戯空間の試練

漣 遥

Episode1 始まりの予兆

 問1"人は必ずしも善で居続けることが出来るか?"

 回答『否』


 問2"人は理不尽な環境に陥った場合どうなるか?"

 回答『自分だけでも助かろうとする』


 問3"人は特別な力を与えられるとどうなるか?"

 回答『傲慢になる』


 人は周囲の環境や状況次第で自身の考え方、価値観、他人の見方などが大きく変わる。

 そして残酷に冷酷に卑劣になり元の人間性がなくなる可能性がある。


 しかしそれらは周囲の環境に順応、適応していることを意味する。


 勝つためならどんな手段を使おうと構わない。

 負ければ全てを奪われる。

 過程なんてものはどうでもいい。

 結果が全てだ。






 いつも通りの朝の通学路をただ歩いてバス停に向かう。周りを見回して見ると、歩きながら携帯を見ている学生、友達や彼氏彼女と親しそうに話しながら歩いている学生や会社に遅刻しそうなのか忙しなく腕時計の時間を確認するサラリーマンなどがいる。

 朝8時過ぎのこの時間帯は通勤通学している人が多い。


 しばらく歩いているとバス停に到着した。

 相変わらずバス待ちの人が多い。同じ制服の生徒もいれば、違う学校の生徒もいる。これもいつもの光景だがバス停のベンチに座っているOLらしき女性とその隣に杖を立てて座っている老人が雑談をしている。

 ベンチの端の方に腰を下ろしてバスが来るのを待つ。鞄から携帯を取り出し時間を確認するともうあと数分でバスの到着予定時刻になる。


 それから特に何をするでもなくバスの到着を待った。

 そして到着予定時刻になりバスが来てそのバスに乗り込んで学校に向かうのだった。






 学校前のバス停でバスを降りて校門に向かおうとして右後ろの電柱を確認する。

「…」

 気のせいか。

 突然立ち止まったことに気になったのか周りの生徒の幾人かが視線を向けてくる。

 何もなかったかのように歩き始めると周りの生徒も首を傾げてまた友だちなどとの雑談に戻る。

 そのまま校門へ続く坂を歩いて行く。


 そして生徒玄関で靴を履き替えて自分のクラスの教室に向かう。

 1ー3組の教室に着いて教室の中に入ろうと前の扉に手を掛けたとき教室の中の雰囲気が妙な感じたがした。

 教室で何かあったのだろうか?

 少しだけ考えたが、今考えても仕方がない。

 どうせ中に入ればわかるのだから。


 教室の扉を開け入って先に来ていた生徒の1人を見てみると手に持っている携帯端末を不思議そうに見ている。

 教室の中をよく見てみると全員の机に携帯端末が置かれている。


 自分の席に腰を下ろして机の上に置かれている携帯端末を確認してみる。


 電源がつかない。


 周囲を見ると全員の携帯端末が電源がつかないようだ。


 今日、この携帯端末を使ってアンケートかなにかをするのかもしれない。

 先生が来ればなにか教えて貰えるはず。

 現在時刻は8時20分。8時30分になれば先生が来るはずだからそれまでは待つことにするか。


 時刻は8時30分に迫ろうとしていた。この時間帯になると生徒玄関が閉じられるのでほとんどの生徒が登校を完了して自分の席に座っている。


 そして時刻は8時30分になった。普段ならこの時間に担任教師の橋本先生が教室に入ってくる。

 しかし今日は、時間になっても先生が来ない。

「なにかあったのかな?」

 先生が来ないことに疑問に思った武内が口を開いた。

 武内健太。1ー3組のクラス委員長の1人。文武両道で男子にも女子にも優しく平等に接するクラス1の人気者。

「遅刻してんじゃねーの」

 それに対して答えたのは城波龍希だ。彼は粗野な口調や振る舞いが目立つがこのクラスで勉強も運動も武内に次ぐ能力がある。

 武内はそれを聞いて少しだけ考えたあとうんと頷いて「確かに。少し遅れてるだけかもしれないしね」と言った。


 現在時刻は8時40分を過ぎていた。

 さすがにこの時間になっても先生が来ないことに疑問を覚えない生徒は居ない。近くの席の生徒と話している者や席を立って仲の良い友達の席に移動して話している者もいる。

 俺はクラスメイトが話していることを聞いてみた。すると先生は今日は欠席していてその連絡がとどいていないだけという意見や今日は学校が休みだったというような行き過ぎた会話が聞こえてくる。

 そこで武内が壇上に上がってクラスメイトを静かにさせた。

「ちょっと皆いいかな?」

 そしてクラスメイト全員に聞こえる声で聞いた。

「武内君、どうしたの?」

 女子から疑問の声が上がる。

「僕は今から職員室に行って橋本先生が来ているか見に行ってくるけどその間にに先生が来たら探しに行ったって伝えて欲しい」

「分かった、任せといて」

「うん、よろしくね」

 そう言った武内は教室を出て職員室に向かっていった。


 そして俺は席に着いて先生を待っている時に気になったことが2つある。


 1つ目は"いつも鳴るはずのチャイムがなっていない"ことだ。

 いつもなら8時35分に鳴るチャイムがあるが今日は鳴らなかった。

 これに関しては他にも何人かが気づいているかもしれない。


 だが俺が思った2つ目の気になったことは恐らく誰も気づいていないと思う。

 なぜならそれは俺でもまだ確証が持てないからだ。

 ただ俺の思い違いかもしれない。

 俺はそのことを確かめるべく教室をあとにしてある場所に向かうことにした。


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