だから言ったじゃないか
「さあ、いけぇ。クライシスマン一号!」
「お前の本気を見せてやるんだァ! ワァーッハッハッハッハ!!」
「主、来ます!」
* * *
キャタピラを使って猛スピードで突っ込んでくるクライシスマン一号くん。
思いきり振りかぶられた大きな鉄の拳を後方に跳びつつ避けた。床にひびが入り、衝撃波も半端ない。それを大笑いしながら見てる博士。
楽しいんだろうなぁ、楽しいんだろうねぇ。
「クライシスマン一号くんはぁ! 鉄槌タイプのロボットくんなんですぅ!! キャタピラ使ってどこにでも行き、その鉄槌で目標を押しとぅぶす! いわば地球を潰してどら焼きにする為のロボットくんなんですぅ!!」
「さっきのサッカーボールの話はどうしたんだよ!」
「サッカーボール? 言いましたっけ?」
「言ったよ! バッチリはっきり言ってたわ!!」
そもそもサッカーボールの話した直後にキャタピラのロボット出すかね!?
クソ……エンジェルの挙動からロボットのバグから博士の矛盾だらけの言動から怜さんの悲劇から……何から何まで変だ、この物語!
ファートム、マジで今回どうしたんだ!?
「ぐ……! 【陰!】」
いつも通り叫んで「陰」を召還。早速クライシスマン一号くんの鉄槌に絡みつき、床と接着することで身動きを封じた。
よし。
「マモン!」
「言いたいこと、大体分かりますよ!」
中腰で構えたマモンに飛ばしてもらい、一気にクライシスマン一号くんの胸元まで跳躍。予想通りそこにあったエメラルドグリーンの巨大なメインエンジンを鷲掴むように右手を押し付け、猛毒を流し込む。
永遠に壊れないロボットには永遠に壊し続けるコイツが一番だ!
「よっし!!」
「あまぁぁーい!!」
――え?
某お笑い芸人みたいな台詞を飛ばした博士の方を見ようとして、直ぐに自分が窓を突き破っていることに気が付いた。
んなっ!?
「ガハッ――!」
「主!!」
瞬間、舞い戻されたエセ無重力空間。
マモンが腕を掴んで引き戻してくれなければそのままどこまで飛んで行ったか分からない。
「大丈夫ですか」
「うん、何とか」
「麩菓子食べます?」
「食べる」
「美味しいですか?」
「結構良いね」
鼻血を拭い、軽い触感の駄菓子に食らいつく。
さて。
何が起こった?
今までいた所を見るとそこにぽっかり大穴が空いていた。落ちた瓦礫に壊されるライフライン、重要そうな建物。下界の方では皆戸惑っているらしい。そりゃそうだ、手駒にしようと思ってた博士がいきなり暴れ出したんだもの。
やがて大穴から一人の人物の影と危機を脱したらしいキャタピラロボット・クライシスマン一号くんと……今度はちゃんとボールを蹴れる足付きロボットが顕現。
いつからそいつを!?
「フッフッフー……フゥーッフッフッフー!!」
「わがまま幼女みたいな笑い方しやがって……どこで作ったんだよ!」
「実はねぇー、博士、良い物見つけちゃったのぉ!」
益々幼女っぽい口調で言った彼がひらひらと見せてきたのは……数枚の、紙?
「それがどうしたよ」
「これぇー、物凄く良いんだよ! 見てて見てて!!」
とっても嬉しそうにサラサラと何か書く博士。
その瞬間周りにえげつない量のあのビームロボット出現! 一斉に狙いを定めてきた。――これはマズい!!
「マモン!」
「逃げましょう!」
「アハァッハハハ!! 分かったァ!? これぇ、何でも僕ちゃんの思い通りに出来ちゃうのぉ!! 何て名前かは知らないけどぉ、物凄いチート級アイテムゥ!」
そう言って上機嫌にまた書き足し始めた博士。今度は地上のUFOだとか兵器だとかが一斉にこちらを向き始めた! マズい!
……って、あれ? ちょっと待ってよ。
「ま、待て待て。あれってさ、若しかして若しかしなくてもだけどさ――?」
「ええ……この感じ。間違いないでしょう」
ごくりと唾を飲む音。
そうして嫌な単語を二人でハモらせてしまった。
「「『運命の書』」」
刹那、ああ、これか! とマジで思ってしまった。
あんなことが起きたのもこんなことが起きたのも、多分このちっちゃくて大きな不具合のせいだ。
何で博士が運命の書の切れ端持ってるの!?
* * *
「あっ、ハーイハーイ! 博士しつもーん、質問しますぅー!!」
猛攻を避けながら、命からがら聞く。
「なぁーにぃー?」
「ファートム来ましたか……って違うよな、これ、えーと……」
「ふぁっしょーん?」
「えーとえーと、じゃなくて! あ! 白衣着た髭のおじちゃん来た?」
「だぁれ? それ」
「っていうか物語の安寧を求める彼がそんな事をする訳無いですよね?」
……、……だよねー。
「じゃ、じゃあエンジェル?」
「……彼女は持っていましたっけ、運命の書」
「切れ端ぐらいなら可能なんじゃないの?」
「そしたらファートムのを勝手に持ち出したってことですか!?」
「かも――って、ちょっと待てよ? 彼女が僕らの予想通りマジもんの
「……」
「だって、下手したら全員を巻き込んで物語が壊れちゃう!」
「……」
マモンが長考に入る。その切れ長の瞳を見ながらふと思い出した。
――そう言えばコイツも「運命の書」持ってたよな。
あ、いや、ないない。
マモンに限ってそんなクソ怪しい事する訳無い。
確かにマモンはあの四神以外に「運命の書」を持つ唯一の悪魔。でも、だからといって切れ端を洗脳受けてる博士に送るみたいな事はしないはず。
それに僕ら、この物語の中で一度たりともはぐれたりしなかった。ちょっと僕が倒れたりはしたけれど、でもずっと傍にいてくれたはず。だって、マモンだよ?
僕らは光と影なんだ。
「ねーねー! 二人でこそこそ話してないで僕と遊ぼうよぉーん! もっと試したいんだよ、このゾクゾク! 優越感!!」
「あ、そ、それは困る! お願いだからそんな危ない物はぽいってしちゃって! ぽいって!」
「えええー! やだぷ!」
やだぷ、じゃねえんだわ。
「だってぇん、これはまさしく運命の出会いってやつでさぁ、僕とこの紙はここで引き合わされる為にこの世に生まれてきたんだもん!」
もんって……。
「僕がこの魔法の紙と出会ったのはこの話が始まって……そうだなぁ、第五話の時。この部屋にぶち込まれて、ちょっとキモチヨクなってた時に目の前に降ってきたんだよぉーん! あの、天井にぐるぐるがあってぇー、落ちてきてー、色々お絵描きしてたら出来上がってたってわ・け!」
「何が」
「このクライシスマン兄弟ーっ!!」
……なるほど。
暗号みたいだったけど要するに、空間転移魔法によって意図的か、若しくは事故で降って来た運命の書の切れ端を洗脳でハイになっている博士が拾ってあれやこれやしちゃったって訳だな?
とすると、そこから致命的な物語の変異は始まってた訳で――待て。それって僕らが主人公補正盗った辺りの話じゃないか!?
「やっぱり僕らなのか!? これの元凶は!」
「あらまー」
「……っておい! どーしてそんなに落ち着いていられんのさ!?」
「いやぁ、事実は目の前にしかないですしねぇ……私達が原因なんだったらまあ、仕方ないかなぁって」
へー! 何だろう、そのつよつよメンタルが欲しくなってきちゃったなぁ、今!!
「あはは、あはは! あはははははは!! だからさぁ、もっと遊びたいんだよ、楽しみたいんだよぉ! 僕らの相手をしてよぉ、もっと可愛がってよぉぉぉおおお!!!」
瞬間、周りで控えていた兵器共の銃口やら射出部位やらがギラリと煌めき、一斉にビームを放ってきた。
うおおおおおおおおっ!?
「主!」
滅茶苦茶に動きながら全ての攻撃を何とか避けた先、その向こうで(恐らく)クライシスマン二号が胸から大量のミサイルを放っている。
ちょ、ちょ! 殺す気かっ!
……殺す気か。あの博士だもんな。
「アヒャヒャヒャヒャァッ! 良いねェ良いねェ!! そうして僕達はいつしかこの
宇宙の主導権を握るのだ!」
僕らが死に物狂いで逃げている中、ミサイルは何故か僕らの横を通り過ぎ、狭い宇宙の壁に激突した。
宇宙の壁に、激突?
何を考えているんだ、アイツは!
「やっぱり……やっぱりね! 思った通りだ……この物語、馬鹿みたいに脆い!」
「脆い? どういうこと――ウワア!」
「そんなこと言ってる暇があるんなら僕と遊んでよぉ、シナリオブレイカァー」
次々放たれるビームにミサイルに必死になっている内に彼は新たなロボット(恐らくクライシスマン三号)を取り出し、先程ミサイルが激突した宇宙の壁の亀裂に向かって飛ばした。
そうして亀裂に手をかけ、思いきり力をかけ始めた。
物語のバランスが崩れ出す。
「……! やめろよ! 物語が壊れちゃう!」
「だってぇ、最初こんな亀裂無かったもん! 宇宙もガッチガチに固められてて、手出しが出来なかった!」
「だけど、君達がこちらに近付けば近付く程その亀裂は走り、広がりを見せていったんだぁ。まるで人の胸でも裂くみたいにネェ」
「だとしたらこの宇宙、手に入れるなら今かな? って思ったんだよぉ! ……じゃないと地球をゴールに突っ込めないでしょ? ぐるぐる塵っくずみたいになった恐竜も見られないしさァ!」
「宇宙を手に入れようとしている!? そんな馬鹿なことさせるかよ!」
「そうだそうだ! 手に入れるのは私なんだからお前はすっこんでろ!」
「――そうじゃない。そうじゃないんだよ、マモン」
お願いだから同じ穴のむじなみたいにならないで。
「だったら止めてみせろよぉ、僕と遊べよぉ!!」
「英雄になってみろよぉぉぉおおお!!」
また何やら書いた。
「出でよっ! クライシスマン・兄!!」
そうして現前する巨大ロボ。
背中に派手な武器を沢山携え、さっきの二号(仮)が放った量の倍あるミサイル、レーザーガン……その他ありとあらゆる男子の夢と希望をたっぷり乗せたロボットが立ちはだかった。
しかも背後からさっきの一号と二号(仮)が新たなロケットエンジンを賜り、参上する。
や、ヤバイ……。
絵に描かなくても分かるヤバさだこれは!! 相当いかれてる!!
「さぁ、勝ち抜き戦、ボスラッシュ」
「君達、こういう展開が欲しかったんだろぉ?」
* * *
「だから言ったじゃないか。脆いってさ」
一方その頃、トランスウォランスから遠く離れた浮遊大陸にいつの間に降り立っていた大輝が双眼鏡を覗きながらぼそりと呟いた。
そんな彼を地上から空中を狙っていた宇宙砲台の内一つが、発見。
撃とうとして逆にやられた。
彼の持つリボルバー、ナガン改が火を噴き、メインエンジンがやられる。博士の発明品でないそれはそのまま息絶えた。
「さ。こっちも作戦開始と参りましょうか」
銀の弾丸を地上に転がし、リロード。
目を見開き、ちろりと口元を舐めた。
(つづく)
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