見慣れた顔たち
宇宙での奇跡的な出会いによりエリート様達に拾って貰った僕達。身寄りがないので、可能なら
しかし艦長の許可が無ければ勿論居る事は出来ない。敵の変装の可能性だってある、らしいから。何より宇宙空間で無防備な格好してたのにのうのうと生きてるし、何なら元気過ぎてそれが怪しいとのこと。
まあ、そりゃそーだわな。
「マモーン!」
「おお、主! よく吐きませんでしたね」
「煩い」
テラリィの戦闘機から降りて直ぐ様マモンの懐にがばしと飛び込む。そんな僕を彼はしかと抱き締めてくれた。余計な一言ぶちかましながらもよしよしと頭を撫でてくれる。
意外と満更でもない。
「ホラ二人共おいで。案内するよ」
そこにエクラさんがやって来て僕らを艦長の所に連れて行きつつ船の中も案内してくれた――
――んだけど。
その時目に入った光景に思わず腰を抜かした。
補正の輝きでそこら中が何というか、眩い。
「え、え……な、何でこの船の乗組員全員に補正付いてんの?」
「あ、本当だぁ」
「本当だぁって、リアクションそれだけ!? ――って、え、ちょ! 何処から侵入したか分からん小っこいねずみの頭にも付いてるじゃん!!」
「フム。主要とわざわざ書いたのはその為なんですかね」
「……ってかマモンは何でそんな冷静でいられるの!? ちょ、ちょっとこれは異様じゃない!?」
「いや、驚いてますよ。かなり。私、余りに驚きすぎると寧ろ反動で落ち着くタイプなんです」
……嘘じゃないの? それ。
そんなこんなでここにも付いてるあそこにも付いてると一々びっくりしながら歩いていくと、やがて大きな窓の付いたメインホールみたいな所に出て来た。
ナルホド、ここが……アレね。アレアレ……あの、偉い人が集まるあの部屋。
あのー、あのー……えー……。
「制御室?」
「それかも!!」
「艦長」
そんなつまらない事言ってる間にもエクラさんはさくっと艦長の所まで歩み寄り、報告を始める。
「先程宇宙に落ちてた民間人を拾いまして」
「宇宙に落ちてた? どういうことだい?」
忙しく働く人々をじっと静観していた艦長が笑いながらそちらを向く。
……なーんか見覚えあるな。
「私も分かりませんが……兎に角落ちてたんです」
「宇宙空間に?」
「宇宙空間に」
「猫かな」
「猫……?」
「ま、良いよ、この話は。取り敢えず会ってみようか。何処に居る?」
「直ぐ後ろです」
言われて振り返る。
目が合った。
そこでようやく。
ようやく思い出した。
「――ああ、君たち二人ってんなら納得かな。宇宙に落ちてても」
「だッ、第三話のナンパ師ダイキ!!」
「久しいね、君。改めて、渋沢大輝。よろしく」
自然な流れで出てきた冷たい左手を遠慮気味に握る。
「相変わらず可愛いじゃないか」
糸目を更に細めてふっと微笑んだ。
* * *
「さ、書類を作るからそこに座って。クッキーは如何かな。無重力なもので、紅茶とかは出せないけどごめんね」
「頂き、ます」
凄い自然にダージリンを淹れようとしてたマモンが慌ててティーセットをお腹に戻した。飛んだ水滴が機械盤に当たり、浸透からの故障からの墜落云々が起きるなど溜まったもんじゃない。
クッキーはかなり固めだけどバターの匂いが強く香るチョコチップ。しっかりした歯応えと惜しみなく使ったバターが良い感じ。チョコとも合っている。
「怜から話は聞いてたよ」
瞬間吹き出した。
「ゴホゴホッ……れ、怜さんから、ですか!?」
「うん。だから接触したんだよ。面白そうだなって思ってさ」
「え、え……え? えええっ!?」
「ん?」
「怜さんが!?」
「うん」
「僕らのこと!!?」
「ん」
「話したの!?」
「話してないよ」
……。
……、……。
……??
「ん?」
「んふふふふふ」
「え、え?」
「魅力的であるというのは、時にデメリットだねぇ、少年。ホンモノの彼氏は今、果たしてどんな人生を送ってるかな」
「ちょ、ちょっと、さっきの話は!?」
「さあどうだろう。この船降りるまでに問いの答えが出せたらとっておきの秘密教えてあげるよ」
「え、別に良いです……」
「――怜の」
「欲しいっ!」
……と、そこまで会話を交わしてようやくハッとなった。
「今、何の話してるんでしたっけ」
「ふふふ、話を元の位置に戻そうか」
全然掴めない、この人……。
いつ脱線したんだっけ……。
「仲間に入れて欲しいって話だったね」
「あ、ああ、そうです」
「良いんじゃない? 悪さしたら直ぐ放り出す予定ではいるけど、そんな事したって生きてるだろうし、何なら敵陣に寝返ってそのまま反撃してきそうだし」
「……」
「だったら逆に監視しておいた方が全員のためなんだろう。何せ、僕の仕事は命預かってるからねぇ」
……よく、分かってるじゃないか。
「よし、そうと決まれば『善は急げ』だ。直ぐに入隊手続きをしてあげよう。――もしもしー? あ、修平くーん! ちょっと戦闘指揮所に来られるかい? あの、アレ持ってきて欲しいんだ。船員に渡してる……そう、あのバンド。あ、そうそう。新入りが居るんだよ、二つ……え? 駄目だよぉ、解体しちゃ!! ロボットじゃないんだから!! ――や! 確かにね!? 宇宙空間泳いでたらしいけど!! 出てくるのは基盤じゃなくて内臓だから!!」
「あれ、これトンデモナイ人に襲われそうになってる?」
「かもしれないですね」
「あと、ここ制御室じゃなくて戦闘指揮所っていうんだね」
「私も初めて知りました」
「ちぇ、じゃないんだよ全く……あ、もしもしセレナ? 今戦闘指揮所に来られるかい? 新入りが二人増えるから、空いてる部屋に案内して欲しいんだ。……ん? だーいじょうぶだって、ゾンビじゃないから! ……、……ん? 敵のスパイでもないよ。……、……、……ロボットでも無いってば!! ってか何処情報なんだい! そのロボット説っていうのは!!」
「何か僕ら、ロボットとして認識されてるらしいよ、皆から」
「まあ、無重力空間であれだけぱかすか呼吸してればそうも言われますよね」
「はい、はい。はーい。待ってるね。――いやぁごめんごめん! それじゃあ取り敢えず暮らしの保証だけはしましょうか。ちょっと設問に答えていってくれるかな」
「テストですか?」
「というよりかは、保険のために必要って感じかな。ここに簡単に名前を書くだけで良いよ。書いてる内に二人の内どっちかは来ると思うからさ」
「はい」
言われるがまま説明されるがまま名前を何枚かの書類に書いていく。
どうやら緊急時のチェックリストとか、もしもの時の連絡だとか……何か諸々の為に必要なんだそう。
「ここ、壊れやすいからさ」
「ほうほう。……ん?」
壊れやすい?
「気にしないで」
「……? は、はあ」
ちょっと命にかかわりそうな気になることもあったが、そんなこんなで書類を全て書き上げた時ブーッとブザーが鳴り、次いで一人の少女が入ってきた。
「艦長、お呼びですか」
「お。わざわざ悪いね、どうしても君に会って欲しくてさ」
「そうですか」
「ほらおいで、二人とも。挨拶を」
「あ、ども」
立ち上がり、そちらを向くと――
「ウゲッ!! 第三話のエンジェル!!」
「……二人って時点でちょっと嫌な予感はしてたのよ」
お前が何でここに!!
「あははっ、良かったね! 嗚呼っ、感動の再会が今ッここに!!」
「「感動じゃないです!」」
「どうしてここにいるの?」
「お前こそ! 偽名使って何してんだよ、隠し子の癖に!」
「誰がそんなこと言ってたわけ?」
「あはは、はひー! 傑作、傑作……」
ダイキ、アンタも中々性格が悪いな!!
「何しに来たわけ? 出来上がったばかりのこの話に。ファートムの苦労を無駄にしないで、お願いだから」
「そんなの、お前と同じだよ。シナリオブレイカーさんとやら」
「……言いがかりはやめて。私は正式に派遣されてるの」
「本当の名前はエンジェルっていうくせに。全員に言いふらしてやろうか」
「セレナだって本名みたいなものよ、大事な友達の名前なの。今日は……カルドさんもいらっしゃるから」
最後の方はちょっと恥じらいながらぽそぽそ言ったセレナ。
ふーん?
「寝取るんだ」
「言いがかりはやめてって言ってるでしょ! 大事な友達の彼氏さんにそんなことする訳ないでしょ!」
「……!」
「二度と、悪く言わないで。彼らのこと」
……何だよ。ムキになっちゃってさ。
「まあまあ。昨日の敵は今日の友、なんてね。これで分かったと思うけどこの船には君が知ってる人が後何人かは乗ってるんだ。探してみるのも一興じゃないかい?」
「ほ、本当ですか!」
「君がどこまで顔が広いか知らないから、何人乗ってるとかは断言できないけどね」
「え、え……例えば……その、えー……ジャックとかは」
「ジャックは乗ってない。今はとある理由で休暇を取ってるからね」
「え!? 何かあったんですか!?」
「馬鹿ね。貴方が壊したせいよ」
エンジェルが腕をつねりながら小声でそう言った。
――なるほど。そうだった、シナリオブレイクは口にも出せないようなとんでもない重罪扱いなんだったっけ。
「その代わり、他の……例えば全話に共通して出ているような子ども達は乗っている可能性が高いかもね」
「デヒムさん、とかも?」
「ああ、そうだねぇ。探してみてはどうだい?」
「えっ! 凄い!! ――あっ、あと、じゃあ、その……れ、れ……」
「怜? いるよ。さっきそこら辺をうろうろしてたから後で会えるんじゃないかい」
「うしょっ!!」
変な声が出た、変な声が出た……ッ!
会えなくても良い、会えなくても良いけど視認だけはしたい……。
思わずその手で顔を隠さずにはいられない、たまらないッ!
「ふふ、幸せそうで何より何より」
きゃーっ、頭撫でないでー! 照れちゃうー!
「――さて、と。何か修平君、来る気配ないし、先にお部屋の案内でもしてもらおうかな。それじゃあセレナ、頼んでも良いかな」
「……なんか得心がいかないんですが、艦長のご命令とあらば」
「よろしくなぁー、エンジェルゥー」
「一々煩いのよ、貴方って人は」
「それじゃあお願いしますね、エンジェル」
「はい、お任せください」
……何でマモンにはそんなに素直なんだ。
* * *
艦内を首取れそうな勢いできょろきょろしてる僕の隣で不意にマモンが問うた。
「エンジェル」
「はい?」
「綺麗な歌ですね、前の話で千草に習ったのですか?」
「あれ、歌ってましたか? 私」
「ええ。……何故でしょうか。心に染み、とても懐かしく感じます」
「……」
「故郷の歌のような」
「……そう、ですか」
「何という曲名でしょう? 是非お聞かせ願いたい」
「……、……まだその時ではありません。千草の歌でもない」
「そうなんですか?」
「ええ。――それに、この曲について本当に知らなくちゃいけないのは貴方だよ、ベネノ」
「え、僕?」
「しっかり覚えておいて、このメロディー」
「その時には覚悟を問うことになる。生半可な気持ちでこの歌に接しないで。絶対」
「……? お、おう」
あんまり興味はないけど、マモンが羨ましそうな、どこか寂しそうな目をするものだからちょっと聞いてみた。
寂しそうな、でも懐かしむような温かい、一分にも満たない曲。
これに何を感じているの? マモン。
(つづく)
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