其の五

 ”アヴァンティ”の入っている雑居ビルの裏手は、別のビルが建っていたのだが、つい最近になって、所有者が移り、取り壊しが済んだばかりで、猫の額ほどの土地には木で作った柵が設けられ、不動産会社の”土地を売ります。ご連絡は下記へ”という

お定まりの看板が風に揺れていた。

 

『ここなら良かろう』

 柵をまたいで俺が中に入ると、時空調整官の3人も、同じように中へ入った。

 幸か不幸か、この時間辺りには誰もいない。

『一つ聞かせてくれないか。君らは一体彼を何の目的で連れ去ろうっていうんだね。』

 俺の言葉に、先頭の一人が相変わらず渇いた抑揚のない声で、

『歴史を変えないためだ』

 と答えた。

『確かに、四十七士の中に、大石主税がいなければ、それだけで歴史が変わってしまうのは分かるが・・・・俺達は別に彼を返さないと言ってるわけじゃないんだぜ。元の時代に戻る前に、人として体験できないことをさせてやろうと・・・・』

 俺の言葉を途中でさえぎり、3人が一斉に例の武器の引金を引く。

 音も立てずに、青白い光が俺を目掛けて飛んでくる。

 身を隠すものは何もない。

 だが、俺はその蒼白い光を交わしながら、M1917を抜き、続けて2連射した。

 2発は確実に二人に当たる。

 一発は喉首に、

 もう一発は左肩を貫いていた。

 奴らは雑草の上に膝をつき、まるでデク人形のようにスローモーションで倒れ、そのままオレンジ色の光を全身から放ち、消えていった。

 残るは一体だけだ。

 俺は三発目を発射する。

 手ごたえは確かにあったが、奴はひるむことなく、俺に銃口を向け、青白い光線を連射する。

 

 俺は右腕と左ももに焼けつくような痛みを覚えた。

 コートとズボンが焦げている。

 俺は土の上に倒れ、思わず拳銃を落とす。

 奴は俺に近づくと、銃口をまっすぐ俺の額に向けた。

 

 その時、土を踏む足音がし、奴の身体が前にのめる。

 俺の視界のすぐ後ろには、主税君が小刀を水平に構えて立っていた。


『キ・貴様・・・・』奴が声を上げ、銃を持ったまま、後を振り返ろうとする。


 俺は半ば這いずりながら、拳銃を手に取ると、残りの弾丸タマを奴に撃ち込む。

 奴の目に表情がなくなった。

 ガラス玉のようにかすれ、口から意味のない言葉が漏れると、そのまま地面に倒れる。

 全身がオレンジ色の炎に包まれ、そのまま空気の中に溶け込むように消えていった。

 どこからかパトカーの無粋なサイレンが聞こえる。

 俺の意識はそこで

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 次に俺の目が開いた時、”アヴァンティ”のソファに横になっていた。

 幾ら人通りがないとはいえ、銃声が聞こえたんだ。

 誰かが110番でもしたんだろう。

 警官オマワリが二人やってきたが、俺が撃った3人の”時空調整官”とやらの身体は、もう既に消えていたから、連中も疑い深そうにしていたものの、それ以上何も調べようがなく、ママとバーテン氏が上手く誤魔化してくれ、その場は収まり、警官はそれ以上何も言わずに帰っていった。

 

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