第3話 鈴音
「どうして鈴の音なの」
ボクは黒猫に尋ねた。
「ただの言葉遊びさ。鈴の音、
やけに饒舌だ。ヨミ先輩はボクより長く仕事をしてるからたくさんのことを知っている。首に下げた鈴も長年使っているものだろう。少しくすんでいるのがここからでもわかる。
「そろそろ時間じゃないのかアキ」
黒猫が屋根から飛び降りるので、ボクも渋々腰を上げて後を追う。
トン、トン、トン。
空中で大きく3歩ほど跳ねたところで追いついたので、並んで歩くことにした。
「新聞ちゃんと読んでるかいアキ」
「ちゃんとお悔やみ欄まで読んでるよ」
「どうせそこしか読んでないんだろ」
「四コマ漫画とテレビ欄も読んでる」
ヨミ先輩が大きくため息をついたのがわかった。何が気に入らないのだろう。
「この前の男が載っていたよ」
「誰のことだろう。もう忘れちゃった」
4月17日午後8時すぎ、○○市の住宅にいる男から、「男を殺した」と警察に通報がありました。鈍器で殴られた男は病院に搬送されましたが、まもなく死亡が確認されました。
その後、死亡したのは通報した男の義理の兄の岩倉タケシさん(53)と判明しました。警察は通報した弟で不動産業を営む綾瀬ショウヤ容疑者(45)を殺人の疑いで緊急逮捕しています。
二人は異父兄弟でこれまで面識がありませんでしたが、二人の共通の母親であるA氏が亡くなった際に、行方不明であった兄から連絡があり事件当日に会っていたそうです。
A氏の遺言には、行方不明の兄が見つかった場合には遺産を折半し仲良く暮らして欲しいという内容が記載されていました。このことから警察は相続を巡るトラブルが原因ではないかと考え捜査をしています。
「結局は兄弟仲良くしてほしいなんてお節介な願いが裏目に出たってことだよね。あのお婆さんがそんなこと願わなければ息子が死ぬことも捕まることもなかったのに」
「ってそんなこと言ってたら鈴の音を運んでるアキが責任感じちゃったりするのかな」
今日のヨミ先輩はよく喋るな。しっぽが大きく揺れている。
「ボクは気になんてしないよ」
「見かけによらず図太いんだねアキは」
「だって関係ないじゃないか。ボクはただ運ぶだけ。受け取った人が喜んでも悲しんでも、どうすることもできないのさ」
「まあ、それもそうだね」
「いっそのこと本当に死神だったら何かできるかもしれないのに」
ボクとヨミ先輩は今日もまた誰かの枕元に立つ。
そして鈴の音に思いを詰めたら、それを持って誰かの元へ。
なにをするわけでもない。
ボクはただ、それを運ぶだけ。
ボクはただ、それを運ぶだけ くらんく @okclank
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