10話.[してくれないの]

「許可してもらえてよかったね」

「うん、やっぱり沙莉さんも物凄く優しいよ」


 優しさと忍耐力がある。

 優しさはあっても後者のそれがなかったら僕と居続けることなんて不可能だろう。

 社会で生きていくためにも僕にもそういう能力が欲しかった。

 寧ろ優しい人達ばかりがいてくれて甘い学生生活を過ごしてしまったような感じがしているから。


「あ、珠花が今度四人で猫を見に行きたいって言ってたよ」

「たまには外で活動するのもいいね」

「うん、僕はそうでなくても運動不足だからたまにはそういう日があってくれた方がいいかな」


 そもそも運動神経もポンコツだから動いたところで、という話ではあるが、それでも努力をしないで現実逃避ばかりをする人間よりはいいはずだ。


「まだ活動しているのか?」

「うん、文菜さんが活動し続ける限りは付き合うと決めているからね」

「物好きだな、文菜は文菜で立端を好きになってるしよ」

「物好きじゃないよ、哲義君はいい子だよ?」

「いい子でも面白みがあるわけではないからな」


 確かに、これからも荒谷君と関わり続けたいな。

 こうしてたまに現実を突きつけられないと駄目になる。

 自惚れて、調子に乗って、嫌われてしまうなんてこともあるかもしれない。


「ま、文菜に付き合い続けたのは立端だけだからな、違和感というのは全くないな」


 彼は「教室とかでいちゃいちゃしなければそれでいいわ」と言って歩いていった。


「荒谷君みたいな人のことをツンデレって言うんだろうね」

「えっ、あ、確かに優しいときは優しいからね」

「哲義君には素直になりにくいところがあるのかもしれないね」


 仮に僕単体でも悪く言ってくることはなかったと思う。

 なんだろう、いつでも真っ直ぐだから場合によってはそういう風に見えてしまうというか。


「いいや、喧嘩とかにはならないだろうからね」

「ならないよ」

「それよりさ、今日はまだ……してくれないの?」

「えっ、あれっ? いつの間にかそういうことになっていたの?」

「……当たり前だよ」


 ここでしないなんてことはできない。

 たった一回の判断ミスでなにもかもが消えるなんてこともあるんだから。

 実はもう二回目とかじゃないから力加減が分からないなんてこともなかった。


「別に沙莉ちゃんや珠花ちゃんと仲良くしてもいいけどさ、私のことも忘れないで」

「忘れることなんて無理だよ」

「うん、それでいいから」


 しかも最近は抱きしめつつ頭を撫でるなんて贅沢な行為もしてしまっている……。

 とにかく不安にならないでほしかった。

 僕が付き合っているのは文菜さんなんだからね。

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90作品目 Rinora @rianora_

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