだけはある)」
トーヤはラドルのことを思い出していた。文字通りチート極まりない異世界人を相手していたとは聞いているが、その実力は戦っても如実に感じた。トーヤが「絶氷の龍紋」をまだ完全な制御下に置かれていなかったとは言え、あれだけの魔法の吹雪の中食らいついていたほどだ。異世界人の理不尽を理不尽なまでに力尽くでねじ伏せる様は、まさに異世界人ハンターの理想の姿だった。
本当の
「(だから、どうかこっちの世界にやってくるような事はしないでくれ・・・・・俺のように)」
そして世界は
ヴィジターキラー異空譚「異世界召喚を止める者」 戯言ユウ @Kopegi
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