第6話 キラーマシーン

 海賊達は困惑した。先程まで肩で呼吸をし、今にも死にそうな程ぐったりしていた夫が腹の傷を確認する様にさすり、そして何事も無かった様に立ち上がったのだ。


 夫は自身の身体に起きた事を確かめる様に傷口が有ったであろうお腹を見たり、手を見つめたりした。そして、突然起き上がった事に驚き固まった妻を見つけると直ぐ様抱きしめ涙を流している。妻は抱きしめられた事により夫が助かった事を理解するとそっと腕を回し抱きしめた。



 ーよかった。



 お互いを抱きしめ涙を流し、生存確認している姿に私は安堵した。--そして、この船を襲った悲劇の元凶であろう人物に視線を戻した。



 人相の悪い兄貴と呼ばれた男は驚きの表情を見せているものの私をジッと見つめている。

その姿とは対照的に周りにいる海賊達は動揺を隠せないでいた。勿論、兄貴の直ぐ側にいる私に指を指した海賊も顔を青くし慌てている。


 そんな手下の姿が癇に障ったのか兄貴は側にいた海賊の胸ぐらを掴み声を荒々しくあげた。



 「何ビビってやがる!あぁ!!・・・・・・・死にかけの男が治ったからなんだって言うんだ。見てみろ変な翼を付けているたかが女だ。殺せばいいだけの話だろ」



 そんな兄貴の力強い言葉を聞いた海賊達は目の色が変わり冷静になっていく。



 「あぁそうだ!たかが女だ。」



 1人の海賊がそう呟くと複数人の海賊が私を囲む様に動き不気味な笑を浮かべている。



 しかし、その行動は私にとって都合が良かった。動いた海賊の周辺には先程まで弄ばれていた女性や傷付き動けない男性が数多くいたのだ。--向こうから離れてくれたのは願ったり叶ったりである。



 --1,2,3,4,・・・・・・・10人



 私は自分を囲んでいる人数を数えるとその後方に待機している海賊に目を配った。

私の瞳に映る後方の海賊達は兄貴を含め6人いるようだ。



 数え終わったのと同時に空気が張り詰め重く感じた。これは殺気なのだろうか--肌にピリピリと刺激を受けているような感覚が全身を覆い緊張が高まる。




 ----そして、先に動いたのは私だった。右手に持つ剣を大きく横一直線に薙ぎ払い。私を中心に鞭の様にしなった剣は前方の海賊3人の首を斬り落とし、左右にいた5人の海賊の首から胴体を通過、そして、背後にいた海賊2名の胸から腰に掛けて切り裂いた。



 ----ズシャ



 狭い通路と違いこの広い空間では鞭の様に伸びる剣は正に凶器と化していた。そして、逃げた海賊とは違いこの者達は伸びる剣の事を知らない。初見で防ぐ事はまず出来ないだろう。



 「・・・・・・・うっ。」



 声を漏らしたのは背後にいた海賊の1人だ。傷が少し浅かったのだろう--しかし、地に伏していてこれ以上襲ってくる気配は無さそうだ。



 床に力無く倒れた10人の中心にいる私の顔は無表情のまま兄貴を見つめていた。そして、一歩ずつ足を動かし近づこうとしている姿はまるでキラーマシーンの様だ。



 そんな私の姿に恐れをなしたのか兄貴の側にいた海賊は「ひぃ〜」と声を上げ後退りを始めた。



 「何してんだ!早く行け!!」



 しかし、兄貴がそれを許すはずもなく腕を掴み身体を前に持ってくると背中を蹴り、勢いよく前進した。勢いづいた身体は体勢を保てず崩れ、膝を落とし手を床に着く状態で静止する。


 静止した海賊の瞳に映るのは、裸の女の足だった。海賊はゆっくり足から腰、胸へと視線を移し・・・・・・・そして、顔を拝んだ。



 土下座する形で見上げている海賊を私は無表情のまま見下ろしている。--海賊は身体を震わせ顔が何処となく青く見える。きっと今から起きることが容易に想像でき恐怖しているのだろう。しかし、私は許さない。何故だか分からないが許す事が出来ない。



 右手に持つ剣を大きく振り翳し、そして恐怖に怯えた瞳で私を見つめる海賊に向けて勢いよく振り落とした。



 ----ズシャッ!!



 海賊は恐怖の余り声も出せなかったのか何も発せず静かに地に落ちていった。



 「・・・・・・・バ、バケモノ」



 1人の海賊が私に向かってそう言葉を吐いた。虫を殺すかの様に無表情で剣を振り落とす姿が異様に感じたのだろう。



 兄貴以外の海賊は弱腰になり一歩後ろに下がっている。私はそんな姿にお構い無く一歩、また一歩と近づいて行く。そして、1人の海賊と目が合った。瞳が捉えた瞬間「あぁぁああ」っと声を漏らしながら背を向けその場から離れる様に走り出した。



 --そして、その行動に吊られる様に兄貴以外の海賊も生き延びようと走り出す。



 「お、おい!お前ら何処に行く!!」



 逃げる背に向かって言葉を浴びせる兄貴の目に映ったのは、兄貴の横を通過し逃げる海賊の背を容赦く追いかけ爪痕を刻む刃の姿だった。



 私は逃げる海賊の背に向けて瞬く間に刃を振るうと大柄の兄貴に向かって走り大きくジャンプした。ジャンプは大柄の男の頭より高く飛び身体に吸い込まれて行く。兄貴は倒れる海賊達から視線を逸らし私の姿を捉える為振り返ったが、時既に遅く瞳に映ったのは吸い込まれる様に流れ込んでくる私の姿だった。



 ----シュッ



 剣筋が横一直線に流れ首が綺麗に飛んだ。--ゴロッ


 床に転がる首の横で私は立ち尽くし、自分の手に付いている血を眺めている。


 終わった。


 この船を襲った悲劇が終わった。


 しかし、何故か血を見詰めていると嫌な気持ちになる。不快だ。

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女神様は世界を愛してる ねこ丸 @nekomaru_0418

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