第21話

 ――ゼンと言う名前は、奴隷になって初めてつけられたものだった。

 本名は亞真剣あまつるぎ 翡翠ひすい、幼いながらに異能力を持っていた無邪気な子供だった。両親からは程よい愛情と躾を受けながら、能力者である点を除けば普通の子供同じように育っていた。

 そんなある日、彼女達の元に訪れたのは汚い大人だった。能力を持つ幼い翡翠を奴隷として売り捌き、両親は臓器を売り捌こうと考えた輩だった。翡翠は拙い足で廊下を歩き、母親の名を呼んだ。その時には既に、母親の首には縄が括られ、父親は生き絶えていた。

 自分が死ねば子供は助けてやる、両親はそれを鵜呑みにした、その結果だった。

「愛してるわ翡翠、幸せになってね」

 母親の最後の一言が彼女の足枷となった。人を愛せない、愛を理解できない、愛を拒絶する彼女はこの日、この世界に生を受けたのだった。

 そんな彼女をオークション会場から助け出したリコルは、残されたヒントを元に本拠地へと向かった。頭の中に思い描くのは、かつて共に過ごした親友の姿だった。

 親友を殺すのは自分の役目である、殺した先……彼は、今の立場をゼンに譲る。しかしそれは同時に、自分の寿命を彼女に全て託す意味となる、彼女は生きるが、自分が生き抜く道はない。

 愛されない道を選ぼうとした少女は、自分を愛してくれた者のために体を張った。そして、愛を知らなかった青年は博愛主義を掲げながらも、呼応してくれた少女の為に命を散らすしか方法は無かった。

 それを知っているが故なのか、丽は哀れみ、美玲は苦笑した。

 モルテはぼんやりと空を眺め、時間が過ぎるのを待っていた。いっそ、帰ってこない方が良い、あの事件は二人のリーダーが死ぬことによって完結すると。タバコを吸いながら虚空を見つめていた。

 ――嗚呼、と血に塗れた幼い少女が声を漏らした。

 足元に転がる死体を蹴り上げ、そして優しく笑った。

「生まれることができなかった兄さん、姉さん、俺はやっと……――」


 パチリと弾けるような音と、花火のようなものが見えた。

 そうして、平和な世界はありなどしないと、誰かは満足気に身を投げ出した。

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真龍奇縁 華夢 @kyouka0711

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