エピローグ 変わらない関係

 ―――7年後。


 俺と優菜は23歳になった。

 そこそこの会社に勤めて収入も安定している。もちろん去年、結婚式も挙げた。




 そろりそろり


 自宅の扉を恐る恐る開ける俺。

 時刻は夜の11時過ぎ。

 辺りはすっかり暗くなり、周りの家の明かりも少ない。


 何故こんなに家に静かに入るのか。


 今日は8時までに帰ると約束したのに、残業が重なりこんな時間になってしまったから。


 優菜はもう寝ている……いや、寝てないだろう。


 だって今日は……


「おかえり」


「た、ただいま」


 リビングに入ると、優菜が座って待っていた。豪華な夕食を前にして。


「えと、すいませんでした……」


「許さない」


「……で、ですよねー」


 どうやら今日中には許してくれなさそうだ。

 そりゃそうだ。結婚記念日なんだから。


「残業が続いて遅くなった……」


「誰が言い訳しろって言った?」


「はい……」


 超立腹ですな。

 優菜はツンと上を向いて、話を聞く気が無さそうだし。


 俺はネクタイを解き、深呼吸……で。


「あのなっ! 俺だって早く帰りたかったんだよ! でもな、急に仕事が増えてしまったんだよっ!」


「そ、それなら連絡くらいしなさいよっ! わ、私だって早くから準備して待ってたのに!」


「連絡できないくらい急だったんだよ。あの時は1秒でも早く帰れるように必死で」


「そんなの言い訳じゃない!」


 ギャーギャーワーワー

 言い合うこと数分後。


「ぜぇ、ぜぇ……」


「はぁはぁ……」


 大声で本音を言い合う。

 お互いに不満がある時、俺たちがとる方法だ。


 そして、言い合いが終わったら。


「優菜、おいで」


「ん」


 手を広げると、優菜が抱きついてきた。


「遅くなってごめんな」


「寂しかったけど……涼夜がこうやったって帰ってきてくれて嬉しい」

 

 ……やっぱり俺の奥さんは可愛いな。


 豪華な夕食を食べ、お風呂に入れば時刻は2時を回っていた。


「結婚記念日、過ぎちゃったね」


「6時まではセーフにしませんかね?」


「えー」


「お願いします!」


「じゃあ一つお願いごと聞いてくれる?」


「もちろん」


 お願いごと。なんだろうか?

 

「……子供が欲しい」


「……っ」

 

 仕事もようやく慣れてきて落ち着いてできるようになったのに、優菜とのセックスだけはどうしても余裕がなくて出来ていなかった。


「仕事を始めたら覚悟しとけと高校の頃に言ったのは誰かしら?」


「俺っすね。予想以上に忙しかったね、社会人」


 働くって改めて大変だと認識させられた。


「ねぇ、キスして」


「仰せのままに」


「ん、涼夜ぁ……」


 可愛い声で『涼夜』って囁かれただけでで股間にグッと響く。


 幼馴染で彼女で奥さんで。いつだって隣にいるのは優菜。

 この距離は変わらない。


「好きだよ優菜」


「私も好き……大好きっ」


 ギュッと抱きしめる。

 優菜も嬉しそうに抱きしめ返してくれた。


 来年の結婚記念日は3人がいいね、なんてことを呟き合いながら、俺と優菜は溶け合うようにずっと濃厚に絡み合ったのだった。




              



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【完結】「今更、好きだと言われても、もう遅い!」と放課後の教室で言ってみた俺。翌日、パワハラ幼馴染がめっちゃ甘々なんだけど……? 悠/陽波ゆうい @yuberu123

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