敵拠点侵入

「あー、馬鹿みたいな戦いだった!」


 わざと大声で言ってやる。

 作者が勝手の分からないなりに頑張ってこさえたSFを初っ端から滅茶苦茶にするんじゃないよ、全く。

 ブレイクする時はもっとスマートにって先生から習わなかったのか。今頃文章をせっせと書いてるが一番困ってるぞ、全く。

「それでは主。目の前をご覧ください」

「目の前?」

 そうして見上げた先には――宇宙船とは似ても似つかぬ不思議な巨大建築物。


「宇宙を渡る者、レダヴの民の母船です」

「これが、船?」


 船というよりかは一つの要塞、なんじゃないのか?


「さ、補正を付け替えてください、主。未知の文明との交流を開始しますよ」

 背中から身を乗り出し、下を見ると遥か上まで続くビルのような建物を中心に何と街が広がっている。――いや、そう見えるだけか? どうしても僕らが居た場所と比較してしまって困る。

「§§¶Θー! §§¶Θー!」

 UFO船団と共に、誘導されながら高度を下げていく。

「何語?」

「さあ? 作者もどうせ適当に打ってますよ、あの文字列」

 そうなの?

 UFO格納庫らしき所に一緒に入った僕ら。博士を乗せた船は彼らを下ろすことなくそのまま別の場所に移動していった。

「どこに行くんだろう?」

「処置室か何かだと思いますが……その前に情報を得られる相手を見つけなければ。ここの構造や文化が分からないんじゃどうしようもないでしょう? うっかりマナー違反して処刑なんて、そんな野蛮があったら困ります。宇宙からの侵略者とはいえ我々と同じ文明を持つ者達なのですから」

「えっ、情報……」

 直ぐ浮かんでしまうあの横顔、思わせぶりなエメラルドグリーン。ちょっと長めの茶髪に、見た目とは裏腹にちゃんと手入れされている無精髭。

 よ、ようやくここで会える!?

「怜さん、怜さん!? 怜さんいるの?」

「いませんよ。間者として入っているのなら別ですが……」

「えええーっ! そんなぁ!」

 情報といえば怜さんなのにー!

「そうだよ酷いよー!」

「ねえ! 会えると思ってずっと探してたのに一度も会えずにオサラバするなんて酷いや酷いやー!」

「俺もべんべんとまた会えると思ってたのにー! そう決めつけられちゃうとちょっと寂しいよもんたーん!」

「そうだよもん、た……」


 ……!?


 予感がして恐る恐る振り返る。

 心臓がばくばく。期待が膨らんで胸がはちきれそう。


 誰かが後ろに立っている。

 長い脚に、おちゃらけた雰囲気。肩から羽織ったジャケット。


 間違いない。


 彼は確かにそこに居た。

 神出鬼没、情報屋としての腕は確かだが表裏や私生活、その過去に到るまで、その全てが謎な人物。


「よ。また会えたね、べんべん」

「れっ、怜、しゃんっ!!」


 * * *


「付いて来てたんですか!? 情報屋!」

「あんな見え見えの嘘、信じる方がおかしいだろ?」

 心の底から驚いてるマモンにさらりと返す怜さん。

 信じたテラリィ達はおかしいの部類の人になるのか……。

 あ、あれ? っていうかさ。

ってことはマモン、若しかして僕が気絶してた間に怜さんに会ってる!?」

「会ってるどころか、貴方、情報屋に介抱されてたんですよ? 何も覚えていないんですか?」

「エ、エ、エ!? れ、れれれ怜しゃんにっ!?」

「ええー! 忘れちゃったのか? おいさん寂しいぜー! あんなに心配してたのになー!!」

 そう言いながらほっぺを両手で挟んでうりゃりゃっとしてくる怜さん。

 わ、わ、わわっわっわ!! 掌が熱い!! 顔が直視できましぇん!

「それで情報屋」

「うん?」

「どうしてこちらに」

「どうせアンタら、ここの色々が分からなくて難儀してるだろうって思ってさ」

「商売、ですか? わざわざ危険を踏んでですか」

「アンタらに興味があるのよ。それ以外に理由があると思うかい?」

「……そういう職業でしたね。今回は何をご所望で?」

「お、乗り気?」

「買わないと話が進まないので」

 緊張しているのか姿勢が強張るマモン。そっと僕を抱き寄せた。

 またあの時みたいにハイになって襲われるとか思ってるのかしら。

「良いお返事だ、もんたん! それじゃあ早速交渉」


「アンタがその子を連れ歩く目的と交換だ」


 ……!

 ふ、踏み込んできたな。

「……大きく出ましたね」

「だってここにアンタ達がいるの、純粋におかしいんだもん。今頃は宇宙船にいなくちゃだろ?」

「……」

 た、確かに。

「な、どうして?」

「どうしてと言われましても……」

「どうしてその子を連れてこんな所まで来たんだい? マモン」

 痛い所を突いてきた。

 マモンが冷汗かきつつ、一生懸命答え方を探している。

 どうしようどうしよう……。


 あ。


「そっ、そうだ! 僕ら、エンジェル――じゃなかった、セレナと同じようなポジションについたんです!」

「艦長はそんなこと決めてないだろ?」

「そっ、それは自主的にやったと言いますか! そ、その、怜さんと同じであの通信はニセモノだなーって思ったと言いますか!」

「だとしてもこの子を連れ歩く理由にはならないんじゃないのか? マモン」

「ぼ、ぼぼぼ、僕らは長年連れ添ってるコンビみたいなもんで――」

「君には聞いてないんだベネノ。コイツに聞いてるんだよ」

 ――!

 その瞬間の怜さんの顔。彼を顎で指したその顔はとても怖くて思わず喉がヒュッと鳴った。

 さりげなく僕の腕を掴もうと伸ばした手をマモンが払う。

「私の主に触らないで頂きたい」

「……主? 本当に主って思って言ってる?」

「勿論です」

「ふーん?」


「仲間は食べるのに、そこら辺はハッキリしてるんだ」

「貴方こそ。心配するふりだけして……偉そうに言える立場なのでしょうか?」

「……」


 や、やばい。何か分かんないけど不穏な空気!! マモン特有、怖くなると口が悪くなるが発動してるじゃないか!

 こーれは……。


「す」


「ストップストップ!! 僕がちゃんと説明するから!! 今回はちゃらにして!」

「ベネノ……」

「あ、あのね! 博士の所に行きたくって! ほら、その、これからの物語においての重要人物じゃない!? アンドリュー博士はっ! だからその人の所に行きたいんだよ! 今回は本当にそれだけなんだ! あ、それと、僕とマモンが一緒に居るのは、そ、その――ばっ、バディだから! で!」

「……」

「だっ、だからっ、れ、れれれ怜しゃんっ! そ、その……えと……何というかその……は、ハイになっちゃうの禁止で! お願いします!! マモン、怖くなると自分のこと守る為に口が悪くなっちゃうから!」

「……」

「そっ、それに……あんまりここで長居しちゃうと博士が殺されちゃうかもしれない……です……」

 そこまで一息に言い切って、二人の顔を交互に見つめる。

 マモンは相変わらず緊張したままずっと怖がっている様子。

 怜さんは冷たい瞳でずっとこちらを交互に見比べていた。僕を見つめる時間が長くなればなるほど、マモンはそれに応じるように僕を強く抱き締めた。


 マモン……。


 ……、……。


「――確かにな。べんべんの言う通りだ」

 その瞬間の怜さんのふっと柔らかくなった笑み。喧嘩が終わったんだって分かる明らか善人のその笑みに心がほころぶ。

「今は博士の救出が先だな」

「そっ、そうなんですっ! 今はまだその時じゃないっていうか! ――というよりか、本音といたしましてはっ、是非、博士の所まで一緒に来て頂きまして……その……」

「オーケーオーケー。良いよ、一緒に行こう。元々はその為に来たんだったし。お代はさっきのべんべんの熱意に免じてそれで許してあげよう」

「やった! ――じゃなくてグフングフン!!」

「ん?」

「おね、お、おおお、お願いしようかナァァーっ、ナンテ? いや、本当はっ? 一人でも大丈夫、だけどぉー?」

「ふふ。じゃあ、手繋いで行くか」

「ひゃぁん!」

「……主は一体どっちなんですか?」

 何だろう、嗚呼何だろう!

 そうかぁ、これが恋かぁぁあああ!!


 * * *


「宇宙生物、レダヴの民。遥か遠方、銀河の外からやってきた生命体。レダヴってのは侵略者インベーダーを上手いとこもじって付けた取り敢えずの仮称であって、実際のところどう呼ぶのかについては誰にも分かっていない。――ましてや生命体がどれであるかすらも」

「ん? どういうことですか?」

「さっき格納庫に一緒に入った時、UFOから誰か降りてきたのを目撃したかい?」

「え?」

 あ、そういえば……。

「見なかった気がする」

「そう。生き物らしい生き物がここには存在していないんだよ。だから街は静かだし、空気もおいしい。――成分が何かは知らんけど」

 おー……何かSFっぽい。

「これはあくまで推論だが……俺達が勝手に想像している生命体というものはこの場には居なくて、代わりにああいったUFOとかが生命体なんじゃないか?」

「ほ、ほう?」

「要は繁殖能力が凄まじいUFOみたいなもんかなぁ……この軍を例えるとするならば、だけどさ」

「な、なるほ、ど?」

「主、ちゃんとぴんと来てますか?」

 正直言うと怜さんと繋いでる手が汗かいてて、それに不快感示してないかとかそこら辺の方が気になっちゃってて、それどころじゃなくなってる。

「故にそれぞれに意識というものはなく、この母船のどこかにあると思われる核の制御によって全て制御されているっていうのが一つの仮説ね。――だがそうすると一つ疑問点が生じる」

「疑問点、ですか?」

「なーんというか。ばっちりコミュニケーション取ってるっぽいんだよねぇ。――ΨμЖЮ」

「ΔΠー」

「ほら」

 すれ違いざまに一機のUFOと挨拶し、な? とでもいわんばかりの表情をこちらに向けてくる怜さん。

 え、マジで貴方何者……。

「だから、一つの核によって制御されているんじゃなくって、一つ一つが俺達人間みたいに意識を持っていて、それらが核となる司令官の指示に従って日々戦闘に励んでいる、と。……彼らについての認識はそんな所かなぁ?」

 直後、また別のUFOと今度は世間話を始め、すぐにわっはっは! とか笑い出す怜さん。

 え、え、え……何について話してるの?

「え、何について話してたんですか?」

「今度やるΞΓ〈についてさ。やっぱり遊びを営む集団は社会性が高いよ」

 わ、分かんない。

 話題を無理矢理変えよう。

「それで、これからどうやって博士に接触していけば良いんですか?」

「まずはこの民達のならわしとして、自分達が幹部クラスの者であると認めさせなくちゃならないらしい。その為には人間みたいに勲章が必要だ」

「あ、分かった。奪うんですね!?」

「その通り! 冴えてるねー、べんべんー」

「え、えへへ」

 褒められると照れちゃうなぁ。

「だが見ろ。この広大な広さの船を。本当に船にいるのか疑う広さじゃないか」

「大気圏まで出来て……探すのに難儀しそうですね」

「ア○リカのディズ○ーランド全部回るよりも難儀するだろう。そこでだ。これから二手に分かれて探索をしようと思う」

 おおー。

 なるほどなるほど。

「というわけでさ、俺とべんべんは向こうの方探すから、もんたんはあっちの方探してくんない?」

「……! 嫌です。行くなら情報屋が一人で行ってください!」

 早速ぐずりだしたマモン。

 僕の反対の手をわしっと掴んで離さない。

「何で? べんべん一人にしたら迷子になっちゃうかもしれないじゃんか」

「貴方のそれには大体裏があるんですよ……」

「あるわきゃないだろ?」

「どうだか。ちょっと今、警戒モード中なんです」

「えええー? 勘弁してくれよぉ……アレは癖みたいなもんなんだよ、出ちゃうんだよぉー……」

「だとしても嫌です。あなた方二人で行くのなら私も一緒に行きます」

「そしたら効率が悪いんだって言ってるんだよ」

「それなら情報屋が一人で行けば良いとも言っています」

「それだと意味が無いんだってば」


「あああもう! 分かった分かった! 二人とも分かったから落ち着いて!」


 間に入って無理矢理止める。


「皆で行こう。この際効率とかは考慮しないものとしよう」


 別に、博士が長く監禁されてくれた方が良いんだしね。最初っからそういう計画だったし。


(つづく)

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