物語防衛戦最前線-5(総力、集え)


「おまたせ!」






 瞬間こちらに向かって突進してきた何者かに体が持ち上げられ、そのままビルを脱出。直後、元居た所にクライシスマン・親の弾丸が雨のように降り注ぎ、勢いに耐えきれずにビルが崩壊。

 マジ、ギリギリだった。

「あ、危なー……」

「大丈夫だった?」

「ええ、なんとか……」

 そう言って僕を助けてくれたひとの顔を改めて見ると――


「てっ、テラリィ!? どうしてここに! ってか飛んでる!」

「あははっ、俺だけじゃないよ。他の仲間もいる」


 にこっと笑んで向こうの方を指差す。

 言われた通り指された方を見ると、雷撃と氷結魔法とがクライシスマン・親を足止めしている所だった。

 え、え……!

「テラリィ! 見てー! 可愛い! はりねずみちゃん!」

「おいおい、治癒のついでに勝手にいじるな」

「この方が体も小さいし、回復しやすいでしょ? それに烏とか蜘蛛とかよりはこっちの方が可愛いし」

「狸や狐は?」

「噛むじゃない」

 お喋りしながらすやすや眠る針鼠を撫でるのはあの時案内してくれたエクラさん。で、会話の内容から察するに……

「え、それ、マモンですか!」

「ふふ、そうよ。貴方に返しておくわね」

 テラリィさんの背中に乗せてもらい、温かくて小さなふわふわをそっと受け取った。見ればお腹の傷はすっかり癒えており、鼻先にそっと指を近付けると微かな吐息をぴすぴす感じる。

 嗚呼、良かった……生きてる! マモン生きてる!!

「ありがとう、本当にありがとう!」

「座敷童、感謝するならエンジェルにね? こんな風に天使として飛び出してくるなんて滅多にないことなんだから」

「え、エンジェル?」

「ベネノ。君が知ってるかどうかは定かじゃないけどね、俺ら実は天界の四方位を守る守護天使なんだ」

 テラリィが横目で僕の顔を見ながら言う。

 守護天使?

 その横顔と服装、腰に提げている「闇を切り裂く剣」を見て瞬間思い出した。


「あっ! あの下級天使だった癖に運とか勘とかだけで大天使までのし上がってきちゃったテラリィか!! スゴイ! ホンモノダ!!」

「……君達座敷童の間ではそういう認識なの?」

「下っ端構成員の憧れですもん!」

「……」

「……?」


 どうして黙ったんだ?

「ま、まあ兎に角、俺らは守護天使。今回は正体を隠し、人間として物語に参加してたんだけど」

「ちょっと前にエンジェルちゃんが緊急事態だからすぐ来てくれって呼びに来てくれたの」

「戦闘機なんかいじってる暇ないから兎に角早く早くってさ。余りにけなげだったから戦闘機置いて飛び出してきちゃったって訳! ははは、宇宙の癖に上手い空気はマズいよねー!」

「……誰が上手いことを言えと」

「ほへぇ」

 話によれば彼女が懇願したのは僕らの救出。僕らが死ねばこの物語も死ぬと、そう訴えてくれたのだそう。


『このままだとマモンさんが死んじゃう!!』


『お願い守護天使様、彼を助けて!』


 ……僕じゃないんだ。


「そういう訳だから物語は一時休戦。物語の腫瘍を俺らの力で徹底的に潰すことになった。――勿論、君達が言ったみたいな神仏の力でね」

 彼が言った瞬間、遠くから放たれた巨大ビーム。ロボットの体に当たって爆発し、微細ながらもダメージを与える。それを放ったのは――トランスウォランス艦。

 凄ぇ、派手派手だ!

「副艦長デヒムの魔導弾だ」

「魔導弾!?」

 後ろからいつの間に来ていたカルドさんがそう言う。

「不在の艦長の代わりに自身の体を削っての参戦だとさ。無茶するよな」

「それって大丈夫なんですか!?」

「ああ、何でも兵器開発副局長の海生と修平が『天の欠片』の代替品を開発したから大丈夫なんだって!」

「強……」

 笑顔で言える事なのか? テラリィ。

 一歩間違えれば世界のパワーバランス崩れかねない案件なんじゃないのか? テラリィ。

「あ、それと最後に……えっと……あ、あった! はいこれ」

「何ですか? コレ」

「艦長さんからプレゼント」

 貰ったのはよくあるインカム。

 試しに耳に付けてみると直ぐに誰かと繋がり、声がした。


『息災か? べんべん』

「怜さあああああああああああああああああん!!!!!」

『う、煩い煩い、鼓膜が壊れる』


「生きてたんですね! 生きてたんですね!!」

『俺が死ぬわけないだろ? おいさんは無敵なんだ。べんべんがピンチなのにくたばるわけにゃぁいかんだろ』

「はいっ、そうでした! 全く以てその通りです!!」

『状況は分かるな?』

「はい! ゲロヤバです!!」

 ああっ、すっごい、すっごい安心する!! すっごい安心する!!

 怜さんだ、怜さんだ、怜さんだああああああああ!!

『落ち着けべんべん』

「おちちゅいてまひっ!!」

『話しても良いかな?』

「十万年でも、二十万年でもっ!!」

『よしよし。さて、先程の交戦でも分かったとは思うが、アイツはストリテラと宇宙の融合を目論んでいる』

「世界征服でしょうか……」

『いや、ありゃ単なる興味だろうな。宇宙とストリテラが融合したらどうなるか! なんて具合の』

「何て子どもだ」

『そ。マジ、何て子どもだ状態なわけ。――ただ、調べてみたところアレは彼本人の性質という訳ではなく、レダヴの民の戦闘本能を植え付けただけのものらしい』

「アレは宇宙人の性格ってことですか?」

『そう。……道理でおかしいと思ったんだ、あの人があんな性格な訳が無いから』

「へぇー」

『あの人はっ! もっと親切で誠実で! 優しく素直で温か!! おまけに育児も出来る!!』

「何の主張ですか?」

『忘れなさい』

 ……?

『まあそういう訳だ。博士本人を助けるためにも俺らはあのロボットをぶっ壊して物語にトドメを刺さにゃならん。幸い、神仏に関しては強い連中が揃ってる。全員で挑みかかればあのバケモノロボットもどうにかなるだろう。ベネノは守護天使達と共に前線でロボットの相手をしてやってくれ』

「分かりました。怜さんは」

『俺は司令塔になる』

「え、格好いい……!」

『ガハハハ、さんきゅーさんきゅー』

 ああー、司令塔になるなら、長めのトレンチコートとか、そういう格好いいのを着て欲しいなぁー。

 あの時みたいにぴょこっとさ、一つに縛ってさ。

「あれ? れいれいー、大輝は? 艦長の仕事だろ?」

『だーかーらー、大輝がいないから仕方ねぇって話だったろ? どっか行っちまったんだとよ』

「あー、尻ぬぐいとかってやつー?」

『……ちょっと違うんじゃないか?』

 横入りしてきたテラリィの言葉に思わず眉をひそめた。

 む。

 やっぱ大輝怪しいか?

 ……とはいえこれ、大輝さんから貰ったインカムなんだよな?

 謎は深まる……。特にテラリィ。


『それじゃ、指示は追々していくから、お喋りは一旦ここまで。おいさんはお前さん方の遥か下からご健闘を祈っているぞ』

「あ!! れ、怜さん! その前に」

『ん?』

「あ、あ、あ! あっと、その……えと……」

『良いよ、言ってごらん』

「あ、あ、その……全部終わったら、その」

『何?』


「全部終わったら、その、手料理、もらえましぇんでしょーかっ!」


 受話器の奥から一瞬、ひそかに息を呑む音が聞こえる。


「ひゃ、ひゃーとむからオススメ、してもらって……! それで……! その……! 一度頂きたいなぁ……ってあああ恥ずかしくなってきた、やっぱ何でもないでし、忘れて――」

『良いよ』

「え」


、全部終わったら、な』


 * * *


「良いかい、ベネノ!」

「何だい、テラリィ!」


「どんなロボットにも弱点ってのはあると思うんだ!」

「……あると、?」

「そこで最初は攻撃を幾つか繰り返して奴の弱点を探っていく。そこで君と君の持つ杖が役に立つって訳だ」

「――あれ? それはファートムに聞けば良いんじゃないの?」

『ああ、べんべんは通信機が壊れちゃったから聞けてないんだっけか』

「え?」

 何かあったの? その後に。

『今まで弱点などを探れていたのは運命の書が彼の持つ切れ端に干渉できていたからだ。だが今回は余りにガードが固く、基本情報さえ掴めていない』

「マジですか!」

『マジマジ。だから今、切れ端にどうにか干渉できないかと色々試している最中なんだってさ。伝えるの遅くなって悪かったな』

「しょっ、しょんなことはごじゃいましぇん!!」

 そっか。そういえば通信が途切れる前も必死に干渉できないか試してたな。

「で、でも僕の魔力量で足りるのかな」

「そこは心配しなくて良いよ。最初からその杖に宿ってる」

「ほへぇ」


「セレナは優秀な魔法使いだったからね」


 ……セレナ。


 これ、セレナって人のなのか。

 杖を改めてまじまじ見ていると動きを電撃で封じられているロボットの近くまで到達した。

 さっきの魔導弾や氷結、雷撃で所々焦げたり傷がついたりしている。

 近くで見ると恐ろしいな……。

「杖を使うのに決まった呪文とかはなく、ただ己の本質に従って杖が応える。それが悪魔の武器と天使の武器の違いだ」

「僕の意志じゃないってこと?」

「うーん……と、万能ではないって感じかな。杖にも意志があるからさ」

「へぇ……」

「兎に角はその杖を使って、まんべんなく攻撃を仕掛けてみよう。それで奴の反応を見ながら対処をしていく」

「分かった」

「……俺が思うに、頭か腹じゃないかな? とは思うんだけど……まあやってみよう。ベネノ、今更だけど協力してくれるよな?」

「勿論だよ」

「よし」


 僕の返答を受けてテラリィが大きく飛翔した。

 先の彼の予想に従い、頭部近くへ移動する。

 マモンを服の中にそっとしまった。


「準備は良いか?」

「ああ、いつでも!」


「――よし今だ、撃て!」


(つづく)

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