(2)

 彼と、彼女と、三人でのドライブは、あまりにも楽しかった。充実した時間は、体感的には一瞬で過ぎ去る気がする。楽しい三人での想い出と、自分の頭の中に詰まった彼の顔や言葉を思い返すだけで、私はしばらくの間、幸福に浸ることができた。


 そして迎えた二回目の打合せ。前回では詰めきれなかった部分を相談しているだけで楽しい。仲良し家族のエピソードをいくつか設定・共有して、残りは自分で詰める。その段階まで進んだところで、打合せはお開きになった。ゲームの事前準備の一環で、私たち以外にも何組か既に遊んでいたらしいのだが、事前打合せが二回に及んだのは彼と私だけだったらしい。


 彼女とは、すぐに会う機会があった。他の友人と一緒にファミレスでゆるゆると過ごしながら、私たちは旅先のエピソードをシェアした。友人も彼のことは知っている。あそこで見つけた謎の銅像はなんだったんだろうね、このときの彼の言動が面白すぎた、あのお店は何を頼んでも美味しかったね、なんて。彼女と私は思い出話に花を咲かせた。しまいには、私たちの話を聞いていた友人にチーム名を名付けられるほどに、私たちは無邪気に楽しく幸せな想い出に浸っていた。彼の愛にあふれる姿を思い出せば、私はすぐに舞い上がるような心地になった。


 何度も自問した。これは、その場の勢いで浮かれているだけか?恋なのか?初めて見た彼のさまざまな顔に浮かれているだけなのでは?まぁそれが全部当てはまっているとしたら、やっぱり好きってことじゃなかろうか。じゃあ好きだという気持ちを認めることにして、気持ちを伝えるのか、伝えないのか。もし伝えたとして、それでどうする?付き合いたいのか?どうだろう。特に起こしたいアクションがないのであれば、伝える意味はないのではないか?うーん。


 彼、カッコ良すぎない…?なんて言葉が混じったメッセージを彼女に送った。返ってきたのは、楽しそうでいいねぇ、青春だねぇなんて感じの、生温いメッセージ。からかうでもなく、おちょくるでもなく、楽しんでいるような雰囲気をまとった、作り笑いのようなメッセージ。あんまり見ない反応だった。私は直感的に、あぁこの話は彼女にしない方が良さそうだなぁ、なんてことを思った。胸の内の葛藤は、自分の心にすべて閉まっておくことにしたのだった。


 ああでもない、こうでもないと、それはまぁごちゃごちゃと考えた。彼と一緒に活動する場面は多い。こういう恋愛感情みたいなものが、楽しい活動に影響するのは嫌だ。彼がそういうことを上手く切り分けられない質だとは思わない。もう学生ではない、いい大人だ。相手が告白してきたからといって、何か態度が変わったりするようなことは、ないと信じたい。でも、怖い。

 結局、それとなく彼とのメッセージに浮かれた気持ちを織り交ぜたり、随分とまどろっこしいことをした。往生際が悪いというか、なんというか。伝えたいなら、はっきり伝えれば良いのに。


 あぁ好きだなぁ、という気持ちを心の奥底に秘めながら、何事もなく日常が過ぎていった。

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私が愛を知るまで。 Liebe @liebe_sonne

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