一時停止が家にやってきた話

ある日、仕事から帰ってくると家の裏の道路で工事がおこなわれていた。

狭い道路の拡張工事の様で元々あった白線や標識などが取り払われていた。

しばらくかかるのかなぁ、騒音は嫌だなぁと玄関へ向かうとそこには『一時停止』が立っていた。


「どうかしましたか?」


「私、裏に設置されていた一時停止ですが、少しの間泊めていただけないでしょうか。」


「こんな時間にどうしたんですか?」


「実は今朝から始まった工事で撤去されてしまったのです。私たち標識は本来どこかに設置されていなければなりません。設置されていない標識などもはや鉄の棒。次の就職先が決まるまで玄関にでも置いてやっていただけませんか?」


「とりあえず部屋にあがりますか、ちょうど晩酌をするところだったんです。よければ一緒にどうですか。」


「いいんですか?」


本来ならそんなことしないのだが、知った顔でもあるし晩酌に誘った。




一時停止との会話は思いの外盛り上がり、酒が進むにつれ止まれの文字が消えるくらいに顔が赤くなっていった。

普段は人間と標識で関わることも会話することも少ないのだが、話してみるとなかなか悪くないな、そう思った。


「じゃあ、私はこれで。」


ひとしきり飲んだあと、玄関を開けるとすぐにサクッと刺さった。


「まぁ、玄関の前で一時停止するくらい何でもないな。」



そう思っていたのだが次の日、一時停止が甘えついでに連れてきたのは『進入禁止』だった。

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