物語防衛戦最前線-2(クライシスマン兄弟)

『クライシスマン兄弟は最初にトランスウォランスを襲うはずのロボットだった。その拳で何機もの戦闘機が墜落に追い込まれ、トランスウォランス艦自体も先端がちょっと欠けた』

 そんな、歯が欠けたみたいに……。

『そこで彼らは先ず、以前お前達が目撃したみたいにテラリィがエメラルドの玉を撃ち抜いて無力化したんだ』

「はいはいなるほど」

 胸元のメインエンジンのことね。

『しかし、それだけでは収まらない。そこら辺は何故だか分かるな?』

「ああ、博士が作った『再生促進部』のことですね」

『その通り。直ぐに起き上がった奴らに船員は仰天、直ぐに別の方法を考えなければならなくなった。さてその方法とは一体何でしょう』

 その方法かぁ。

 うーん……。

「案外、『再生促進部』を抜いちゃうとか……?」

「それかバラバラにしちゃうとかですかね」

『ほおー、良い線いってるねぇ。正解はねぇ爆破! 爆破よ! 兎に角「再生促進部」が体の中から外れてしまえば良いんだ、何せ体内の機能を回復する為の装置な訳だからさ』

「ほう」

「バラバラ、合ってないか……?」

 合ってますよね? としつこく確認してくるマモン。

 うん、合ってる合ってる。

『でもお前達は奴らを爆破解体出来るだけの火力は持ってないだろ?』

「そんなの分かんないじゃないですか」

『だけど防弾ガラス、爆破できなかったじゃないか』

「う」

『あれより硬いんだぞ? じゃなけりゃ怜の弾丸だって通ってたわ』

「……」

『それに、微細とはいえ飛翔にもそれなりの魔力消費はあるんだろ? これまでもぶっ通しで飛んできた癖に、これ以上無駄に消費すりゃあ最後まで持たなくなる。もっと別の方法を考えろ』

「……ぶす」

 余りにもごもっとも過ぎるのに相手が相手である為に不服まるだしのマモン。

 まあまあ。

「――とはいえ解体か……ふむ」

「あの博士のことです。科学で対処できるようなありきたりな方法は全て潰されているでしょう。何か突飛なアイディアは無いでしょうか」

「突飛っつったってねぇ。作者が凡人だからなぁ」

『悪かったな、凡人で』

 今僕が使えそうな能力は「陰」に「黒い炎」、そして「猛毒」。この三種類だ。「強欲」の悪魔は連れているけれど、その能力が発揮できるのは武器の取り出しのみ。マモンが前披露したみたいに命を吸い取るだとか、物の支配権を握るだとか、そういう格好良いのは専門外。――まあ、出来なくはないけれど、どうしてもやらなければならない場合はマモンの協力が要る為、相手が攻撃出来ない状態まで落とし込む必要がある。そんな暇、どこにある。

 そう。「強欲」は奥の手だ。そう簡単にほいほい使えない。

「とはいえ、万が一の場合この戦いから使う必要が出てくることもあります。その時は遠慮なく頼ってくださいね」

「うん、勿論」

 そう即答はしたけれど。

「強欲」を使ったとしてもどれも決定的一打になるようには思えなくて困る。

「陰」の浸透圧で「再生促進部」やメインエンジンを破壊するか? ――とはいえどうやって。同じ作戦を「猛毒」でやって、現に効果がないことを眼前にて確認しているじゃないか。僕の出す「陰」は「執着」の黒魔術師や悪魔王のそれよりも随分と弱い。彼らの粘着力としぶとさ、量の多さ、攻撃力はその魔力量と性質に裏打ちされたものだ。

 とすれば「猛毒」においても同じ。あれを無暗に使っても意味がない。

 ならば「黒い炎」ならどうだ? あれは「陰」の上位互換。「陰」のように浸透しながら命を吸い取る点においては同じだが、「炎」は中々搔き消せない上にその吸収スピードが速い。これならば対策をされる前にそれぞれを壊すことが出来る。――いや、その作戦ならば上手くいくだろう。だが肝心のその後は? その後はどうする。博士のことだ、「再生促進部」が破壊されても隣接する部品などを上手く使って「再生促進部」ごと再生するように作っているに違いない。それに知っての通り魔力消費もえげつないのだ。現実的じゃない。

 なら「強欲」は? と言いたくなるところだが、これも支配の対象は「意識の干渉が無い事が最低条件」。今のままでは何ともしがたい。

 ……クソ、経験のない物語の展開を作ることがこんなにも難しいとは。

 余りに悔しくて思わず歯噛みした。っていうか作者がやれよ、この仕事。

 どうしよう……どうすれば、どうすればいい?

『万策尽きたと思った時こそ、脳を掻き回せ。お前が今までに出演してきた物語や、他作品の中に何かヒントは無いか?』

「ヒント?」

 ファートムの言葉に、ちょっと目を閉じて考える。


 ヒント……。


 ……。


『私の能力はさえなければ全てを手中に収めることができる。――それがどういうことかは分かりますね』


 これは、第二話でマモンが魔物の命を全て吸い取った時の言葉。


『……あれ、嘘だよ』


 これは……どこで聞いたっけ。

 というかこれに関する何かを、僕は聞いたことがあるような気がする。


 ……、……。


「あ」


 その時。

 マモンが素っ頓狂な声を上げた。


「そういえば主」

「何?」

 マモンの突然の語り掛けに耳を傾ける。

「ストリテラの箱庭の一角に『明治街』という街があるんですがご存知ですか?」

「あーはいはい。ご存知ご存知」

「そこには『嘘喰いの怪人』というのがおりまして……」

「嘘喰い?」

「最近上映が始まった映画の話じゃないですよ? 本当に居るんですよ、ガチで嘘を喰らう怪人が」

「い、いやそれは知ってるけど、どうして突然それを?」

「ああ……シェリング博士の名から唐突に思い出しまして」

「博士から?」

 聞く所によるとその博士の初出作品に『LIAR』というのがあるという。何でも主人公「LIAR」は他人のうなじから嘘を引きずり出して喰らい、その人を「人」でなくしてしまう恐ろしい怪人なんだとか。

「彼は悪魔王から特別何かご加護や能力を頂いた訳でもないのに、『意識のある個体』に対して『対象のみを取り出す』術を身に着けている」

「ふむふむ」


「……これ、我々にも応用できませんかね? 主」

『ん。ああ、良い考えだね』

「運命神になぞ言ってません。会話がややこしくなるので黙っててください」

『……冷たいでやーんの』


 二人がまたしょうもない喧嘩をしている時、頭の中では何かが組み上がりそうになっていた。

「対象のみ取り出す能力」……「意識の干渉が無ければ手中に何でも収められる強欲」……「解毒されるまで対象を永遠に壊し続ける猛毒」……。


『科学力による制約が無いのが我々『神仏』が司る魔法の特権。もっと想像力を働かせて』


『防御、錯乱、回復……そして補助も魔法でまかなえるものの一つ』


 そしてこれらマモンが言ってくれた言葉……。






 ……、……。






 ――!!


「マモン! 良い事考えたよ!」

『何、何? 凡、お父さんにも聞かせて』

「絶対に嫌です」

『つ、冷たいでやーんの……』

 もう殆ど泣きそうな運命神は軽く無視無視。

 マモンにだけこっそり耳打ち。

 それを聞いて彼はぱっと顔をほころばせた。

「やってみる価値、あるでしょ?」

「成功率は百ではないですが、ゼロでも無いでしょう。良いですね、面白い」

「でしょ?」


「よし。一か八かやってみよう」


「目標は二体、同時撃破だ」


 * * *


 ファートムの指示に従い、絶対に攻撃が通らない道を選択。

 UFOやロボットなどの兵器を抑えてもらえているおかげで非常にやりやすい。

 よし。このまま。

「ファートム。一号二号、同時撃破いけると思います。二号だけ自由にしてやってください」

『問題ないのか?』

「ええ、任せてください」

 即答してやったのに、受話器から不安そうな吐息。

『……確証をくれ。俺だけ情報共有が無いのは不安だ』

「はぁ? ファートムはこの作戦に直接は関わらないじゃないですか」

『そ、そうはいっても』

「マモンもいるし、大丈夫って言ってるでしょう」

『で、でもお前を殺したくはない!』

 ……殺したくないだ?

「偉そうに言って……ジャックや怜さんが傷ついた瞬間のこと何も知らない癖に!」

『ぼ、凡……』


「僕らキャラクタ達が死ぬ時の痛みとか悲しみとか、仲間への想いとか何にも知らない癖に!!」


『……!』

 ハッと息を呑む音がはっきり受話器の向こうから聞こえた。

「自分で出来ないこと僕らに押し付けないでくださいよ。大本の元凶の癖に被害者面ですか?」

『……』

「兎に角、父親だっていうんなら過干渉なんかしないで黙って見守っててください。それもわきまえていない貴方に子ども呼ばわりされる筋合いはないです」

『……』

「今は兎に角ソイツの解放を」

『……』

 暫くの沈黙を経てからクライシスマン二号が自由に動き出した。運命神の捕縛から解き放たれた瞬間である。

 ぃよーし。

「マモン、行くよ!」

「ほいきた」

 速度が乗る。風を切って追いかけてくるクライシスマン兄弟の猛攻を避け続けた。

「猛毒はどこで使いますか」

「先ずは運命神に解析してもらってから。――ってことでスタジオにいる、ファートムさぁん!」

『はぁーい! ――って乗らせるな。あれだけ言っておいて何だよ』

「今僕らの目の前にいるクライシスマン兄弟が持つ『感情』がどこら辺にあるのか知りたいんです」

『感情? あの、シェリングがロボットに突っ込んだやつか?』

「はい、そうです」

『待ってなぁ……ああ、やっぱあそこだな。うなじ』

「うなじ?」

『彼の博士は人体の「感情」や「精神世界」についてよく知っていた。だからそこにあるんだろうな……人間のもそこにあるから』

「ありがとうございます」

『いえいえ』

 よし。目標は定まった。

 まずはうなじを攻める。

「そういう訳だ。接近できる?」

「この後二十秒後に一号、四十秒後に二号に最接近が可能です。一瞬ですから気を抜かないように!」

「合点承知の助!」

 右手に魔力を溜めつつ進路を予定通り移動する。


 ――今だ!


【猛毒!】


 うなじにぎょろりと生々しい目玉が生え、突如クライシスマン兄弟の挙動がおかしくなる。

「やった!」

 思わずガッツポーズ!

「主、次は」

「奴らの懐に入り込んで一気に『再生促進部』に干渉する」

 ――この時。

 きっと読者の皆はそんな硬い装甲どうやって? と思ったことだろう。ごもっともだ。怜さんの弾丸どころか僕らレベルの「爆炎魔法」も通じない相手だ。解体するには無理があり過ぎる。

 ではどうするか。

 その実は簡単だ。


 何故なら目の前の個体は意識が唯の機械。


「マモン!」

「主、しっかり掴まっててくださいね……!」

 体勢を起こし、右手を突き出す。あの時、牢屋で見たみたいな不気味な光がロボット二体を包み込む。


【汝、大将の財産よ。今こそ大罪の御名の下につき従い、我の思う所となれ!】


 発光が最大限に達した所で――


【壊れろ!!】


 手を握り、目の前の機械の「命」を完全掌握。「再生促進部」との我慢比べになった。急速に回復を繰り返し続ける機構と、対抗を続ける「強欲」。互いに油断すれば簡単に崩される押し合いの状況。このまま長い時間を無為に過ごすのは得策ではない。

 なので。


「主、今です!」

「よっしゃ!」


 その瞬間マモンの背中から飛び出し、仲良く並ぶ二機のロボットの胸元に突っ込む。わずかな突起に足や指を引っかけ、ステッキを口に咥え、強欲の力を僅かに借りた右手をに思いきり突っ込んだ。

 ガチャガチャ探れば飛び切り熱い部品が手に当たる。


 間違いない、コイツだ!


 深呼吸を二、三度、意を決して鷲掴み。まるで熱された鉄の玉でも持っているかのようだった。

 そのまま引っ張れ!!

「ウアアアアアアアア!!」

 全身を使ってソイツを体外に引き抜こうとする。思ったよりも固い……!

『待ってろ、今その部品が外れやすくなるように運命の書を書き換えてやる!』

「は、早く!!」

 その瞬間、指先の方でゴリ、と音がした。

 既に右手は焼けただれているだろうか。怖くて見れなかったし、今離せばマズい事にもなるとも思った。


 今は信じて引き続けるのみ……!!


「主! 頑張って!! 夢の無いこと言いますが、まだあと一機控えてます! 魔力も段々少なくなってきました」

「本当に、夢の無い……!」

『耐えろ、もう少しの辛抱だ!』


「ウウウ……」


「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 ――そして!


(つづく)

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