第3話 事情

――外はどうなってるんだろう

そう思い僕は窓に向かった。床が軋んで鈍い音をたてる。随分と古い家のようだ……。よく見ると天井の隅にも蜘蛛が巣を作っている。


そういえば前に(とは言っても一年ほど前のことだが…)、図書館で「世界の住まい」という図鑑を目にしたことがあった。あれを読んでいたら、ここが何処か確証はできなくても大方検討はついたのに…


などと窓までのたった3歩の間に考えていた。ついつい考え事をしてしまうのは昔からの癖で、どうにも治せない。


窓にも天井と同じように、蜘蛛の巣がはっていた。開けようと試みたが、窓はまるでもう何年も開けられていないかのように動かない。僕は少しだけ空いていた隙間から外の様子をうかがった。


「海だ……。」


僕のいるこの建物は、海の上にあった。こうも近ければ、潮の匂いくらいしてもいいものだが…。そんな匂いは全くしない。


〔maa^ mituluみつる.〕

「フォぇッ……。」


どうもこの少年の気配が感じられない。今だって部屋にいることさえわからなかった。


〔un depon?〕


少年の手にはティーポットとティーカップを思わせるものが乗ったお盆があった。ティーポットは三角錐と球体を合せたような不思議な形をしていた。どうやら勉強の休憩をとるようだ。


少年は2つのティーカップに柑橘系の匂いのする液体(お茶だと思われる)を注ぎ、片方を僕にくれた。


〔jōmen un depon飲む!〕

「あ…ありがとう。」


言葉が通じないのはわかっているが、一応感謝の意を込めて言った。


お茶は初めて飲む味だったが、美味しく、どこか懐かしかった。体の芯から温まる、まるで日本の生姜湯のような飲み物だった。


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BEMONIN 棚花束 @acacia_maqen

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