歯車が動き出すとき


「・・じゃあ、今までのトンプソンさんに話をまとめると、自分達が書く記事は、新聞には載せねえってことか?」アルフレッドが一連の話をまとめる。


「そうなんです。組織の方々にとって、都合の良いことしか書かせない。いくら私が、真実を書こうが、出版されなければ意味がありません・・。」トンプソンさんは、どうやら自身が働く新聞社で、自分の記事が中々載せてもらえず困っていたようだ。


「・・そうですね。例えば、こちらの、出版社社員の横領についての記事ですが、この出版社の管轄をする組織は、No.77地方組織ですね。実際横領していた社員というのは、No.77組織の者です。この間の会合で、この方の話が出ましたので知っています。ですが、この新聞では、組織の人間だとは明かさず、あたかもここの出版社の社員であるかのように記載されている。」エドワードは、テーブルの上の新聞の一つの記事から、知っている情報を話す。


「なるほど。組織からしたら、組織の失態だなんてしたくねえよな。だから、別にこいつの名前も明かす。こいつは組織の人間なんかじゃねえってな。組織を裏切る奴もしくは、失敗を犯す者には、容赦しねえ。それが今の組織体制の裏だ。」アルフレッドは、どうやら組織についてかなり詳しかった。



「・・・それで、私は、一人友人を失いました。彼は、組織体制を憎み嫌っていました。そして、彼は、組織の実態を新聞として出版しようと尽力しましたが、それが組織にバレてしまい、無惨にも暗殺されました。どうか、彼の二の舞には、なってほしくありませんっ!・・私なんかのために、動いてくださるのは有り難いことですが、

もし、お二人に何かあったら、私は!」トンプソンさんは、過去のトラウマからか、二人が何か行動し、組織に消されるのを恐れていた。


「安心してくれよ。俺たちは、平気だ。合法的に解決する。」アルフレッドは、トンプソンさんを安心させるように、肩に手を置いた。



そうして、トンプソンさんは、二人に何度も何度もお辞儀をして、仕事のために、次の駅で下車して行った。



────



「・・アルフィーさん。本当に合法的に解決できるとお考えですか?」トンプソンさんがいなくなった席で、二人の顔はあまり優れていなかった。

「・・いいや、五分五分だな。証拠がなければ法では裁けねえ。組織の連中は、証拠を必死に隠している。だが、それを見つけたところで、ボス組織が黙っているとは思えないがな。」エドワードは、またもや違和感を覚える。


「貴方、随分と組織について詳しいようですが、何か組織と関係でも?」エドワードは、思い切って質問する。


「はは、お前にしちゃ、単刀直入に質問してくるじゃねえか。お前の観察力を持って、俺をどうとでも推理しろよ。」アルフレッドは、エドワードに期待の目を向ける。


「貴方に関しての情報量が今の所少なすぎて、断定的な判断はできないですね。ですが、ただ一つ言えることがあります。」エドワードは、アルフレッドの顔をじっと見つめ、アルフレッドはエドワードの言葉を待つ。


「貴方は、組織の人間では無いが、組織と何かしら関わっているように見えます。」エドワードは、キッパリ断言する。

「そりゃまた、なんでだ。」

「貴方が組織体制を良く思っていないことは、今までの言動で明らかでありますが、もう一つは貴方の顔つきを見れば分かります。」エドワードはそう言って、アルフレッドの目を見つめる。

「ほほう。」アルフレッドは、満更でも無い顔をする。

「貴方は気丈で賑やかな振る舞いをなさっていますが、一方では何かに囚われているようですね。そして、大空に飛ぶ鳥のように、自由に飛び立ちたいと思っている。貴方はそんな顔つきですよ。」エドワードらしからぬ回答であった。


「自由に、飛び立ちたいねえ・・。」アルフレッドは、考え込むように目線を下げる。




「ん?エドワードか?」すると、たまたま通りかかったのか、ディヴィッドの姿があった。


「兄さん。すみません、少し知り合いの方と出会いまして。」エドワードは、席を立ってディヴィッドの方へ体を向ける。


「ああ、なるほど。貴方は・・?」ディヴィッドは、アルフレッドの方を向いて、顔を傾げる。

「兄さん?あんた、エドワードの兄貴か!俺は、アルフレッド・ウィルソンだ。よろしくな!」アルフレッドは、ディヴィッドに握手を求める。

「私は、ディヴィッド・ジョン・ホワイト。よろしく。」ディヴィッドは、アルフレッドの手を取り握手する。


「兄さん、ちょっとこれから、二人でやらなくてはならないことがあるんです。目的地に着いたら、少しアルフィーさんと出かけてもかまいませんか?」エドワードの言葉に目を見開くディヴィッド。


「・・あ、ああ、いいよ。好きにしたまえ。彼らには、きちんと事情は話しておくよ。」ディヴィッドは、少し戸惑いながらも返事をする。


「すまねえな、ディヴィッドさん。ちょっとした野暮用だ。」アルフレッドは、あえてトンプソンさんの件について話すことを控えた。



「いいや、大丈夫だ。エドワードが、そんな頼み事をしてきたのは、初めてでね。

少し戸惑ってしまっただけなんだ。」今までエドワードは、ディヴィッドと共に何かをすることが多く、自らディヴィッドに許しを請うことはなかった。


「なんだよお前!今まで友達とかいたことねえのか!」アルフレッドは、にやにやしながら、エドワードの肩に腕を回す。

「ちょっと!アルフィーさん!苦しいですよ!!それに、友達なんて、貴方だっていないでしょう!!」エドワードが、ここまで他人に心を開いている姿を見て、ディヴィッドは内心驚きつつも安堵の気持ちが大きかった。


「(エドワード・・。こんな顔を見たのは、初めてだ。)」ディヴィッドの目は、少し潤っていた。


「いいや!今は俺だっているさ!隣にな。エディお前だよ。エディは俺の親友だ。」アルフレッドの真剣な顔つきに、エドワードは少し困惑する。


「親友になった覚えはありませんが?知り合いというカテゴリーで収めておいてください。」エドワードは口ではそういうものの、心の中では、彼を友人として認めていたのだ。



「ほんっと、堅苦しいよ、お前!」

「だから!!苦しいです!離してください!」エドワードとアルフレッドはしばらく少年のように戯れていた。


ディヴィッドは、そんな様子を目に焼き付けていたのだった。

今だけは、彼に普通の幸せをと願いながら。



──────


二人は目的地へ着くと、駅前でディヴィッドたちとは別れた。



「トンプソンさんの件で、お前の住む町まで来たけど、中々自然豊かな場所だな!」アルフレッドは、生まれ育った場所が中心都市なため、田舎町である田園風景などに憧れを抱いていた。


「そういえば、聞きそびれましたけど、貴方はなぜあの列車に?」エドワードたちは、トンプソンさんの件で話し合うために、町のカフェへと向かっていた。


「・・いや、大したようはなかった。ただ、少し都市から離れたかっただけなんだ。」アルフレッドの顔の表情が少し暗くなった。


「なるほど。そんな時もありますよ。」エドワードはこれ以上は何も聞かなかった。






「いらっしゃい、エドワード坊ちゃん。しばらくだったねえ。」エドワード行きつけのカフェへと入ると、白髪でタバコを咥えたいつものお婆さんが店のカウンターにいた。


「アメリアさん、いい加減坊ちゃんはやめてくださいよ。僕も立派に二十歳を迎えた成人です。」エドワードは、コートを脱いで、いつも席へと座る。


「え!?お前、二十歳だったのか!?」アルフレッドは、驚きの目を向ける。

「ええ。」エドワードは、何食わぬ顔で席に着く。


「いやいやいや!お前、俺と同い年かと思っていたぜ。年下だったのかよ・・。」アルフレッドは、エドワードが自分と同じ22歳だと勘違いしていた。


「僕は、アルフィーさんが年上なのは、おおよそ予想していました。」

「だから、ずっと敬語だったのか。ま、よくよく見れば年下かもな。頭脳はともかく、まだ容姿にあどけなさがあるもんな。納得納得・・。」アルフレッドは、エドワードの顔やら体やらを全て、舐め回すように見る。

「な!なんですかそれ!やめてください。」エドワードは、少し顔を赤らめた。


「それは私も思うさ。坊ちゃんは、美形だからねえ。ほら、あそこの二人組の女子たちを見てご覧よ。」アメリアさんは、エドワードたちに淹れた紅茶を運んでくる。



「エドワード様に会えるなんて!今日は奇跡よ!!」

「噂では聞いていたものの、あそこまで美しいなんて!私、今日が命日でもいいわ!!」

「顔も良し、頭も良し、それに性格まで温厚で優しいでしょう?もうなんて完璧で素敵なお方なのでしょう!」


カフェ内にいる女子たちは、エドワードにメロメロだった。


「ったく、モテモテだな!」アルフレッドは、皮肉っぽく言った。

「じゃあ、ごゆっくりしていきな。」アメリアさんはそう言って、カウンターへと戻った。



────


「それで、早速本題に入りますが、トンプソンさんが働くベイカー出版社はこの地にあり、管轄はNo.30組織です。田舎町にしては、少々上の組織が管轄していますね。」エドワードたちは、作戦会議を始める。


「ああ、組織の命に関わることだからな。出版社は特に、何がなんでも上の組織が管轄しなきゃだろうな。勝手に誰かが、思わぬことを世間に広めちまえば、大参事になりかねない。そりゃ必死さ。」


「一番合法的な方法は、No.30組織本部に潜入し、組織に関わる事件全てを捏造している証拠を見つけるやり方です。ですが、そんな証拠、見つかるとは思えませんけどね。」エドワードは、少々無謀だと思っていた。


「ああ、だが、それしかない。”あいつ”のように、組織殺しをすれば、確実に証拠を回収できるし、組織体制崩壊に近づけるかもしれないが、どんなに組織の連中が腐っていようが非道な野郎でも、殺しはダメだ。」アルフレッドは、あくまで合法的に解決をしようとしているのだ。その意見を聞いたエドワードは、彼とは馬が合うが、根本的な考えは違うと認識した。


「もちろんです。一度人を殺してしまえば、その者は悪と化しますから。」

エドワードは少し儚げに笑った。

「・・・」


バンっ‼︎


すると、いきなり銃声がカフェ内に響き渡り、男数名がカフェ内を占拠した。


「おめえら大人しくしてろ!!変な動きでもしてみろ。容赦無く撃つぞ!」リーダーらしき人物が、二発ほど天井に撃ちこむ。

客たちは、皆突然の出来事で、恐怖でテーブルの下に隠れる。


「・・どうやら、強盗犯のようですね・・。」エドワードたちは、テーブルの下から男たちの様子を伺う。

「ああ、情けねえ連中だ。さっきの婆さんから金を巻き上げるつもりらしい。」アルフレッドも、よく状況把握をしていた。



「婆さん、店の金全て出せ!!!」リーダーの男は、アメリアさんに銃口を当てて脅していた。


「金ならやるよ、だけど、なんだって年寄りが生きがいにするカフェでこんな騒ぎを起こすんだい。わたしゃ、お客さんたちを笑顔にするためにカフェを営んでいるんだよ。こんな怖がらせるためではない。」アメリアさんは、レジからお金を取り出して、男に渡すが、果敢に男たちに言い放った。


「そりゃあ、素晴らしい考えだな。だが、俺たちは、てめえの事情なんて知ったこっちゃねえ!!さっさと金を出しやがれ!!!!!」男は、銃でアメリアさんの顔を殴った。



「っ!!!!」それを見たエドワードは、怒りが心の底から湧いてきていた。

「アルフィーさん。銃持ってますか?」エドワードは、感情的になりそうなところ、冷静になるよう心を落ち着かせていた。

「ああ、もちろん。ありゃ許せねえ。俺たちで成敗するしかねえようだ。」アルフレッドが周りを見ると、皆恐怖で震え上がっていて、どうにもできないという雰囲気であった。



「では、僕が先に。アルフィーさんは、僕の合図で。」エドワードは大して会話は交わさないが、確信していた。アルフレッドが自分の思う通りに動いてくれることを。

「了解よ!」アルフレッドは、テーブルの下から、エドワードの合図を待つ。


エドワードは、テーブルの下からそっと出てくると、背を向けている男たちを物陰から見つめる。


「(リーダー合わせて、全部で6人。持っている銃は、皆リボルバー。それぞれ六発程度だろう。リーダーは既に、店内に入ってきた時に一発、そして天井に二発撃っている。残りの弾数は、三発。それさえ避けれれば、行ける。)」エドワードは、状況を見ながら、事態を確認する。そして、エドワードはアルフレッドの方へ目線を向ける。



「”僕が、行ったら”  ”貴方は、5人を狙ってください” 」エドワードは、ジェスチャーでアルフレッドに伝える。


「ラジャー。俺は、ここから5人を狙えば良いんだな。撃たれるなよ、エディ。」アルフレッドは、エドワードの作戦を十分に理解していた。


「・・・」アルフレッドが、銃を構えたのを確認して、エドワードは一気に物陰から飛び出す。


「「「「「!!!」」」」」


リーダー以外の5人が、エドワードの存在に気づいた時には、五発の銃声が響く。

「一丁あがり〜♪」アルフレッドは、5人に向かって正確に銃弾を撃ち込む。


「なんだ!?!?てめえ!!!!!!」リーダーもその銃声で異変に気づいて振り向くが、すぐそこには冷徹な目をしたエドワードが迫っていた。


グサッ!!


リーダーの男が銃を構える隙も与えないほどの速さで、エドワードは自身の剣で肩に突き刺す。


「ぐはっ!!!!!!」


その場に、強盗犯たちは倒れる。


「安心してください。急所は避けていますから。」エドワードは、平気な顔で辛辣なことを言った。


「もうすでに警察が、ここを包囲している頃だぜ?それまでの時間を俺たちが稼いだってわけだ。観念しろ。」アルフィーもテーブル下から立ち上がり、銃を弄って言った。


「クッソ!!」男たちが悔しそうにしているところへ、警察がぞろぞろとやってきて、強盗犯たちは見事逮捕された。




──────


「さすが!エドワード様ね!!とってもカッコ良かったわ!!」

「ええ!!相手が銃を持っているのに、剣一つで挑むなんて勇敢すぎるわよ!」


事件後、カフェ内では、エドワードを称賛する人たちでいっぱいだった。



「いえ、僕だけでは無理でしたよ。こちらのアルフィーさんあっての、勝利ですから。」エドワードは、隅っこでタバコを吸っているアルフィーを引っ張ってきて、皆に事実を教える。


「まあ!!あれは、貴方の銃捌きでしたのね!」

「エドワード様とは、どんな御関係にあって?」


押し寄せてくる婦人たちに、アルフィーは苦笑しつつ戸惑う。



「エドワード坊ちゃん。ありがとう。おかげで誰も怪我なく済んだよ。」アメリアさんは、にっこりとエドワードに微笑むが、その頬には先ほど殴られた痣があった。


「”誰も”ではないではありませんか。アメリアさん、至急医務官をお呼びします。」エドワードは、その痣を見て顔を歪めるが、すぐに医務官が来るように手配する。

「いいんだよ、こんな傷くらい。長く生きていれば、傷つくことはいっぱいあったんだからね。だけど、これだけは覚えておくれ。世の中生きていれば、理不尽なことはたくさんある。だけど、どうしようもない時もあるんだ。そんな時は、静かにじっと待っているのが得策なんだよ・・。」アメリアさんの意見は、確かに正しいが、エドワードは腑が煮えくりかえる気持ちでいた。





──────


「今日は予想外の事件で、本題の話ができなかったな。」その日の夜、エドワードとアルフレッドは、街のバーでお酒を飲んでいた。


「ええ、ですが、貴方が銃を所持していなかったら、今頃この街は大変でした。

改めてありがとうございました。」エドワードは、アルフィーに感謝の意を述べる。


「いーや、お前のおかげでもあるさ。それに、エディとは、互角の頭脳を持っていると思ってはいたが、まさか戦闘コンビもできるとはな!息ぴったりだったよな!」アルフレッドは、嬉しそうに笑う。


「それ自分で仰いますか。」エドワードは少し呆れつつも、ふっと笑みをこぼす。


「やっぱお前と出会えてよかった!ここまで楽しい奴はいねぇし、お前と推理し合うのも面白かったしな。」アルフレッドは、少し寂しそうな様子だったが、エドワードと出会えたことに心底嬉しく思っていたのだ。


「・・・ええ、僕もです。」小さく呟いたエドワードの言葉を、アルフレッドは聞き逃さなかった。


「お!やっと認めたな!俺が親友だって!」アルフレッドは、酔いが回ったのか、エディの肩に腕を回し、ニヤニヤとする。


「ちょっと!だから、腕を僕の肩に回すのやめてください!それに、別に親友じゃないですよ!」エドワードは、嫌々そうに振る舞っているが、一瞬組織体制を崩壊させる計画を忘れるほど、アルフレッドと過ごす時間を楽しいと思っていた。


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宵闇のエドワード・ホワイト willy @mekook

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