90作品目

09話.[たまにはいいね]

「へえ、もうそんなことをしたのね」

「うん、文菜さんの方から言ってくれてね」

「ふっ、だってあんたはそうじゃないとできないもんね」

「うっ、そうだね……」

　でも、大胆とか積極的とか正当化してしまうよりはマシな気がする。

　前にも言ったが、僕がそうやってぐいぐいいく人間だったらふたりが残ってくれることはなかったと思う。

「なんとなくこうなると思ってた」

「私はもう少しかかると思っていたわ、文菜もどうして急に変わったのかしら……」

　そう、そこは分かっていないままだった。

　それでも気にしすぎていても仕方がないから気にしないようにしている。

　そもそもそればかりに意識を向けていたら仲を深めることも不可能だから。

「もしかしたら沙莉と仲良くしているところを見て焦ったのかも」

「あの文菜が？　これまでだって立端とは一緒に過ごしてきたけど」

「私がそう思っただけだから」

　とりあえずこの話を続けても仕方がないから頼んでみることにした。

「それこそ文菜が嫌がるんじゃないの？」

「文菜さんがそうした方がいいって言ってくれたんだ」

「へえ、まあ私はいいわよ」

「じゃあ沙莉さんって呼ばせてもらうね」

「好きにしなさい、私も哲義って呼ぶから」

　仲良くできているのは確かなようだ。

　気に入ってくれているかどうかは分からないが、嫌わないでいてくれているだけで普通に嬉しいことだった。

　ただ、こうなってくると相手にしてもらってばかりになってしまうんだよなあ。

「哲義、今度外で猫を探そ」

「そうだね、たまにはいいね」

　家でばかりだと運動不足になるからその方がいい。

　あと、いま屋内で文菜さんとふたりきりになるとすぐに雰囲気があっち方向に流れてしまうからだ。

「メンバーは沙莉と文菜と哲義と私だから」

「えぇ、私も参加しなきゃいけないの？」

「『猫を愛でる部』に所属しているんだから当たり前」

「私は所属した覚えはないんだけど……」

　珠花だってそうだ、別に所属しているというわけではない。

　まあ、文菜からすればメンバーが増えてくれて嬉しいことだろう。

　全員見知った相手だし、沙莉さんは親友なんだから。

「まあいいわ、たまになら付き合ってあげる」

「ありがとう」

「別にあんたが言う必要ないでしょうが」

「いやほら、これまでもさ」

　言えるときにちゃんと言っておかなければならない。

　正直、彼女からすればそんなことより物とかの方が嬉しいだろうけど。

「これからも一緒にいるのにその度にお礼を言うわけ？」

「そりゃそう感じたら何度でも言わせてもらうよ」

　彼女は呆れたような顔で「律儀な人間ね」と言ってきた。

　ちなみに珠花は「哲義は馬鹿」と何故か冷たかったのだった。