「神仏」の台頭

「「よぉっしゃあああああああ!!!」」


 後ろで大きな金属音を立てて閉まる重いシャッター、目の前には満点の星々。星座や天の川、遠くに見える銀河。小惑星の間を軽やかに通り抜けていく船の数々。

 最っ高だ! まだちょっと頭は痛いけど、色々が一気に吹き飛んだ気がする。

 何より爽快! 作者が無学なおかげで風が気持ちいいや!!

「これで頭の固い艦長どもからはおさらばです。補正も取れたし、良い感じにとっかかりも得られたし。これからは私達のターンですよ、主!」

「イヤッホーウ!! ブレイク最高ー!!」

 状態をのけぞらせるように伸びをした僕に落ち着いてください、とマモンが微笑みかける。

「それでは今回の作戦の詳細を発表いたします」

「はいはいー、お願いいたしますよー」

「まず今回の物語が進むべき道ですが……目の前の敵艦の群れ、ありますでしょう?」

「はいはい」

「その中に居ると言われるアンドリュー・シェリング博士を救出するというのがこの回の目的ですね」

「ほうほう。さっきの相手の技術が向上されたら困るってやつね」

「しかし現実は甘くありません。先程艦長が傍受した通信は敵の作戦に誘い込む為の偽の通信です」

「なんと!」

「そこそこ防御力を上げてカモフラージュはしていますが、実際の博士は遠く敵の拠点に拘束されつつ運ばれている真っ最中です。こんなに早く自由に行動できるわけはない、当たり前のことですね」

「確かに」

「そこで我々はテラリィ達とは別行動を取りまして、博士を乗せた敵艦を追います」

 言いつつ、目の前の宇宙戦闘機五機の辿る進路からそっと離れるマモン。

「そしたら僕らで撃ち落とすの?」

「――と、いきたいところですがここは我慢をいたしまして、尾行しながら敵拠点までまずは案内してもらいます」

「どうして?」

「それこそが今回の作戦の一番重要な点だからですよ」

「……?」


「ずばり! ! 全てはこれの為にあります」

「な、なんと!」


 最終兵器まで云々は聞いてたけど、スケールが違い過ぎるなこれは……。

「その為には博士なんざ助ける必要はありません。寧ろ加勢をして、相手の手中に確実に落とし続ける必要があります」

 ……、……なんだって?

「つ、つまり……えっと……、……どゆこと?」

「えー、分かりやすく説明をしますと……そうだな。先ずはこの回で彼らが博士救出に失敗しますよね?」

「あーはいはい」

「その為、一度博士は敵拠点まで無理矢理連れて行かれ、洗脳を施されるのです」

「ほうほう」

「この作品の面白くなるところはそこからです。そこで彼らは博士から知識と設計図の一部を得まして、彼らの技術の模倣を開始するんです」

「へーっ。中々考えるね」

「結局、後から敵の作戦に気付いた『太陽系防衛軍』によって博士は奪還され、計画は頓挫してしまう――のですが、彼らとて伊達に宇宙を渡り歩いた者ではありません。なんと彼から得た少ない知識だけで新たな技術の可能性を見出し、新しいボス敵を開発していくんですね」

「ほーっ! 無双は効かなくなると!」

「そういうこと。しかも博士が考えそうな新兵器ばかり」

「生産力だけはあるもんな」

「こうして戦争はより深みにはまっていくのですが――ここで本題。ついさっきと言いましたよね?」

「言ったね」

「ということは博士一人放っておけばいずれは作ることになるであろう兵器ということです」

「あー……なるほど?」

「つまり、助けにさえ来させなければ彼は洗脳されたまま勝手にボスロボット達を量産していく! しかも凄まじいスピードで!!」

「ほー!!」

「そこで畳みかけるのです! つまり私達がわざと彼のモルモットとなることで、これから先登場予定のボスロボットを全て敗北に追い込める!」

「凄い質の悪いモルモットだ……! 実験の成功で博士を勇気づける気がないぞ!」

「そこで。先ずは敵拠点に忍び込むための二つ目の『敵方』の補正を調達、そして博士を誘拐している戦闘機をこっそり追いかけます」

「そいで侵入、という訳ですな」

「はい。そこからは隠密行動をしつつ敵に見つかったら適当にごまをすりつつ、博士に接近。太陽系防衛軍と戦う振りしながらボスロボット共を全滅へと追い込んでいきましょう」

 そうこうしている内にテラリィ達の姿が大分小さくなってきていた。今ではどれが星でどれが宇宙戦闘機なんだか。

「そろそろ敵軍が居ると思われるスポットに到着します。今は敵軍の補正が無いですから十分警戒を」

「分かった」

「あ、あとこれを」

 そう言ってスッと腹から取り出したのは……何コレ。

 星が先端についた、ステッキ?

 おいおいー、すぐほどけそうなリボンが可愛いぞー? どーしたー? これー。


「何コレ?」

「素敵なステッキ。なんちゃって」


 ぱかんっっ。

「きゃんっっ」


* * *


「主、あそこ!」

「ん」

 先程テラリィ達が向かっていったのとは明らかに違う規模で構える船団が遠くに見える。ゴツイ船や土星を囲むあの小惑星みたいなUFO船団に囲まれ、真ん中に小さい球形の船があった。

「あそこに博士が?」

「間違いないでしょう」

「秘匿しなきゃいけない相手なのに、やけに目立つ運び方しているね」

「質より量の敵襲が一隻だけでふらふらしている方が怪しいのかもしれません。木の葉を隠すなら森の中、とも言いますしね」

「なるほど?」

「よし、まずはあの周りを飛んでいるUFOどもにちょっと近付いて補正を回収、彼らに馴染んでいきましょう」

「はいはい」

「今回お渡ししたステッキは先のトランスウォランス艦のトイレのパイプを拝借し、改造したものになります」

 散々水は駄目だとか言っておきながらパイプ付けるようなトイレがあって良いのか? 作者よ……。

 っていうかトイレがあるんなら一番持ってきちゃいけない所持ってきちゃったんじゃないのか!? ――っていうかそもそも論にはなっちゃうけど、これトイレのパイプなんだ!? きったなっっ!!!

「この作戦にて重要なのは何よりも忌避さるるべき存在『魔法』で敵の全てを駆逐、そして彼らに自信を失わせ、科学戦争をばかばかしいと思わせることです」

「おお、何だか英雄みたいだ」

「出発時の繰り返しにはなりますが、それ故科学の英知たる宇宙服も光線銃も何も装備せず、代わりに学生服一枚と素敵なステッキ一本で勝負をしています。実現する為には勿論私の特別な加護が必要になる。なので」

「なので離れないように、だよね」

「お見事。それでは近付きます。大きな声を立てないようにご注意くださいね」

「任せといてー」

 ローズマダーのベルベッドスーツと学生服が夜闇に良い感じに溶け込む。

 そうして気付かれないようにステッキを構えながら近付いた――


 ――まさにその時だった。






『ご案内ありがとう』







 ズガズガズガガ!!

 ドガーン!!


 目の前でUFOが十何機か爆破され、重力が無いはずの宇宙に落ちていく。


「んなっ……!」


 なっ、何をするんだああああああっ!!


 その時目の前を高速で移動していったのは一機の宇宙戦闘機。

 その広い窓から見覚えのある横顔がこちらを見ているのを確かに目撃した。


 あれは!


「エンジェル!」

『艦長からのお達しで来たの』

 くそ。ダイキだな? 面倒臭いことしやがって。

 おかげさまで敵軍が気付いて皆こっちにレーザー銃とか構えちゃったじゃないか!

「どうしてくれるんだよ!」

『知らないわよ! ――さあ、艦長の言う事を聞いて船に戻って、ベネノ!!』

 そう叫んだかと思えば直ぐに銃口に光を溜め始める。

「主、逃げます!」

 マモンがそう言って急いで向きを変えるとその頭スレスレをビームが貫いた。また何機かのUFOがハラハラと火の付いた紙のように落ちていく。

 こっわぁ……!

「クッソ、テメェ! どうしてここに!」

『貴方達を連れ戻しに来たのよ、の一人として!』

「「……!?」」

 マモンと二人で目を見開く。

 あ、あれれ!? フィロさんは!? あのグループAは!?

「お、お前はこっそり侵入したシナリオブレイカーって話じゃなかったのかよ!」

『貴方こそちゃんと物語の説明書読んだ!? 私の名前が書いてあるでしょ!?』

 え?

 言われて慌てて読み返す。

 えー、何々?


 物語の花形であるエリート戦闘員がテラリィ、エクラ、トゥルエノ、カルド……そしての五人!!?

 知らない名前過ぎて物凄いスルーしてたわ……。


 なるほど。道理で「自分は正式に派遣された者だ」と言った訳だ。

「天使の隠し子」であるということは即ち、シナリオブレイカーでありながらファートムの手足でもあるということ。

 彼に命令されてここに潜入し、隙を見て僕らを連れ戻そうって寸法だ。

「え、え、え!? じゃあフィロさんは!? フィロさんは何者なの!」

『あんなの、海生研究員のとこの玩具よ。どんな時もどんな所にでも連れて行く程の信頼っぷりからこじらせて、こっちに連れてきちゃったんですって』

 が、玩具……。

 酷い言われようだな……。

『それに私のことについても気になってると思うけど、私はあくまで艦長の右腕。彼に関して困ったことがあったらそちらを優先して解決するいわば工作員』

「ますます『天使の隠し子』っぽい」

『お黙り! ――そうして単独行動をしつつ、貴方達みたいな問題児を矯正したり敵襲の偵察に行ったり、得た情報の裏付けを取ったりしている。それが私のエリート戦闘員としてのお仕事。今回の貴方達の件だってそうよ。感謝するのね』

「余計なお世話だよ」

『そういう訳だから敵のUFOから補正は一つも取らせないし、博士救出の邪魔もさせない。彼は私が連れて帰る』

「……! どうしてそれを!」

 どうしてエンジェルが作戦の詳細を!?

『言ったよね? 前。って』

「……」

『私とマモンさんは特別なの。貴方達の考えなんてお見通しって訳よ』

「そ、そうなの!? マモン!」

「知りませんよ。どこ情報ですか?」

 ん。

「おい、どこ情報だとか言ってんぞ!!」

『事実よ! 過去からの情報よ!!』

「……嘘なんじゃないの? マモンがこんな所で嘘吐くわけないだろ」

『嘘じゃないわよ!! 私とマモンさんの関係に何てこと言ってんのよ!!』

 まるで跳ねるかのようにコックピットでぷりぷり怒りながらあーだこーだ言い始める彼女。

 ……いつ終わるかなぁ。

 あくびが出ちゃうや。


 その時突然静かになるエンジェル。


『分かった……ああ、分かったわよそれなら良いわ! 信じてくれないなら、従ってくれないのならこっちにだって考えはある!! 馬鹿にしないでよね……』


 そう言って何やらスイッチを押したエンジェル氏。

 すると戦闘機の下から僕を引っ掴んだマニピュレーターが堂々の威圧感と共に堂々ご登場。――しかもテラリィのそれより圧倒的に太く逞しい。


 や、やばい……!

 アレに掴まれたらこの戦場どころか、握り方によっては物語すら一発退場だよ!! 本気だよ!!


 一気に緊迫した空気になってきた。巧みな指裁きでもう、幾つかのUFOをそのマニピュレーターだけで破壊している。


『分かった?』


『貴方達に補正は渡さない。この物語の未来だって!』


『貴方達の好きにはさせない』


 つ、強過ぎる……。


(つづく)

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