其の四
『それじゃ、行こうか』
俺はカウンターに金を置き、立ち上がった。
『どこへ行くの?』
ママが聴く。
『この場合、行くと言ったら、吉原ぐらいしかないだろうな?』
『吉原?!拙者、そのような悪所へは!』
主税君の語気が荒くなった。
『吉原と言ったって、元禄時代とは些か趣を異にしている。まあ、やることは、それほど変わらんが・・・・これから大事を成し遂げる人間を、なにもせずに送り出したとあっちゃ、現代人の名折れだ。君だって、息のある時にせいぜい楽しんでおきたいと思うだろう?』
『し、しかし、拙者は‥‥』
彼はまだ口籠っている。
『金の事なら何も心配はいらん。どうせ経費で落ちるんだ。そうだろ?』
俺はカウンターの向こうのママにウインクを送る。
ママは、しかたないわね、とでも言うように肩をすくめ、ため息をもらしてうなずいた。
『よし、話は決まった。じゃ』
俺がそういうと、今度はバーテン君が直ぐに反応し、カウンターの端にあった、固定電話の子機を手渡してくれた。
全員の目線が俺に集中する。
俺はボタンをプッシュして、ある一軒のソープに掛けた。
仕事柄、こういう店は何軒か知り合いがあるもんでね。
ひとしきり話を終えると、俺は子機をバーテンに返す。
『大丈夫、ちょうどいい娘がいるってさ。』
俺がそう言った時である。
店の扉が開いて、3人ほどの、異様な集団が入ってきた。
頭のてっぺんから、足の先まで黒づくめ。
黒い帽子に黒いワイシャツ。
黒ネクタイに黒いスーツ。
ははあ、分かった。
『何も言わずにその人物をこっちに渡して貰おう・・・・』中の一人が前に進み出て、無機質な声でそういう。
『何者かもわからない人間に、はいそうですかといって、客を渡すと思うかね?』
そいつは指で目の前の空間を、四角く切り取って見せる。
すると、そこに写真と、文字が浮かび出た。
『我々は26世紀からやってきたT.Pである。時空警察、又は時空調整官と考えて頂いても差し支えない・・・・』
随分と無機質な声だ。
主税君も立ち上がり、腰の小刀に手を掛ける。
俺はそれを押しとどめ、
『それほどSFには詳しくないがね。何となく理解はできる。要は歴史の歪みとやらを調整する仕事・・・・そうだろ?』
後ろの二人が、懐から何かを取り出した。
古典的な少年漫画に出てくるエイリアンが持っている、先の尖った銀色の光線銃だった。
『我々は暴力は嫌いだ。しかし事と次第によっては強硬手段も使わなければならない。それなりの権限も付与されている。大人しく言う事を聞いた方が身のためだぞ』
俺は他の三人に”何もするなよ”と言い、
『分かった。しかしやっぱりおたくらの話には乗れないな。しかし店の中でドンパチをやるのは無粋ってもんだ。表に出ようじゃないか。外でナシをつけよう。
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