其の五
”アヴァンティ”の入っている雑居ビルの裏手は、別のビルが建っていたのだが、つい最近になって、所有者が移り、取り壊しが済んだばかりで、猫の額ほどの土地には木で作った柵が設けられ、不動産会社の”土地を売ります。ご連絡は下記へ”という
お定まりの看板が風に揺れていた。
『ここなら良かろう』
柵を
幸か不幸か、この時間辺りには誰もいない。
『一つ聞かせてくれないか。君らは一体彼を何の目的で連れ去ろうっていうんだね。』
俺の言葉に、先頭の一人が相変わらず渇いた抑揚のない声で、
『歴史を変えないためだ』
と答えた。
『確かに、四十七士の中に、大石主税がいなければ、それだけで歴史が変わってしまうのは分かるが・・・・俺達は別に彼を返さないと言ってるわけじゃないんだぜ。元の時代に戻る前に、人として体験できないことをさせてやろうと・・・・』
俺の言葉を途中で
音も立てずに、青白い光が俺を目掛けて飛んでくる。
身を隠すものは何もない。
だが、俺はその蒼白い光を交わしながら、M1917を抜き、続けて2連射した。
2発は確実に二人に当たる。
一発は喉首に、
もう一発は左肩を貫いていた。
奴らは雑草の上に膝をつき、まるでデク人形のようにスローモーションで倒れ、そのままオレンジ色の光を全身から放ち、消えていった。
残るは一体だけだ。
俺は三発目を発射する。
手ごたえは確かにあったが、奴はひるむことなく、俺に銃口を向け、青白い光線を連射する。
俺は右腕と左ももに焼けつくような痛みを覚えた。
コートとズボンが焦げている。
俺は土の上に倒れ、思わず拳銃を落とす。
奴は俺に近づくと、銃口をまっすぐ俺の額に向けた。
その時、土を踏む足音がし、奴の身体が前にのめる。
俺の視界のすぐ後ろには、主税君が小刀を水平に構えて立っていた。
『キ・貴様・・・・』奴が声を上げ、銃を持ったまま、後を振り返ろうとする。
俺は半ば這いずりながら、拳銃を手に取ると、残りの
奴の目に表情がなくなった。
ガラス玉のようにかすれ、口から意味のない言葉が漏れると、そのまま地面に倒れる。
全身がオレンジ色の炎に包まれ、そのまま空気の中に溶け込むように消えていった。
どこからかパトカーの無粋なサイレンが聞こえる。
俺の意識はそこでとんだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次に俺の目が開いた時、”アヴァンティ”のソファに横になっていた。
幾ら人通りがないとはいえ、銃声が聞こえたんだ。
誰かが110番でもしたんだろう。
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