ベネノの機転とシェリング博士

 目の前でバラバラに砕け散ったロボットが爆発、それに何機か巻き込まれた。

 そのままロボット達は敵意を向けるべき相手が誰であるのか、混乱しているらしい挙動を開始。

 統率が乱れ始めた。


 ――意志を持っているとはいえ、所詮はロボット。

 自分達が理解不能なアクシデントに落ちた後の対処法を知らない。


 ここに理解不能の魔術をどんどんぶち込めば――!


「これは面白いことになって来た」

 マモンも興奮したように笑う。

「ああ」

 それにキザったらしく答えた。




「ビルのてっぺんより愛を込めて」




「怜さんに、乾杯ブリンディス!」


 反撃開始!


 * * *


 先の攻撃はロボット共に大きく響いたらしい。

 あれ以後、照準を僕らだけでなくエンジェルや味方のロボットにまで向けるようになっていた。

 よし。このまま。

 一つの小さな障害はやがて全体の大きな問題となるもの。僕らは極力避けることに専念して先程みたいな戦略を繰り返した。普通ならここら辺でエンジェルが対策とかしてくるんだけど、一度このループに組み込まれちゃえば簡単には抜け出せない。何せ相手はレーザーポインターからの正確無比射撃を繰り出す存在なのだから。

「このまま博士の居る浮遊大陸を襲おう」

「ロボット達の射撃を利用するんですね?」

「その通り! 突き進もう!」

 どこぞのロボットアニメのオープニングみたいに滅茶苦茶飛び交う無数のレーザー。第三陣から始まり、第四陣、第五陣と吸収し続けた無茶苦茶ロボット部隊はいつしかこれだけの大所帯となっていた。ここまでくると最早物語におけるバグで、そこかしこの建物や船を見境なくぶっ壊していく。

 あーあ……ご愁傷様です。

「浮遊大陸に近付きます!」

「そう言えばこの『浮遊大陸』ってさ、絶対あのゲームの影響……」

「降下しますよ!」

「わああああっ!!」

 大陸の周りを移動しながら着陸ポイントを探す。しかし――

「攻撃が激しいですね……!」

 大陸の方からもこちらの異変に気付いた兵士(?)達が容赦なく撃ってくる。

「どうしよう、一旦退く?」

「いえ。お弁当をいっぱい持ってきたとはいえ、魔力は無限ではありません。このまま突っ切ります。私は博士を探しますから主は敵からの攻撃に専念してください」

「了解した!」

 背後から追いかけてくる色んな敵。

 それぞれの攻撃をステッキから展開したバリアーで弾き、あの時みたいにロボットにぶち当てていく。

 バリアーの耐久力が限界に達するのとマモンが博士を見つけるのと。どっちが早いか?


 ――、――。


 数分がそのまま経過し、バリアーに入ったひびがかなりはっきり見えてくるまでになった。手にかかる衝撃と少しずつ蓄積していく疲れで、少しずつ反射の精度が落ちてきた。先程まで百発百中だった反射射撃が上手くいかない。緊張も解けてきた。

 マズい……。

「マモン、まだ!?」

「周りに無いので……多分あそこですね、中央のあの塔」

「また塔?」

「この船の住人は高いところとか、特別なところが特に好きなのでしょう」

「まるでギザの三大ピラミッドみたいだな」

「ふふ。隠す気が無いんですよね、だから艦長とかに見つかるんですよ」

 全く以てその通りだと思う。

「さ。ここからより攻撃が激しくなっていきます。当たらないようにいつもより速度を増して行きます、振り落とされないように!」

「優しくしてね……ッ!」

 マモンの背中にカブトムシみたいにしがみ付き、陸からの攻撃を何とか避けていく。

 中央の塔がぐんぐん迫ってきた。


 ぶ、ぶつかるー!!


「ぶつかりませんよ」

「やってみたかっただけだよ」

 直ぐにふわっと直上方向に進路を変え、スクリューのように塔の周りを回りながら上っていく。少しでも狙われにくくするためだ。

「ううっ、手が疲れてきたー!」

「もう少しの辛抱です、主!」

 この戦いだけで大分消耗した気がする。マモンのを貰ってるとはいえ、これだけの数と当たればそりゃあ消耗だってする。おまけに折角持ってきたお弁当麩菓子を食べる時間が無い。

 ううう、早く休みたい……!

 そんな時、ようやく塔のてっぺんが見えてきた。一面ガラス張りの天井から中を窺う事が出来る。

 あれは――博士!

「ビンゴだね!」

「ええ。しかし……」

「しかし?」

「どうやって侵入しましょうか。見たところこれ、防弾ガラスですよね?」

 でーすーよーねー。

 うーん、どうすべき。

「爆弾系の魔法とかってあるっけ?」

「爆炎とか、そういうのは聞いたことありますね」

「なるほど【爆炎!】」

 ステッキの先から出た火炎の球はガラスの上で派手に炎を散らしたがガラスはぴんぴんしてて壊れる気配がない。

 えええーっ!?

「こんなのどうしようもなくない!?」

「大丈夫です、主」

 言いながらガラスの天井にすたっと降り立つマモン。

 その後ろからは目標が動かなくなったことで狙いを定めやすくなったロボット達が迫り迫って来る。

 ひええええっ!?

「何が大丈夫なのさ!?」

「私の能力は『強欲』ですよ?」

 そのまま彼は両掌を天井に押し当て、すぐさま大きな穴を開けた。まるでそうすれば誰でも開けるかのような自然さで、防弾ガラスに大穴を。

「早く! 主、この穴の中に!」

「あっ、なるほど!」

 時間が無い。マモンが押さえてくれている内に勢いよく飛び込む。

「だめええええっ!!」

 エンジェルが必死に叫びながら突入中のロボット達をかき分けかき分け、こちらに迫って来る。

 だが遅ーい!!

「あばよエンジェル!」

 捨て台詞だけ残して二人、博士の下へと降りてゆく。

 エンジェルがそこに到達したのは既に穴が閉じた後のことだった。


 ごちん!


 「いったあああああい!!」


 * * *


「おいひい、おいひい」

「本当にアンタってさ、幸せそうに食べるよね」


 涙目になりながら久し振りの腹ごしらえ。

 相当疲れていたらしいマモンが僕に寄りかかりながらかなりの量の麩菓子を平らげた。よく入るな。

「さて、と」

 麩菓子の細かいカスをぱんぱんと払い、物陰からそっと博士の方を覗く。


「んひひ、んひひひひ、んひひひひひひ」


 ……。


「……相当ヤバい奴なのかもしれない」

「同感です」

 思いがけない所で意見が合ってしまった。

「どうしましょうか、主」

「どうしましょうかって言われても……」

 えいえい、ひかえおろーう! なんて言ってやろうかとか考えたけど、あんなに体全体使ってぴょんこぴょんこ飛び回ってる博士を見ちゃうと流石に気が引ける。

 彼と怜さんの関係って一体何なんだ?

「怜さんの前でもあんなだったと思う?」

「いやぁ、流石に……」

 そこまで言った時。


「ン! 何だろう。嗅ぎ慣れない誰かさんの匂いがするねぇん! 音もするねぇん!!」


 その瞬間、ぐるんと上半身だけをブリッジでもやるみたいにのけぞらしてこちらを見た博士。

「「ヒイイッ!?」」

 二人して思いっきり物陰に隠れた。

「怖がらなくて良いよーん。丁度独りで退屈してたとこなんだしーん。ね、一緒に遊ぶんだぷー」

 ゾンビみたいにうろうろしだす。

 ひいっ、ひいー!!

「癖が、癖が強過ぎる……!」

「これが洗脳の力なんですかね?」

「じゃなきゃ困るよ……! 怜さんのお友達だとか言うから、もっと大人しいスマートな博士を想像してたのに……!」

 そうやって更にひそひそ話していると――


「ばあっ!!」

「「どわわわぁっ!!」」


 怜さんと同じ綺麗なエメラルドグリーンの瞳を持った丸眼鏡の青年が、子どもみたいに驚かしてくる。

 びびっ、びっくりしたなぁもう!

 しかも既視感あるし……このパターン。

「ほら、やっぱいるんじゃーん。ほらおいでよーん、遊ぼうよーん」

 ニタってのが一番似合う笑顔を浮かべながら、酔っぱらったような博士は僕の腕を鷲掴んだ。

 え、ちょ!?

「主!」

「ほら、そこのもおいでよーん。君達のを見込んでのお願いだから。ね? 僕は危害加えないからさぁ」

「……!」

 腕、とな。

 何を見てそう思ったのか分からず、二人揃って思わずドキッとしてしまった。

 しかしそれについて問う間もなく、言われるがまま引っ張られるがまま彼と共に開放感だけは物凄い部屋の中心に行く。

 そうして何やら真っ暗な空間の前に立たされた。

 何やら予感だけビンビン感じるんだが……。


「それではご覧に入れましょぉーう! 巨大ロボット試作品No.1! クライシスマン一号くんでぇーす!」


 カッ、カッ、カッ!


 眩い光が突然何かを照らし、僕らの目の前にその姿を突き付ける。

 そうして視界に映ったのは――部屋の最奥部の方でを待つ巨大ロボットの姿。


「……!」


 ナンダコレ……! 男子のロマンを固めて作った物か!? これは!

 初めて見るその壮観に一瞬心躍ったが……冷静に考えればこれ、僕ら生身で戦うことになるんだよね?

 生身で戦うことになるんだよね??


「うふふふ。やっぱりさ、地球って狭いよね。君達もそう思うだろ?」


 博士が興奮したように頬を染めながら言う。

 ……何を言ってるんだ。


「やっぱりああいう星はさ、サッカーボールの代用品ぐらいがお似合いだと思うんだよお。僕なんかはね? あの地球の顔を蹴り飛ばしてみたい訳さぁ」


「だから作った。サッカーボールが似合う巨大ロボット」


 ……うっとりしながら言う台詞ではない。


「そうして向こうの方まで飛ばすんだ。そしたら……はぁ、その時地上で暮らしている恐竜たちはどんな反応を見せるかなぁ。何匹か、重力の変動に耐えきれなくなってそこら辺をちりっくずみたいにくるくる飛んで行くかな」


「そしたら面白いよね!? きっと快感だよねぇ!? ね!!? 君達なら分かってくれるだろう!? 僕の子ども達を散々弄んだ君達ならさぁ!」


「そう想うだろーん??」


 ……これこそ何を言ってるんだ。

 彼はずっとニヤニヤを顔中に湛えながら、腕を握る手に益々力を込めながら饒舌に喋り続けた。

 それに何と返すこともできない。


 どうしよう。狂っていやがる。


「サテサテ! そこで本題なんだけどさぁ」


 そう言ってずずいと詰め寄って来る博士。

「君達、見た所相当の強者の様子。僕の作ったロボットちゃん達が何台か破壊されちゃったみたいじゃないか」

「え? あ、そ、そうだけど……」

「そんなの悔しい悔しーい! と、いうわけで君達の戦闘力を確かめておくことにした」

「……?? どういうこと?」

「さあ? 十分に頭が回っていないとかそういうんじゃないですか?」

 一理あるかも。


「そういう訳だ! 僕は君達の戦闘力を測る。それを超えるロボットを僕は作り、また君達は倒す。そうしていつかはどちらかが力尽き倒れる! ……どうだい、完璧な計画だろう! 完璧に楽しいそうだろう!!」

 愉快そうにそう言いながら今度はどっかで見覚えのあるリモコンのスイッチをぽちっと押す。その瞬間整備中みたいな色んな有線がクライシスマン一号の体から剥がれ落ち、鼻息荒く蒸気を吹き出した。

「……!!」

 もう!? もう本番!?

 しかもこんな狭いフィールドでか!?


「さあ、いけぇ。クライシスマン一号!」


「お前の本気を見せてやるんだァ! ワァーッハッハッハッハ!!」


「主、来ます!」

 二人、星が素敵なステッキを同時に構えた。


(つづく)

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