第5話 醜い世界
階段を降り広く開けた空間に出ると私は思わず口走った。
「何ですかこれは?」
そう言葉を発した私の瞳には異様な光景が映っている。先程までは綺麗で煌びやかな世界を飛び感動していた。しかし、今目の前で起きている出来事はまるで真逆--気分が悪い、何をしているんだ・・・・・・・何なんだこの者達は?人間?悪魔?
思考を巡らす私のいる場所は、本来皆で楽しく食事をする場所なのだろう。だが、今は荒々しくテーブルや椅子などが壁際に追いやられ欠損し、もう料理を提供できる様な状態でない事が伺える。
「いやー・・・・・・・やめて・・・・・・・」
「・・・・・・・お母さん・・・・・・・お母さん・・・・・・・」
綺麗なドレスを強引に破かれた1人の女性が海賊3人に囲まれ、もがき足掻いている傍らで娘らしき少女が座り込み泣いている。そんな娘に海賊は「お前はこっちに来い」と腕を掴み強引に連れて行こうと声を荒げた。
「いや!・・・・・・・お母さん」
「やめて・・・・・・・娘は!娘は助けてください」
海賊3人に抑えられ身動きができない母親は必死に声を上げた。だがその声は届くはずも無く「うるさい黙れ」と言う非情な言葉として返ってくる。そして、母親に覆い被さっている男は悪魔の様な笑を浮かべ 「お前もこうなりたいのか?」と母親の顔を掴み強引に示唆する方向へと向けた。
「ゔぅ・・・・・・・あなた・・・・・・・」
目に映った姿は母親の夫だろう。腹部に大きな傷を負い今にも死にそうに小刻みに肩を揺らし「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・」と息を漏らしている。
夫を目に焼き付けられた母親は瞳に涙を浮かべるものの抵抗する気力を失ったのか口を閉じ静になった。
そんな夫と母親の傍らで海賊は娘の腕を掴み引っ張っていく。
「この娘は高く売れそうだ。あっちに連れて行け」
海賊は他にももがき足掻いている者達を横目に強引に娘を連れて行く。連れて行った場所には娘以外にも少女や少年が複数人固まり、近くの場所では奪った金品を手に取り笑を浮かべ騒いでいる物達がいた。
この広い空間には海賊が集まり、集めた金品や捉えた人を品定したり、欲望の捌け口にしているみたいだ。
--本当に最悪。この船に降りてくるまであんなに感動していたのに。
悲惨な光景を目の当たりにし、いろんな人の悲鳴や叫びが耳に纏わりついてくる。--あの者達はどうしてこんな事が出来るのだろう?悲鳴を聞いて嫌な気持ちにならないのだろうか?
そう思う反面私の目には怒りが宿っていた。
「おい!どうした?なんか喋れよ。あぁ!」
無口になった母親が気に食わないのか覆い被さっている海賊が声を荒げた。しかし、そのタイミングで海賊の背後から何か重たい物が床に落ちる音が耳に入る。--ドサッ
そして、違和感を覚えた海賊の視線には見覚えのあるモノが転がって来た。海賊の瞳に映っていたモノは背後で観察していた見慣れた仲間の顔。一瞬時が止まった海賊は状況を確認する為、恐る恐る振り返った。
振り返った先にいた者は見慣れない裸の女・・・・・・・そして、目に焼き付いて離れないのは神々しい翼、顔が気になり視線をずらすととても美しい顔をしているが無表情で此方を見下ろし、その目には怒りが宿っている様に見えた。
私は右手に掴んだ剣を大きく振り翳し覆い被さっている海賊を見下ろした。
海賊は呆気に取られ硬直していたが、斬られる事を理解したのか「あ゛あ゛ぁぁああ」と絶望の声を荒げた。
----ズシャ!!
肩から胸に掛け剣筋が綺麗に入り海賊は重力に吸い込まれる様に崩れ落ちていく。
その様子を見ていた母親も何が起きたか分からず硬直していた。ただ神々しい翼を生やした裸の女が目に焼き付いて離れない。
「だ、誰だ!」
私はピクリとも動かない亡骸から声の方に視線を移すと海賊達がわらわらと集まり鋭い刃物を構え此方を伺っていた。先程の絶叫で異変に気付いた様だ。
「兄貴!こ、こいつです」
声の主の方に視線を移すと其処には先程逃してしまった海賊が私に向かって指を指していた。その傍らには人相の悪い大柄の男が立っており棍棒の様な物を片手に持ち此方を睨み観察している。
「こいつがバケモノ?確かに変な翼が生えてるがただの女じゃないか?」
「本当にバケモノなんですよ!斬った傷もあっという間に治して」
必死に疑う兄貴に説明する姿を他所に私は視線を動かし、今にも死にそうな夫の姿を捉えていた。直ぐ様傷を癒す薬瓶を創造し手に取ると、すぐ側にいる母親に手渡した。
「これをあなたの大事な人に飲ませなさい」
母親は少し戸惑った様子を見せたが、死にかけの夫に目をやると覚悟を決めたのか直ぐ様近づき薬を少しずつ飲ませていく。--ゴクッー-ゴクッ
海賊達は目で追った。得体の知れない裸の女が何をしようとしているのか観察している。そして、その答えは直ぐ様分かり驚きの声へと変わる。
「ど、どう言う事だ・・・・・・・死にかけていたはずじゃ?何故立っている?」
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