物語防衛戦最前線-3(クライシスマン兄弟-2)

『よっしゃああああああ!! 見事だベネノ!!』

「主!!」


 手にした「再生促進部」と一緒に勢い余ってぶっ飛ぶ僕をマモンが拾い上げ、同時に胸に空いた穴に黒い炎をぶち込んだ。

 瞬間、化学反応を起こしてクライシスマン一号くんは爆破。その爆風に巻き込まれ、二号くんも落ちていった。

『直ぐに対処を!』

「分かってる!!」

 一号の大破によって装甲にダメージを受けた二号。そのおかげで先程よりも「再生促進部」が取りやすくなっていた。


 よっし!!


「主! 凄いです、よく頑張りましたね!!」

「く、苦しい……」

「あ、失礼しました、つい」

「へへ、でも喜んでもらえて良かった」

「主……」

 顔をほころばせてまたすりすりと頬ずりしてくれるマモン。

 って、ちょ、僕は人形か何かか。

 突然恥ずかしくなって、思わず突き放してしまった。代わりに状況把握みたいなコメントをする。

「で、後はあの厄介三号くん?」

「ええ」

「マモン、魔力の消費は大丈夫?」

「クライシスマン・兄に対処できるぐらいは何とか」

「一応麩菓子食べておきなよ」

「承知です」

 そう言って腹から麩菓子を幾つか取り出したマモン。どこぞのCMみたいに美味しそうに頬張り、やがて豪快に平らげた。


 * * *


『先ずは物語の外枠破壊から興味を遠ざけろ。戦闘はいつもの通りで良いだろうが、奴の弱点に干渉する為には隙間が要るだろう?』

「宇宙の壁の所には入り込めないんですか?」

『やめておけ。ゲームでいう所の見えない壁みたいなのは物語にもある』

「あー……」

 メタいけどね? 世界一周してるって言いながら実際の物語では四か国分しか見せないみたいな感じよ。


 さて。


 興味を遠ざけるか……ふむ……。

「感情があるとは言っても、好きな物で釣るとかそういうのは難しいよね?」

「即興で作ったロボットにそんな素敵な設定が付いていますかね?」

「だよねぇ……」

「ただ、あのロボットの実質的なブレインはあそこにいますよ」

「え、え?」

 指された方を思わず見ると――博士。


 なるほど。


「彼を僕らで襲って、救助にこちらに向かわせるって寸法だね!?」

「その通り!」

「――よし、いじめ抜こう」

「おかえしじゃぁ、オラァ!!」

 直ぐ様くるりと振り返り、一路、博士の元へ。

「おわはぁ!? 何だい何だいっ!? 何の御用か――タスケテェェェエヘヘヘヘハハ!!」

「このっ! このっ! このこの!!」

「わひーん! ワヒイイヒヘヘハハハ!!」

 楽しそうに逃げ回りつつ、博士が手元の紙に何か書き込み始めた。

 よし。よしよし、くるくる!

「ギリギリまで引き付けましょう」

「ファートム、頑張ってよ!」

『そこら辺は心配するな、まだまだ余裕だ』

 よし。

 やがて向こうからロケットエンジンの音が聞こえてきた。

 そちらを向くと予定通り。クライシスマン三号くんのお出ましだ。

「来たな、三号くん!」

 ここまでくればコイツの攻略なんぞ屁でもないぜ!

「主、行けますか」

「任せて! 先ずは――【猛毒】!!」

 壁の穴を開く為のひと際大きな拳を避け、背後に回った瞬間、跳躍。魔力を足に込め、跳躍力に上乗せすることで、うなじまで一気に到達。

 掌を思いきり叩きつけ、目玉を出現させる。

 先の二体のようにまたしても動きが鈍くなった。

 チャンス!

「順調ですね!」

「さっさと行こう!」

 そうして胸元に飛び込もうとするが……


「させないぜっ!! いけっ、クライシスマン・姉!」

『「「姉ェ!!?」」』


 瞬時に組み上がっていく巨大ロボ。

 マズいマズい!

『させるか……ッ!』

 組み上がっている最中の鉄塊の動きが突然鈍くなる。

「頑張れお姉ちゃん、お姉ちゃあああああん!」

『キャラクタ如きが作者に逆らうな! いう事を聞け!』

 そうして押し問答みたいな運命の執筆合戦が勃発。互いが互いの動きを自身の支配下に置こうと必死だ。

 ……。

 ……これ、チャンスってやつか?

「マモン、今の内に」

「私も同じこと思ってました」

 麩菓子を三~五本ぐらい一気に口に突っ込み、僕を背中に乗せる。


「ア!」


 博士が気付いた時には時既に遅し。

 クライシスマン三号くんは黒い炎の爆を受け、大破。

 神仏の脅威をまざまざと見せつけられることとなる。


 初めて博士の楽しそうな動きが、止まった。


 手の中でキャパを超えた「運命の書」の切れ端が燃え尽き、それと同時に姉も崩れ落ちる。

 へえ、限界突破するとそんなことになるのか。今後何かしらに作戦として使えそうだな……。

『よし。後は一体だ』

「あいつが強敵なんだよね?」

『今までの奴らと比べて圧倒的に攻撃手段、体力、その他諸々の量が桁違いだ』

「……」

『それより何より――』

 ――腕が四本。

 この個体は話によればメインエンジンの守りが堅く、かつ「再生促進部」も万が一に備えて二つになっているのだという。おまけに装甲も厚く、硬いので「猛毒」が上手く感情を司る部分まで浸透してくれるかどうか。

 ごくりと息を呑む。

「作戦を変えた方が良いんじゃないかな」

「そうですねぇ……先ずアレ、胸元まで辿り着けるのでしょうか」

『あー、腕が四本だもんねェ』

「って、ファートム!? まだアイツ解放してないよね!?」

『してないよ? 現時点で放したらちょっと怖いじゃないか』

 だ、だよね。良かった、ファートムが人並みの良心は持つ神様で。

「さて。これからどーするかですけど……」

『さっきの作戦はやめておいた方が良いだろうな』

「ですよね?」

『意識の干渉さえなければさっきみたいに再生促進部を取り除いてメインエンジン爆破して……みたいにできるだろうが、何せそこに至るまでの障害が多過ぎる』

「うーん」

『「再生促進部」が二つ搭載されている以上、単純に生命力も強いし、回復力も桁違いに早い』

「……」


『それに、あの兄が持つ万全の機構は本来味方の為に使われるもの。本来ならば物語における「主人公補正」のように味方を守る為の物だ』


「ええ!?」

『相当の注意を払わないと直ぐにやられる』

「怖……」

 実質、主人公補正。

 何という響き。

『じゃあどうするかってなるんだが……ここで良い報せ』

「何ですか?」

『ふっふっふー』


『圧倒的強さ! お前達には俺が付いている!!』

 ばばーん!


 ……。


 ……、……。


「「どこが?」」

『どこがとか言うなし! ――良いか? 考えてもみろ。お前ら二人が今こうして悠長に喋れているのはどうしてだと思う?』

「さあ……」

『俺が抑えてやっているおかげなんだぞっ!?』

「まあ、そうですねぇ」

『だからつまり!』

「自分の影響力は絶大であると?」

『そのたうりであるー!』

 声色が思いっきり「えへん!」って言ってるが……だから何だ?

『ちょ、頭わる太郎かよ!』

「わる太郎じゃないです」

『良いか? 俺は外部に居る神で、いわばオペレーター。「再生促進部」や体内深くに眠るメインエンジンに直接干渉することはできない』

「まあ、パワーバランスとか云々がおかしなことになっちゃいますしね」

『だが外部の神という名前とポジションを使えば、援護をすることは可能だ』

「……、……ほう!」

 ちょっとずつ話が見えてきたぞ?

「何が出来るんですか?」

『パワーチャージからの超強力ビーム射撃』

「おおー!」

『へへーん』

 それは素直に認める、格好良いぞ!

『説明する。一度船外に出ろ』

 博士を監禁していた(過去形)部屋の外に出ると直ぐ近くの壁に赤く大きな照準が映し出されている。

『見えたか?』

「見えます、見えます」

『話は単純だ。お前達の今の魔力、魔術のレベルだけではソイツを倒すのは不可能。そこで俺の神力を使い、装甲を出来る限り削る』

「はいはい」

『さて。ここであちらの兄ロボットにご注目』

 言われた通りそちらを見るとロボットの体に三つ光柱が立っている。

「アレは」

『俺の神眼で弾き出した「奴の装甲の脆い部分」だ』

「おおー」

 運命神ってそんなことも出来るのか!

 ……とするとあれ以上の実力がある悪魔王って、実際はもっとヤバい奴なんじゃないのか?

 突然怖くなってきたぞ。

『あの光柱ド真ん中にビームを当てるのが理想なんだが、甚大な被害を生まない為にもそこの照準は基本動かせない。という訳でお前達に誘導してもらいたいんだ』

「最初は避けるのに徹するって訳ですか」

『その通り。三つの光柱が示す「奴の弱点部位」が完全に破壊出来たらその後は先程同様の作戦で押し切れ。但し猛毒は使わんでも良いだろう。その時には殆ど動けなくなっているはずだ』

「承知」

「困ったときは炎など使っても問題はありませんか」

『構わんが……足りるか?』

「これで戦いが終わるのなら出し惜しみはしません。私は私の主を守ります」

『……、……そうか』

「はい」

 ん。何か一瞬、変な間があったような。

『さあ、そろそろ解き放つぞ』

 考えごとをしている間にもどんどん周りの準備は進んでいく。

 慌てて身構えた。

 向こうでバグったゲームのボスみたいな動きしている巨大ロボ。アイツが自由になった瞬間こちらにパチンコ玉のように突っ込んでくるのだ、きっと。


『覚悟は』

「できてる」

『よろしい』


『さあ。最終戦だ!』


 瞬間。

 音速にも近いであろう速さで兄ロボが目の前に迫る。


 ビームサーベルの熱が僕らに命の危険を知らせた。


(つづく)

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