たけやぶ

@7241

たけやぶ

祖母と暮らしていた


幼い頃の

私くしめの 生まれ育った


奥飛騨地方

山間の村での実話。


祖母のお家の周辺は


町名に「笹」 が つくほど

竹藪に囲まれた 土地でありました。



昨今、 もはや 「迷信」ですが


「竹やぶの そばに 住むと えぇんやよ。


竹はなも 、しっかり根を張りよって


地盤が こわい (硬い)んやわ」と


祖母は 竹やぶに 囲まれた 家の庭 からよく


竹林を 気持ち良さげに

眺め 話していたものです


当時、飛騨では有名な

「竹細工の匠」と 呼ばれ


竹細工のあらゆる物 (籠、家具)

芸術品のような素晴らしき作品を


制作しておりましてね


県内の小、中学高へ

伝承を受け継いでゆく


「講師」として 招かれたりする

爺様が 同じ町内に住み


「製作所」は 何故か?


自宅敷地内に


昭和初期の白黒映画に登場!


博物館に展示されてそうな


年代物の「大型バス」


爺様が うんと若い頃


バス会社の知人から 廃車にするときき


無償で譲り受けたもの。


後部座席(一列以外)は 取っ払い

「制作所アトリエ」にしておりました。


近所の子供らは

皆、その古いバスの珍しさに惹かれたし


匠のことは

「バス爺ちゃん」と 親しみを込め

呼んでおりました。


バス爺ちゃんの お家は

うちの3軒隣 (田舎ゆえに離れています)。


古き時代から

先祖代々、住んでおり


それはもう


竹細工で 「おもちゃ」を


魔法の如く

作ってくれました。


竹馬なども バス爺ちゃんから


教わったし


とても優しく


気さくな 人柄で


皺でくちゃくちゃになる 顔は

いつもニコニコ笑顔で


「あんばいいやら 、また、おんさい」と

口癖のように言う


素敵な バス爺ちゃんは


村の人々から

愛されていたし


幼馴染らと

頻繁に バスへ遊びに訪れたものです。


そして


「竹」を愛してやまない バス爺様と


その、 お弟子さん なる人が


町内 の 竹藪を 一年を通し 細目に


管理、手入れしており


その「竹林」の美しさときましたら



子供の目にも

日本の風情、情緒を感じられるほどでした。


さて


当然のごとく


幼き頃の 遊び場は 「竹やぶの中」


大きな やぶ蚊も なんのその!


空が 見えないほど 丈の高く 育った 竹が


左右に重なるように 生え


青々とした


竹の隙間から こぼれる木漏れ日が


地面に まだらの光を おとし


その光と影、対比の 綺麗さや


風が強く吹けば


鋭く甲高い音が 「カーン カーン」と

竹と竹が 風で


ぶつかる音が


竹林の中を 鳴り渡り


優しい風が吹けば


さやさや


ざさざ


ざわざわ


笹の葉が 擦れる音がします、、


聞き慣れないと


それは、まるで

ずっと、雨が降っているような音。


この「笹の音」を 物心ついた時から

聴いて育たものですから


大人になった今でも


笹の音や 竹藪風景を 見かけますと


心が 自然に 癒されるのであります。


これは

バス爺ちゃんと 体験した


ある初夏の「奇譚出来事」であります。




幼い頃の 私くしめは


絵本が大好な少女で


「竹」と 云えば


「かぐや姫」の お話しです!

あの物語に魅了されており


ある日

バス爺ちゃんに


「かぐや姫は いつ竹の中で生まれるの?バス爺ちゃんは、かぐや姫を見たことある?」と


何度も 目を輝かせ 聞いたものです


決まって バス爺ちゃんは


「あぁ、ある。いちょう秘密やけんど うちっとこの 婆っ様はな、竹から生まれかぐや姫やったんや」


まだ

純粋、純朴であった

幼い私くしは


バス爺ちゃんの 婆様(嫁)は


昔、この辺の 竹から生まれた

かぐや姫だったと 云われ


本気で 信じており


「えっか!誰ぞに この秘密を話すっと

婆さんは 月からお迎えが来てまって


月へ帰ってしまうもんで

誰ぞに 話したら いかんよ !」と


バス爺ちゃんと

約束を交わしましてね。


それでも、幼い胸の中は


夜が深まるほど


もう、誰かに


話したくて


うずうずして たまりません


我慢できずに

眠る前 兄に 話してしまったのであります。


兄は、ケタケタと笑い


「そんなんなー、嘘に きまとるやろ!」と


一喝され 相手にされず

話さなければ 良かったと 後悔。。


しかし、私くしは

信じており


このままでは


月から 婆様の お迎えが来てしまう

ではないかと


更に、不安で胸が一杯になった夜。


次の日

竹林深き 細い小道を歩いていると


見覚えのある バス爺ちゃんの

「軽トラ(三輪自動車)」が 側道に


止めてあり

竹を切り倒す 音だけが


カッ、カンカン

バサバサーンと静寂な 竹林の中から 響いていた。。


竹を「伐採時」は 、危険との理由から


竹林の中へは、子供らは


立ち入り禁止という

町内の暗黙ルールがあるが


昨夜、秘密を兄に 話してしまった


後悔と

婆様に 月のお迎えが来たらどうしょうと


不安な気持ちが

小さな胸を ざわざわ 駆り立ててくる。


そうだ!

「バス爺ちゃんに 一刻も早く 事情を話し

謝らないといけない 」と


私くしは夢中で

竹林の中のへ


その日は 強めの風が吹き

今にも 雨が降り出しそうな 灰色の空で


広い 竹林の中は


日差しがなく

薄暗 かった…


竹を切る音と


強風に煽られ


竹が

カーンカーンとぶつかり合い


笹の葉が ザザザッと 激しい音を立て


揺れ うごめき


遊び慣れている場所が


少し不気味に 感じられ


歩幅は どんどん 早足に大きくなった。


視界の先に ぼんやり

バス爺ちゃんの姿が 現れ


声を掛けようとしたとき


バス爺ちゃんの隣に

もう一人いて


見守り 寄り添うかのように

少女が 立っており


その姿は


絵本に描かれている 「かぐや姫」と同じ様な


真っ赤な 着物と金色の長い帯を


身にまとい


前髪は綺麗に短く揃い

真っ直ぐ伸びた 腰まである黒髪の姿、、


まるで

それは


頭の片隅で 小さな記憶が蘇る


母の実家で

桐の箱で 大切に 保管されていた


「亡き実母の形見」という


古いが

とても美しかった


「日本人形」に よく似ていた


それでも


その時は


きっと、バス爺ちゃんの お孫さんか

親戚の子かな?


などと 単純に 思いまして


けれど

不思議な事に


バス爺ちゃんと

少女の近くへ 行こうとしますが 何故か

突然、両足が 思うように動かず、すくみます


声までも かすれ 喉の真ん中あたりで

言葉が止められている感覚、、


バス爺ちゃんと「少女」は

会話を 交わす様子もなく


それどころか、バス爺ちゃんは

周りに 誰もいないかの如く


淡々と慣れた 手際で 竹を切って ゆく


その様子を

瞬きも 忘れるほど


じっと

見つめて おりましたら


少女が 不意に 振り向き


私くしに 視線を向けたと 同時に


「これー!竹切りの時は 危ないで 入ってはいかんやろー!」と


大声と共に うちの祖母が

竹やぶの中へ入って来た


視線を 祖母から

バス爺ちゃんへ


戻す

ほんの一瞬の間に


なんと、

少女の姿は 忽然と 消えていた


すると、声が戻り

足が動いた、、


近づいて来る

祖母を尻目に


一目散に


バス爺ちゃんのとこ へ駆け寄り


興奮気味に


「ここに今までおった !赤い着物の女の子は 誰? どこに行ったんやろ!」と問うと


急に 駆けてきて

現れた 私に驚きつつも


心配して 近づいて来る

祖母の手前もあり


「てぇいっ!危なーで!来ちゃいかんやろ!」と



珍しく、強い口調で促すも


「はて?始んめからっ、今まんまでよ、ワシ一人やて?誰もおらへんよ!」 と


やや困惑した表情を浮かべて言います。


その時点では

秘密のお話しを 兄に話し

月のお迎えが来てしまう事など


すっかり、忘れていた、、。


私くしは


祖母へ


「赤い着物と金色帯が美しい 女の子を 見たやろ?」と


ひつこく 何度も

聞いて くるものですから


やれやれ また!この孫娘は といった具合に


余談

(※不思議な発言やモノを、よく視たり それを普通に話す事が多い時期だったらしく

両親、祖母はそんな幼い娘の「発言」を 気味が悪く思っていた。感受性が高すぎるのでは?絵本の読み過ぎが原因などと心配してる背景があり)


「爺っさまと あんた以外、竹やぶの中に 誰も おれへんわ 、何たけーたこと言っとる、おそがいやろ!」と


祖母もいつなにく

感情的な口調で 返すが


私くしが

夢でもなく


この目で しっかりと視たもの


それは

日本人形に 瓜二で


真っ赤な

美しい着物と 金色に輝く帯


前髪が綺麗に揃った

長い黒髪の少女は


一体、何者だったので

ありましょうか、、


その「遭遇」のあとは


あまり 竹やぶの中へ 一人で訪れたり


幼馴染とも遊びに 行く頻度は減りましてね。。


ただ、不思議な感覚だけは

残っており


少女を視た時から

ずっと、以前に


何度か会ったことが

ある懐かしい気持ちがあるのです。


その感覚の理由は

分からないままですが、、。



私くしめ 幼少期の


「実話 体験 奇譚」で 御座いました。

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