Episode2 人間の本質

 俺は1ー3組の教室から出てすぐに反対校舎に続く廊下を歩いていた。

 歩いている途中で他の組の教室で少し見てみたが3組と同じように担任教師が来ていないようだった。

 明らかにおかしい。

 それは1年生だけなのかもしれないがそれだったら武内のように職員室に探しに行くのが普通だ。しかし俺は誰1人として廊下を歩いている生徒を見ていない。それは教室で席に座って待っている時も同様だった。

 突き当たりの階段の着いたところで立ち止まって少し思案するがすぐに無意味であると結論付ける。


 今考えたことろで意味はないか。

 どうせ今から向かう場所に答えがあるはずだ。


 俺は階段を上がり2階に向かった。


 そして俺は2階のT字路の中心の廊下を歩いている。

 やがて突き当たりまでやってきてそこを左に曲がってそのまま歩くと理科準備室が見えてきた。

 俺は理科準備室を通り過ぎたもう1つの場所で立ち止まった。


 そこの扉を2回ノックした。


 しかし何も反応がない。


 もう一度ノックしようとした時、


「入りたまえ」

 と扉の向こうから声がした。

 俺は失礼しますと言って部屋の中に入った。


「やはり来たか、彩瀬君」


 そこには彫りの深い顔をした50代くらいの男がどこか嬉しそうにして椅子に背中を預け深く座っていた


 俺はその男が言ったことに対してあまり驚かなかった。薄々予想はしていた。


「今日この校長室に来たのは君だけだよ」

 その男、校長はそんなこと言った。


 俺が気になったことの2つ目は教室で待っている時に視線を感じたことだ。それは俺が生徒玄関に向かう途中と教室で待っている時の2回だ。

 1回目も2回目も俺が今いる場所、校長室から感じたのだ。


「そうでしょうね」

 普通の人間には遠くからの視線など感じることはできない。

 そして俺が校長室に入ってから言った校長の言葉から校長は俺がここにくることを分かっていたことになる。

 つまりこの校長は普通の一般人ではないということだ。

 俺のことは知られていると思った方が良さそうだ。


「君がここに来たということは私以外に教師が来ていないことについて、机に置いてある携帯端末についてを知りたい。そうだね?」


 校長はなぜ俺がここに来たのか知っているようだ。

 そしてそれを知っているということは校長は今日学校で起こっていることの関係者または首謀者であるということだ。


「えぇ、そうですね」

 俺はあくまでも内心を隠して淡々と返す。


 校長はそんな俺の態度が面白かったのか更に笑みを深め「君の質問に答える前に少しお話をしましょう」と言った。

「君は人間の本質とはどういうものだと思いますか?」

 いきなりそんなことを聞いてきた。

 俺は聞かれたことの答えを考えてみる。


 人間の本質。人間の持つ感受性、人間性、行動の原理。

 人間は自分にとって都合の悪いことが起きればそれから逃げ出したくなる。

 しかしそれが起きないようにしていてももしも起きたらというとこを想像してしまう。

 結果として本来の自分とは大きく離れる。

 本質というものは自分の考え方、周りの環境などで大きく変わる。


「分かりますか?人間という生き物は誰でも善にも悪にもなれる。これは自分に都合の良いこと、悪いことが起きた時に本質というものが現れるのです」

 校長の言ったことは俺が考えていたこととほぼ一致していた。

「確かにそうですね、人間は周囲に影響されやすいですから」

 俺がそう言うと校長はうんうんと頷いた。

「さすがは彩瀬君、私が望む回答だ」

 そう言って俺を賞賛した。


「さて、そろそろ君の質問に答えよう」

 校長の雰囲気が一気に変わった。笑みを浮かべつつもその目は一切笑っていない。

 俺は特に臆するでもなく話を促す。

「まず1つ目に教師が来ていない点についてだが、それは私が誤情報を流して全教師が学校人間来ないようにしたんですよ」

 やはり校長以外の教師が来ていないのか。

 2年生や3年生も俺たち1年生と同じ状況ということだ。

 しかし全教師を騙す程の誤情報とは一体なんなのか?

「そして2つ目の今君が持っている携帯端末についてですが」

 言われて俺は右ポケットに入れていた携帯端末を取り出した。俺は教室を出る時に持ってきていたのだ。俺が携帯端末を持ってきていることに気がついていたとは。

「それはこれから始まることに必須なのですよ」

「何が始まるのですか?」

 俺は校長に尋ねた。

 すると校長はより一層声を冷たくして

「ゲームですよ」

 と言った。

「ゲーム?」

「えぇ、ゲームです」

 それを聞いて俺は少し考えてみる。

 ただのゲームをするために学校1つ使うとは考えられない。

 つまり校長が言っているゲームというのは普通のゲームではないということになる。


 そして校長は声を元に戻して言った。

「それから私から1つ特別に教えてあげましょう」

「なんですか?」

「君はここに来るまでの間に廊下で誰一人として生徒を見ていない。そうだね?」

「それもあなたの仕業だと?」

「えぇ、君のクラス以外の教室は全員が揃ったタイミングで施錠したからね」

 なるほど。確かに鍵がかかっているなら誰ともすれ違わないはずだ。


「私から教えられることはもうありません」

 そう言うと校長は椅子から立ち上がって俺に近づいてくる。

「そうですか」

 ここで粘ってもこれ以上は何も聞けないだろう。

 もうここにいる意味もないか。

 俺は校長に浅く礼をして校長室の扉のドアノブに手をかけたところで校長から声がかかる。


「君には期待しているよ、彩瀬司君」


 俺は振り返らずそのまま校長室を後にした。






 私はしばらく彩瀬君が出ていった扉を眺めていた。

 やはり彼は他の生徒とは比べ物にならない程に完成されている。

 彼は今の状況に慌てるわけでもなく絶望するわけでもない。ただ今の状況を受け入れるだけだった。

「殺し屋のあるべき姿…か」

 私は自分でも分からないうちに呟いていた。

 そして私は改めて机に置いてあったある用紙を見る。

 そこにはこんなことが書かれている。


 本名 彩瀬司

 年齢 16歳

 殺害人数 15人

 得意武器 全て

 得意体術・武術 全て


 江戸時代から続く殺し屋の家系に産まれた。13歳という若さで一族が教えることは無くなった。あらゆる武器、体術武術に長けている。14歳から任務にあたっている。そして任務成功率は100%。正真正銘の殺しの天才である。

「彼にはもっと進化してもらわないといけない」

 彼がより強くなるためならば私は死んでも構わない。

 そして、


「これから始まるのは彼のための舞台なのだ」


 

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