第4話 バケモノ?

「女神様。助けて頂きありがとうございます」


 祈りを捧げ私を見つめる夫婦の瞳には希望が満ち溢れていた。--お礼を言われたからか、私の胸の内も暖かく感じた。


 しかし、安心はまだできない。先程海賊達は「船内から逃げて来たのか?」と口にしていた。まだ海賊達が船の中を彷徨いているに違いない--このまま飛び去ってしまったら、船内にいる海賊達に見つかり酷い目に合わされる・・・・・・・身を寄せ合いお互いを見つめ合う夫婦から視線を逸らし、私の身体は自然と迷い無く船内に向けて歩み始めた。



 「身を潜めていて下さい」



 その一言だけを残して


 夫婦は祈った。

歩みを進め遠去かる女神の背に向け祈り続けている。


 一歩一歩進む私の瞳には武装した者が倒れ、血痕が生々しく残り激しく争った形跡が見て分かる。そして、船内に入る入り口を道案内しているかの様に倒れている人の数も増えていった。


 入り口・・・・・・・こじ開けられた形跡のある扉の前に立った私は無表情のまま何の迷いも無く押して中に足を踏み入れた。-ギィィィイイ


 扉の空い鳴き声が響くだけで中は争いが無かったかの様にとても静だ。だが、瞳に映る景色は真逆の光景を映し出している。血飛沫が床や壁に飛び散った通路があり、武装した者が床に力無く倒れ、壁に背を付け動かない者が無数にいる。


 無念に散った亡骸を避けながら進む私の横には客室が一列に並んでいる。どの客室の扉も口を開け侵入を許し、所々で争った爪痕が残っていた。



 「クソ・・・・・・・何もいい物が残ってねぇ」



 私の耳に何処からか言葉が届いた時、2個手前の客室からネックレスを見ながら出てくる男の姿が現れる。片手に刃物を持ち客とは到底思えない様な服装からして海賊だ。



 歩みを止める事なく進む私に海賊は気付き目が合い一瞬硬直し言葉を「・・・・・・・だぁ」と発したのと同時に顔が少し斜め下を向いた。



 ------スパッ


 しまった!浅かった。



 「・・・・・・・うっ」


 海賊は一旦距離を取り胸を押さえ此方に身構えている。私も身構える為に両手で剣を握ろうとするが何故か左手に力が入らない。違和感を覚えた私は左腕に視線を落とすと前腕から血が垂れ、傷口が大きく裂けているのが目に付いた。----ガシャン。剣を落とし腕前を右手で掴み方膝を着いて私は叫んだ。



 「あ゛あ゛ぁぁああ」



 全身に痛みが走る。殴られたのとは違う全く別の痛みが・・・・・・・腕が熱くなり血が溢れ止まらない---イタイ!イタイ!イタイ!アツイ!



 「・・・・・・・はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・残念だったな。しかしなんだその背中にある物は?作り物か?」


 海賊は息を整えながら私の背中に付いている翼を観察している。しかし「まぁいい」と言葉を吐き捨てると海賊は止めを刺す為か近づいてくる。



 私は咄嗟に落ちた剣を右手で拾い横に薙ぎ払った。



 -----ガガガガガッ!



 狭い通路の壁を削り海賊の胸を切り裂こうと刀身が伸びる。しかし、キンッと甲高い音と共にその刃は胸を切り裂く事は無かった。



 「うわっ!危ねぇ!」



 海賊は思わぬ攻撃に驚きまた距離を置いた。



 「なんだ今のは!?剣が伸びた?」



 理解が追いつかない攻撃に困惑し此方の様子を伺っている。



 狭い通路だから壁が邪魔で刀身が伸びづらい---痛みに耐え、そう考えながら海賊の動向を観察し、剣を床に突き刺した私は右手に創造した傷を治す薬瓶を取り出し直ぐ様飲み干した。傷口は直ぐ様塞がり完治し、私は手を握ったり開いたり確認をしている。



 その様子を見ていた海賊の顔色が次第に青くなっていく。



 「き・・・・・・・傷が・・・・・・・なんで・・・・・・・バケモノ」



 言葉を発した海賊は急に怯え、私を見る目は恐怖を抱いている様に見える。---もしかしたらこの世界には傷を癒す魔法の様なものが無いのかもしれない。私はそう思いながら床に突き刺した剣を握り怯えた海賊に一歩近づいた。



 「た、助けてくれ」



 海賊の目には無表情で近づく得体の知れない女神が悪魔に見えたのだろう。発した言葉と共に地べたを這いつくばる姿で必死に走り通路の奥に逃げていく。しかし、私は容赦なく右手を振るい刀身が伸びていく



 -----ガガガガガッ



 刀身は通路の天井を荒々しく削り海賊の背中を追う。-----ガガガガガッ----ズシャン

重く切り裂いた音の先には通路正面の壁を切り裂いただけで海賊の姿は見当たらない。



 刀身が天井を削っていた事によるロスで、海賊は切り裂かれるより先に通路最奥にある階段を降りて逃走した様だ。


 私は逃げた海賊を追い階段を一歩ずつ降りていく。

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