物語防衛戦最前線-6(宙に光あれ-1)

「――よし今だ、撃て!」


 テラリィの号令に合わせて守護天使四人と僕とで集中砲火。守護魔法・治癒のエクラさんがクライシスマン・親の動きを縛り、そこに氷結属性のカルドさんと雷撃属性のトゥルエノさんの弾幕が走る。僕の杖からは鋭い光線が一迅放たれた。まるで光の矢だ。

 いくつかの爆発がクライシスマン・親の頭部で閃く。しかし効いていないみたい。何で!?

「クソ、かてぇなコイツ!」

「テラリィ、この攻撃意味ある?」

 苛立っているカルドさんに心配そうなトゥルエノさん。

 ふうむ、僕も何だか心配になってきたぞ。

『微細でもこれだけやりゃあダメージは入っているはずだが……おいお前達、本当に傷一つ入ってないのか?』

「えーっと……そうだね、さっきのより傷がないみたいだ」

「え、ちょっと本当に!? もう、そろそろ限界なんだけど!」

「どういうことなんだろう」

「これが物語のバグってやつか?」

 その後も一応と思って攻撃は当て続けてみたけれど矢張り無駄らしい。そうこうしている内に奴の体が少しずつ自由を取り戻してきた。エクラさんの額に汗が浮かぶ。

「もう無理!」

「一旦退くぞ!」

 エクラさんを皆で庇いながら一旦撤退。そこに今まで溜めてきた物を全部放出するかのようなミサイルが大量に追いかけてきた。

「ぎえええええっ!!」

 大騒ぎしながらも何とか避け切った一行。デヒムさんが放ってくれた魔導弾で足止めを喰らわせている内に急いで隠れた。

「ちょ、マジでどうするんだよテラリィ」

「……やっぱり頭じゃなくて腹の方だったのかな」

「そう言う事を聞いてるんじゃないのよ!! 時間が無いんだから――キャ!!」

 流れ弾みたいにぶっ飛んできたミサイルの爆発に驚いたエクラさんが瞬時にバリアーを展開する。それに弾かれた巨大な瓦礫がゴン、とか凄い音鳴らしながら下に落ちていった。

 うわぁ……。

 向こうの方で何やら暴れ回ってるし。

「と、とはいえ、成す術無くないか? 全身こうだとすると」

「でもさっきはボディにダメージ与えられていたんだよね」

「焦げただけだったりして」

「止めてよ、そんな事言うの! そんなんだったら絶対勝てないじゃないのよ!」

「だけどここにずっと居るわけにもいかねぇんだろ? アイツ、俺達探してるみてぇだし、そろそろ、やばいんじゃねぇの!?」

「う、うーん」

 その時。


『皆! ちょっと聞いて欲しいんだけど……』

「あ、先生だ!」


 突如通信機に流れ込んできた疲れ切った声。しかもその声色から察するに悪いニュースしか持っていないらしい。

「どうしたの?」

『いやぁ、その……ちょっと大変なことに気付いた』

『大変な事?』

 怜さんも通信に入って来た。


『アイツ、多分だけど「運命の書」の切れ端吞んだな』

『はぁっ!? 呑んだ!?』


 呑んだ!? ごくっと!? 紙を!?

 一気飲み!?

 い、イッキは体に悪いんだぞ……?


『道理で干渉できないわけだよ、もう書き直せないもん』

『捨て身の作戦取ったスパイみてぇだ……』

「お腹は痛くならないんだろうか」

「え、ってことはどうすれば良いんですか!? 俺達!!」

「ねえねえ先生! いつもみたいな作戦ができないの! ダメージが通らないから弱点も見つけようがないし……どうすれば良いの? 私達」

『あ、いや、あの博士のことだから胸元に弱点は隠してあるはずなんだが……』

「そうなの!?」

 トゥルエノさんが興奮したように食いついてきた。

『そうそう。それでちょっとでも弱らせることが出来ればロボットではなく本人に干渉するチャンスが生まれる――ってこったろ? 杉田』

『まあ、ね』

「すごぉーい! 先生格好いいー!」

 もう大喜びだ。

『ただ、時間は欲しい。彼の人生の舵を一時的とはいえ奪うんだから、それなりに時間はかかる』

『そうすると……問題はあの装甲だよな』

『だね』

 多分胸部を覆うあの分厚い鉄板(語彙力は捨てた)のことだ。全部ウル○ラマンみたいに剥き出しにしておいてくれれば良いのに。

「どうにかして動きとか止められないの?」

「それに、ダメージが一切通らない頭部も気になる」

『ふぅむ……あー、いや、やっぱり頭部に関しては「再生促進部」による影響だろう。あそこに何か大事なもんを隠してるんだよ、きっと』

「じゃあ俺の勘はある意味正しかったってこと?」

『正しかったが、タイミングを間違えたって所だろうな』

「わぁお」

 その時直ぐ傍の建物が崩れる音がした。僕らの隠れ場所がばれるのも時間の問題だ。冷汗がぞわぞわっと体を冷やす。

「てっ、テラリィ、そろそろヤバいんじゃないかな、僕達!」

「そ、そうだな、早く移動しないと」

「でもでも、そしたら私達は結局どうすれば良いわけ!?」

『先ずはアイツの中でも壊しやすそうな胸部を攻めよう。装甲が剝がれてくれれば戦艦で戦った時みたいな綺麗なコアが出てくるはず。それを兎に角攻めろ。装甲が剥がれるだけでも大きいから、無茶は絶対にしないように』

「分かった!」

『気を付けろよ!』

 そこまで言った時、遂に僕らが隠れるビルの壁が壊された。


「みつけたァァァー! アァーヘヘヘ」

「逃げろ!!」


 慌てて飛び立とうとする所に瓦礫の嵐。滅茶苦茶に暴れ回る巨大な手がカルドさんの両翼を鷲掴んだ。

「ギャアアッ!!」

「カルド!」

「カルドさん!」

「捕まえたァ、捕まえたァ!! 今日はチキンだよぉぉー!」

「おい放せ! クソ、コノヤロコノヤロ!」

 滅茶苦茶に暴れながら攻撃魔法をいくつもぶち当てるが、痛くもかゆくもないご様子。寧ろ子どものように腕をぶんぶん振って天使捕獲に喜ぶものだから、羽の付け根がじわりと赤くなってきた。

 羽が破れちゃう!

 ――と。


『ダメェー!!』


 手元から大きな声が聞こえて、杖から出た光線がクライシスマン・親の右目を丁度貫いた。

 え、え! 杖が勝手に!

「ギャアアアアア!!」

 その瞬間ロボットが体を折り曲げ、貫かれた目を押さえ始めた。

 放り出されたカルドさんはトゥルエノさんがキャッチ。直ぐ様エクラさんが治癒を開始した。



 ――しかしなるほど。そうかそうか。



「「目か!!」」



 テラリィと声が揃った。まあ、「目を狙え!」とかは有名な言葉だよな。誰が言ったのかは知らんが。

「しかも相手、目に一発お見舞いしただけで結構なダメージ受けてるぞ!」

『凄い凄い! 思わぬ発見だ! 凡、よくやったな!』

『そうか……あの切れ端を呑んだことで、あのロボットと自分とをリンクさせたのか! だからあんな巨体で俊敏な動きができるし、あんな量のミサイル攻撃だってし放題なんだ……!』

「どこのロボットアニメだよ、ったく……」

『とすると弱点はシェリングのそれと同じ……』

「怜さん! その弱点って――」


『ああ、頭だ。アイツが倒れた時、銃弾が右目を脳髄ごと貫いていた』


『そこが盲点だったって何日も悔いた。よく覚えている……』


 途端に目の前の途が開けたような気がした。心なしか宙に浮かぶ星々も綺麗に見える気がした。

「よし、お前達! これから狙うべきはもう分かったな! 今から奴の目を貫き、胸元の装甲を外す為の時間を稼ぐ。各々自分の得意技で翻弄し、奴の暴走を少しでも抑えること!」

「任せてよ、テラリィ!」

 そう元気よく答えたトゥルエノさん。一度くるんと宙返りした後、物凄いスピードで向こうに飛んでいく。直ぐにいかずちがロボットの動きを鈍くした。


「今だ、皆!」


 杖を構えて目を狙うが――


「ヤメロオオオオオ!!」


 博士の絶叫がこだまし、レーザービームが滅茶苦茶に撃たれる。

 浮遊大陸の向こうにまで一直線ビームが走り、直ぐに爆炎が上がる。

「彼らの船が……!」

「敵に同情するなエクラ、今は目の前に集中しろ!」

 カルドさんが手を引いた直後、そこに弾丸がばら撒かれた。

「キャアアア!」

 そんな、これじゃ近付けないよ!!

「テラリィ、もっと近づけない!? それか、遠距離攻撃だけでも!」

「俺は近距離専門キャラなんだよ!」

「で、ですよねぇ!」

 その瞬間、右頬の辺りを高温のレーザーが掠めるように飛んで行く。

 アァッチ!!

 凄まじい熱にとうとう耐えられなくなって避けた先、直ぐ横を大きな鉄の掌が通り過ぎていく。

 あぁっぶね!?

 空気の流れが大きく変わり、二人の体がぐるんぐるんと回転した。

 よ、酔う……! 酔う!!

「きゃあああっ!」

「グ……コナクソ! ハア、ハア……こういう時、ベゼッセンハイトさんが居たなら……!」

 分かる、めちゃめちゃ分かる。その気持ちめっちゃ分かる……!

 嗚呼、こういう時にマモンが元気だったなら!

 お腹にそっと手を触れると生き物の体温が温かい。お腹がゆっくり上下しているのが嫌でも伝わった。

 回復にはまだ当分かかりそう……どうしよう!

 こうなったらもう、頼れるのはコイツしかいない!

「杖……! お前の本気を見せてくれ!!」

 激しいビームの猛攻を避けながら、右腕を思いきり伸ばす。

 目と自分の杖が直線上に重なる瞬間をただひたすらに待った。偶に腕を掠めていく光線が怖いけど、耐えるしかない。

 これが本当に奴の討伐に繋がっているかどうかは怪しい。だって、相手の設計図を微塵も知らない訳なのだから。どこがコックピットなのかも分からない。それはこの後、コアが剥き出しになるほどのダメージを与えた、その後の話になるのだ。

 怖い。それまでにこっちがくたばる可能性は十分にある訳だし、守護天使の一人が倒れたら芋づる式に皆くたばる予感がしてならない。

 でもやるしかないんだ……! ストリテラの明日を守る為に!!


 覚悟を決めた。


「今だ杖、やれ!!」


 物凄い反動で体勢を崩しながらもビームを奴の顔面目掛けて放った。

 それはピンポイントで奴の右目を貫く。

 元気モリモリのクライシスマン・親の様子がおかしくなった。


 よし!


「よくやった、ベネノ!」

『全員そこからどいてください!』


 ――と、直後、通信機に突如入って来た聞き覚えのある声。

 デヒムさん!?

「総員、退避!!」

 テラリィの号令に全員がきびすを返し、猛スピードで距離を取っていく。

 その背後でクライシスマン・親の胸元にぶっといビームが突き刺さった。

 うう、物凄い衝撃波と爆音……!

「耐えろ、ベネノ!!」

「テラリィも気を付けて……!!」


 そうして残ったのは――胸部を剥き出しにしたクライシスマン・親の変わり果てた姿。

 あれは――。


「コアだ!」

「遂に出したな? 博士!」


(つづく)

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