Episode3 始まりを告げる音

 俺は校長が言ったことについて思案しながら教室に戻る廊下を歩いていた。

 校長は1ー3組以外の教室を施錠したと言った。


 では教室以外はどうなのか?

 生徒玄関、職員玄関、グラウンドに出るための扉。

 外に出るための扉の中で大きい部類に入る3つだ。

 もしこの3つの扉も全て外から施錠されていたら俺たちは校内に完全に閉じ込められたことになる。

 それを確かめるべく俺は今いる場所から1番近いグラウンドに出るための扉に向かうことにした。


 1階に降りて廊下を左に曲がったことろにある第1体育館に入る。

 この学校には体育館が2つある。1つ目は生徒玄関の反対校舎ある。もう1つの第2体育館は生徒玄関のすぐ隣にあるがグラウンドに出ることが出来るのは反対校舎の第1体育館だけだ。


 グラウンドに出るための扉を確かめる。

 開かない。


 俺はもう1箇所、職員玄関を確かめるために第1体育館を後にした。


 職員玄関の場所は生徒玄関から1年生の教室に行くまでにある。


 そして職員玄関に着いた。扉を確かめるが

 やはり開かない。


 こうなれば生徒玄関もおそらく開かないだろう。


 もう確かめることもないので教室に戻ろうとした時


『生徒の皆さんは今すぐ席について静かにしてください』


 校内のスピーカーから少し不気味で機械的な声が聞こえた。


『9時にまた放送をかけるのでそれまではお静かに』


 そこでスピーカーは途切れた。


 俺は職員玄関に置いてある時計を確認したことろ8時55分を過ぎていた。


 (また9時から例の放送が始まる。遅れたらどうなるか分からないし少し急いで戻った方がいいな。)


 そして俺は8時57分に教室に戻った。

 教室の中は静まり返っていた。

 俺よりも早く教室に戻ってきていたと思われる武内もどこか心配そうな表情をしている。

 おそらく教師が誰も来ていないことについては武内が話をしたのだろう。

 教室内の様子だと学校の外に出られないことはまだ誰も気づいていないようだ。

 それを今この状況で話すと更に混乱する恐れがある。

 しかしそこからさらに追い討ちをかけるように先程の放送だ。

 全員が明らかに異常なことが起きていると実感はなくとも感じ始めているはずだ。

 俺は気づかれないように1番後ろの自分の席に腰を下ろした。






 時刻は9時になった。

『それでは君たちにこれから始まることについて説明を始める』

 僅かに教室がざわつき始める。

『今からこの学校はワタシが作ったになる』

「ゲームの…舞台?」

 誰かがぽつりと呟いた。

 それを皮切りに一気に教室内が騒がしくなる。

「えっ??なになに?」

「はっ、なにかの冗談だろ」

「俺たちに楽しいホームパーティーでもさせるつもりかよ?」

「先生が来てないならウチら帰りたいんだけどー」

 それを聞いて訳が分からない者、笑い飛ばす者、興味を示さない者がいる。しかし皆どこかで不安を感じている。その不安を消すように強気になるが完全には消すことはできないようだ

 そしてそんなことはお構い無しとでもいうように放送は続く。

『そのゲームは人間をさせる』

 聞こえてきたことがどういうことか分からないのか首を傾けたりしている者が多い。

『より強く、より冷酷に』

『そして人をに厭わなくなる』

『殺されるくらいならば殺すようになる』

 もはや誰も喋ろうとはしない。ただ単に怯えているようだった。

『これから君たちには楽しいゲームをしてもらう』

『まず君たちの机に置かれている携帯端末について教えよう』

 クラスメイトが皆、恐る恐る携帯端末を手に取る。

 俺もそれに続くように携帯端末を手にした。

『まずは電源を入れてもらおう』

 放送の指示に従い携帯端末の電源を入れた。

 すると先程までつかなかった電源が入った。

 携帯端末を見てみるとロック画面で日付と現在時刻が表示されている。

『全員ついたようだね』

『その携帯端末は指紋認証になっている』

『ロックを解除してもらおう』

 言われるまま携帯端末のロックを解除した。

『次からその携帯端末を使う時は本人でないと開かないようになる』

 

 今、指紋が登録されたってことか。


「えっ?嘘、なにこれ」

 誰かが携帯端末の画面を見て驚いたような声を上げた。


 俺は携帯端末の画面に視線を落とす。


 画面には名前、歳、さらには生年月日まで表示されている。


 しかしそこから下の項目はまだよく分からない


 プレイヤーネーム

 ——彩瀬司

 歳

 ——16歳

 生年月日

 ——8月14日

 固有能力フォルス

 ——不明

 所持金

 ——1000万

 試練

 ——現在非開催

 残りプレイヤー数

 ——540人


『君たちは既にプレイヤーだ』

『このゲームは至ってシンプルだ』

『試練をクリアすること、そして生き残ること』


「何が楽しいゲームだ!ふざけんじゃねぇ」

「俺はそんなゲームなんかやらねーぞ」

「くだらない、私たちはもう帰る」

 そう言って何人かの生徒が教室を出ようとして扉に手をかけた。

 しかし、

「ちょっと何よこれ…開かないじゃない」

「何してるのよ!早く開けなさいよ!」

「やってるけど開かないのよ!」

 教室に閉じ込められた。その事実を知って教室内はさらに阿鼻叫喚の有様になった。


『そろそろゲームを始めようか』


 先程と変わらない放送の声が響く。


『その前に1つ』


『君たちにはゲームをするためのを与えよう』

 特別な力。おそらく固有能力フォルスのことだろう。

 そしてその力を使ってゲームに挑めということか。


『さぁ、どれだけ生き残れるかな』


『楽しいゲームを始めよう』


 それが聞こえたと同時に持っていた携帯端末の画面から眩しい光が放たれた。


 そしてその光を感じた瞬間俺の意識は途切れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戯空間の試練 漣 遥 @020916

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ