第9話 ガキ大将クラリッサ、フラグをへし折り、新たなフラグを立てる.3す



 お店の前に馬車が停めてある。


 帰宅して最初に思ったのはソレだった。


 ただ。


 アレ?随分と立派な馬車だなぁ・・・。あ、家紋入りだ!ということは、お貴族様かな?それにしても、貴族の馬車にしては随分と地味な装いかなぁ。


 でもまあ、二年前に散々見たブラマニールの馬車は無いね。うん、無い。無い無い。ただの成金趣味で無駄に豪華にしただけ感。草生えたよね。もう、ボサボサレベルで。


 それと超無意識レベルで比べてしまいました。


 ごめんよ、名も知らぬ貴族の馬車よ。


 「うーん?でも、この家紋、どこかで見たような記憶がー・・・」


 「お嬢、おかえりなさい!」


 「うえっ!?」


 うおっ!お、驚いた・・・、完ッッッッッッッッッッ全に考え事していて、自宅(クラムベリル商会本店)前だという事をすっかり忘れてた。ていうか!変な声が出ちゃったじゃないかっ!


 声をかけてくれたのは、二年前からクラムベリル商会に就職した従業員のベクターさん。緑の髪を短く刈り上げたメガネ男子。ちなみにイケメンで細マッチョ系。ぶっちゃけ、モテます。この人目当てでわざわざ『本店』に来る若い女性や若奥様方がいるくらいには。


 この人、その気になれば浮気や不倫し放題だよね。ウチの母さんなんて若々しくて美女で巨乳だから、狙われたらヤバくない?と最初に会ったときは思った自分もいました。


 でもね?この人、ぶっちゃけ、恋人いるんです。しかも美人。ほら、クラスに偶にいるじゃない?一見クラスの端っこ常習族なんだけど、よく見れば顔立ち、目鼻立ちが整っていて、あれ?実はこの娘、美人なんじゃない?っていうタイプが彼女さん(絶賛らぶらぶ同棲中)。しかも家庭的で甲斐甲斐しい。


 「ベクターさん、おはようございますっ」


 「はい、おはようございます、お嬢っ」


 「何度もみんなに言ってるけど、その『お嬢』っていうのやめてよー」


 「なに言ってるの、クラリスっ!」


 次なる刺客の声に、思わず体をビクつかせてしまう。恐る恐る振り向けば、かつて隣で大衆食堂を営んでいたエルナさんの愛娘、エイナおねーちゃんだ。ボクより七歳年上で、姉のような存在である。


 頭が上がらない存在でもあるけど。


 「ここの従業員みんな、アンタのことを家族のように大切に思って可愛がっているから、『お嬢』って呼んでるのよ!アンタは諦めてお嬢呼ばわりされてなさいっ!」


 「ええええええぇぇぇぇ〜っ!?」


 「ええええええぇぇぇぇ〜っ!?じゃ、なぁーいっ!分かったなら、はい、みんなにただいまと朝の挨拶!」


 はぁ〜、ほんと、エイナおねーちゃんには敵わないなぁ。お姉ちゃんっぷりにも板についてるし。


 「ただいま戻りましたぁ。皆さん、おはようございます!今日もお店を宜しくお願いしますっ!」


 『はいっ!お嬢!おはようございますっ!!』


 うぅー、やっぱり、コレ、慣れないなぁ。


 「「ねーたん、おかーりー!」」


 「クラリスちゃん、おかえり。随分早かったのね?」


 母さんがウィリアムスとマルグリットを連れて歩いてきた。


 「ただいま、お母さん!ウィル!マルー!」


 弟妹に駆け寄りギューっと抱きしめながら二人に頬擦りする。すると二人ともくすぐったがりながらも笑顔できゃいきゃいと喜ぶ。


 「クラリスちゃん、今日はヤンチャ会のほうは良かったのかしら?」


 「それがねー。聞いてよ、お母さん。ナッシュ達さぁ、ボクのパンツ見たいんだってさ。それで、なんか呆れたから帰ってきちゃった」


 「あら、そう?あの子達もそういうのに興味が出てくる年頃なのかしら?」


 元男だったボクの経験で言えば、スケベ化がお早いお猿さんなら、女子のパンツなどに興味を持つとは思うけどー。


 「お母さん、流石に五歳児の女の子のパンツを十一歳の男の子達はどうかとボクは思うよ?」


 パンツを見たい相手が同年代のエイナお姉ちゃんとかなら、まだ理解できないこともないんだけどね。


 まったく・・・。


 「揶揄い半分でパンツ見せてあげようか?って、少しスカートをたくし上げたら、全員食い入る様に見るから、初級光魔法を使って目眩ししている間に帰ってきたってわけ・・・ハッ!?」


 ヤバいっ!口に出してたぁっ!!背中にすんっっっっっっっごく、悪寒が走っているんですがぁーーーーっ!?


 「ふ〜ん?クラリスちゃーん?お母さん、とーーっても聞き捨てならないことを聞いちゃった気がするんだけどなぁー?」


 ガクガク:(;゙゚'ω゚'):ブルブル


 「クラリスちゃぁ〜ん?お母さんの聞き間違いかしらぁ〜?」


 ガクガクガクガク((((;゚Д゚)))))))ブルブルブルブル


 「お母さま!女の子として破廉恥な真似をして、申し訳ありませんでしたぁーっ!!」


 異世界で行う五体投地。


 クラリッサは、ザ・ど、げ、ざの構え。


 「くーらーりーすーぢゃあああああんんんっ????」


 しかし、母シャーロットには効果がなかった。


 「いいいいーっやあああああああっ!?」


 従業員の皆々様は平常運転でした。お粗末。




          ◆




 「いいですね?クラリスちゃん。女の子はいくつになろうともみだりに下着などを意中外の男の子には見せてはだめですからねっ!?」


 「ハイ、オ母サマ・・・」


 みっちり十分間、母さんにお説教されました。しくしく。


 「以後、気をつけますぅ・・・」


 シクシクシク。明日、アイツら覚えていろよぉーっ??(逆恨み)


 「奥様、お嬢に例の話をお伝えしないと・・・」


 助け舟を出してくれたベクターさんがメシア様に見えた。ボク、この人なら抱かれてもいいかも・・・。


 「クラリスちゃん」


 「なに?お母さん」


 「お父さんが帰ってきたら応接室に来るように言ってましたから、行ってきなさい」


 ?どういうこと?あ!外の馬車と関係あるのかな?


 「それじゃあ、行ってくるね」



          ◆




 んー。お貴族様がボクに用?普通に考えるとそれはないよね?


 「うーん。お父さんの用なのかな?わかんないなぁ〜」


 頭の中に疑問符が沢山浮かんで、浮かんで浮かんで、浮かびっぱなし。


 そんなままで、一階奥の応接室を目指して歩く。その途中にあるクラムベリル商会本店の『社員食堂』を通り越す。チラリ見ると食堂の女将エルナさんと料理人である旦那さん二人で和気藹々と準備をしている。


 「今日の日替わりはなんだろうなぁ」


 そうして食堂を通り過ぎて暫く、目的地である応接室に辿り着いた。


 中に居るであろうお客様を想定して、身嗜みをグルリと再確認する。よし、特に問題なしかな。


 でわっ!


 コン、コン、と応接室の扉を軽くノックしてから。


 「お父さん、クラリッサです。参りました」


 「クラリス、入ってきておくれ」


 父さんから返答があってから、直ぐに扉を開けて室内に入る。


 「失礼します」


 応接室内に進入して手早く扉を閉め、それから一呼吸おき、スカートの半ばを両手で軽くつまみ、緩やかに屈膝礼(カーテシー)をとって挨拶をする。


 「お初にお目にかかります。クローシュ・クラムベリルの娘クラリッサと申します」


 「ほう。未だ満五歳と聞いていたが、噂以上に見事な屈膝礼だな。うちの娘達より堂にいっているな」


 「ええ、本当に。でも、貴方?いくら我が領都で有名な麗しい天才児だとしても、我が子達と比べられるのはいただけませんよ?」


 「クラリス、いつまでもそのままではきついだろう?姿勢を戻してこちらにおいでなさい」


 知らない大人の男女二人から褒めちぎられてしまったが、父さんから許可を得たので姿勢を正し、近くに歩み寄った。


 そして、訪れた貴族が誰なのか把握する。


 「改めまして、私からもご紹介させて頂きます。私の愛娘、長女になります、クラリッサです。以後お見知り願います」


 貴族式の右手を胸元に当て、左手を腰の裏に置く一礼を優雅にこなす父さんに倣い、ボクも再び屈膝礼を行う。


 「お見知り願います、ダーヴィン・フィ・ハインスリン侯爵様」


 「ほう・・・」


 「あらあら、まあまあ」


 今日訪れた貴族は、ボク達の住むこの港街の領主様だった。


 ん?まてよ?それなら・・・。


 チラッと見れば、侯爵夫妻が座っている革張りソファーの左側にちょこんと座る一人の少女に気付く。


 あー、やっぱりかぁ・・・。


 そうだよねー。住む場所が激しく異なるけど、たしかに同じ街に住むならば居て当然になる


 「紹介しよう、クラリッサ嬢。我が娘、プリメーラ・フィ・ハインスリンだ。娘も君と同じ歳になる。良ければ仲良くしてやって欲しい」


 そう、たった今、侯爵夫妻から紹介された彼女こそ!にじいろプリズム、第一攻略対象、レオルート・ヴァン・グラスリンド第二王子の婚約者であり、クラリッサと正面きってやり合うことになる、ライバル『悪役令嬢』プリメーラなのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

多重次元世界シリーズ1 とりあえず、人気乙女ゲームの(超絶美少女)主人公に異世界転生しましたミ☆いや、ちょい待て、前世は体育会系ヲタ男子だったんだが? うすしoh @ususioh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ