第3話 初めての痛み
私は見ている。瞳に映る船の上で起きている事を観察している。
月に照らされチラチラ時折光る鋭利な鋼色の物を振り回しながら追いかける4人の男、助けてと叫びながら逃げ惑う女、背中を切りつけられ崩れる様に倒れる男。男に捕まり身に付けている物を強引に奪われる者達。
私は見ている。
私は見ている。ーそしてこの光景を見た事がある気がする。頭に霧が掛かっているようだ。だが知っている気がする。忘れているだけ?私は考えた、思い出そうと記憶を遡っていく。遡っていく内に少しずつ頭に掛かっていた霧が晴れていく。
そうだ!世界を漂流していた時、地球で見たことがある。
漫画やテレビ、映画で同じ様な光景が流れていた。これは撮影?確か海賊とか言ったような
「いや!助けて・・・・・・・お願い」
「妻を離してくれ」
夫婦と思われる2人は船体の端に追い詰められ海賊4人に腕を掴まれ引き離されていく
夫と思われる男性は必死に抵抗し叫んでいた。しかし、必死の声は海賊達に伝わる筈もなく
「うるさい!黙れ!」と言う希望と程遠い言葉で夫の元に返って来た。
「あぁぁぁあああああーーー!」
急に大声で叫ぶ夫の脚には鋭利な刃物が突き刺ささっていた。
突き刺した男は叫ぶ姿が楽しいのか笑を浮かべ刃物を動かし楽しんでいる。
「いやぁぁあああ!」
妻は苦しそうにもがいている夫を見て絶叫した!
私はそんな姿を観察しながら徐々に近づき船体に降りた。
海賊達4人はまだ私が近くに降りた事に気づいていないのか妻と夫に御執心のようだ。
私は翼を隠し海賊達4人の方に歩いて行く
「何をしているんですか?」
私が声を掛けると海賊4人は私を見て少し硬直したが直ぐに不敵な笑を見せた。
そして、夫を突き刺していた男が私に近付いてくる。
男は舐め回すような視線を送り笑みを浮かべ血塗られた刃物を肩に当てている。
「なんだ!俺らと遊びたいのか?・・・・・・・しかしえらい美人だな。しかも裸だ。船内から逃げて来たのか?」
私は興味があった地球での記憶を思い出したので撮影かもしれないそう思っていたー撮影じゃない?遊び?それにしてもなんか視線が気持ち悪い、それに似たような視線を他の3人からも感じる
「マジでえらい美人だな」
私の姿に興味を抱いた海賊3人も泣き崩れる妻と身動きが取れない夫を置き去りにして近づいて来る。その表情は不敵な笑みを浮かべ品定めをしている様な目をしていた。
・・・・・・・なんだこの男達気持ち悪い
そう感じながらも感情がまだ気薄な私の表情は無表情のままだった。視線だけを送り海賊達の行動を観察している。
「なぁ・・・・・・・俺達といい事しようぜ」
血塗られた刃物を肩に当てた男がニヤニヤしなが私に近づき手を掴もうと腕を伸ばした。
バチっ!!
嫌悪感を抱いた私は咄嗟に触れようとした腕を払い除けた!
「なんだお前!抵抗する気か!?あぁ!!」ードカッ!!!!!
その言葉と同時に私の頬に強烈な衝撃が走る。
初めて肉体を持った私にとって人生初の身体に走る激痛・・・・・・・痛みである。
イタイ!イタイ!イタイ!痛い!!!!!
何これ!?何が起こったの!?顔が痛い
殴られた頬に触れ初めての痛みを確かめている。そして殴った相手に視線を向けた。
無表情に見えるその目には力が入っている。
「おい!顔は止めろ!せっかくの美人なんだ勿体ないだろ・・・・・・・だがまぁ仕付は必要だな」
「あぁそうだな。顔以外を少し」
月光でチラチラ光る鋭利な刃物を振り翳し男は身体を切り刻もうとしている。
だが、切られそうになっている女神アイではなく男の口から声が漏れた
「・・・・・・・ぐぁ」ードサッ
男は漏れた声と共に崩れ落ちて行く
咄嗟の出来事に何が起こったのか分からず硬直した海賊達は私に視線を送った。
私の右手には先程まで持って無かった鋭利な剣が握られていた。身を守る為に咄嗟に想像し創造したのだ。
「何処から出した!?」
海賊達は身構え警戒している。それもそうだ・・・・・・・海賊達の前にいるのは裸の女、剣を隠すような物を何処にも身に付けていないのだから
そんな海賊達を私は観察しながら後ろで動けず苦しんでいる男性・・・・・・・夫に目をやった。
私は先程殴られた事で痛みを知った。私には分かる・・・・・・・きっと凄く痛いんだろう。頬を殴られただけであんなに痛かったのだ。今でも殴られた頬がジンジンして痛い。最悪の気分だ。
私は目に熱い物を感じながら無表情で海賊達に視線を戻した。
海賊達は鋭利な刃物を取り出し身構えている。警戒しているのか此方の様子を伺っているみたいだ。しかし、それも束の間・・・・・・・1人の海賊が指を差し手が震えている
「つ、翼が!!」
そう私の背中には神々しい翼が現れていた、そして無表情の筈の顔からは何処となく威圧的なモノを感じる。
「ば、化け物」
海賊達がそう口にし、私から離れようとした時私は右手に持つ剣を振るった。
手に持った剣は鞭の様にしなり海賊達の喉元まで伸びて行く。
ーーーーーースパッ
鋭い切れ味の音が響いたのと同時に海賊達の首が宙に舞い、よく飛んだ首の一つはそのまま海の闇に吸い込まれて行った・・・・・・・ポチャ
首がない死体を見る私は何も感じ無かった。ただ胸に手を当て嫌な気持ちが消えて行く事だけは感じた。
「・・・・・・・あなた!!」
私の瞳には先程まで泣き崩れていた妻が身動きがとれない男性に駆け寄る姿が映っている。
心配そうに足の傷を確認しているのが窺えた。
「・・・・・・・大丈夫ですか?」
そんな2人に近づき無気質な声で私は声を掛けた。
2人は私の事を警戒しているのか肩を寄せ合い様子を見ている。
血が・・・・・・・痛そう
私はそんな2人の姿よりも夫の傷口から流れている血が目に入り気になって仕方がない。痛みを知ったから余計気になる。
そ、そうだ私の力で治せばいいんだ
私は掌を胸まで掲げ想像した傷を癒す薬瓶が創り出した。それを掴み夫に飲ませようと薬瓶を差し出す。
「これを飲んでください」
しかし、夫は警戒しているのか中々飲もうとはしない。妻も心配そうに見ている。
飲んでくれない・・・・・・・どうしたら
そう考えている内に自分の頬にも痛みがあるのを思い出した。
とりあえず先に自分の痛みを消そう
手渡したのと同じ薬瓶を直ぐ様創造すると一気に飲み干した。
痛みは直ぐに消え、自分では気づいていなかった顔の腫れが引いて行く
腫れが引くのを目の当たりにした夫は遂に薬瓶を恐る恐る飲み始めた。
夫の傷口は瞬く間に塞がり何も無かった様な綺麗な肌に戻っていた。その様子を見ていた妻が私を見て口を開いた。
「もしや女神様ですか?」
「産まれたばかりの女神です」
ぎこちない笑顔を作り私はその問いに直ぐに返事を返した。
「あぁ!女神様」
夫婦は手を合わせ祈りを捧げた。
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