真っ只中のエリート戦闘員

「到ちゃー……ウワアアアア!?」

「危ない、主!!」


 宇宙に到着した瞬間目の前を物凄いスピードの何かが駆け抜けていった。

 もう少し反応が遅ければマモンの鼻の頭が取れてたかもしれない……。

「大丈夫ですか」

「僕は大丈夫だけど、あれは何!? 何かガッツリ戦ってんじゃん!」

 シューティングゲームとかでよく見るちっちゃな円盤が縦横無尽に飛び交いながらビームを撃っている。

「ねえ、物語の序盤なんじゃないの!? コレ。序盤は宇宙人攻め込んできたみたいな展開なんじゃないの!?」

「そういうのは全部、最初のナレーションで端折った感じですかねぇ? 要するにもう戦争は始まってるってやつです」

「端折ったって……とすると何と戦ってるの? あれは敵? 味方?」

「さあ。確かめてみないことには……」

「追う?」

「ええ、追ってみましょう。しっかり掴まっててくださいね!」

「う、うん!」

 急にスピードを上げ、マモンが目の前の軍団に付いていく。

 隊列を組んだ円盤は頻りにビームを前方に向かって撃ちながら何かに対抗している様子。だけど爆炎が凄すぎて何にも見えないな……何してんの?

「もっと近づける?」

「そうですねぇ……」

 すうっと隊列の横に出て円盤を追い越していく――


 ――と


「……!」

 マモンが何かに気が付いた。

 その瞬間、頭上を五機の流星のような宇宙戦闘機が流れていく。


 直後には横にあったはずの大軍団が次々と爆散していった。

 衝撃波で二人揃ってぐるんぐるんと回転しつつ横方向に弾き飛ばされる。


 ズガガガガッ!!

「ワア――ッ!?」


 驚く間もなく今度はさっきの宇宙戦闘機がこちらに向かってきてひょいっと僕らの体をマニピュレーターで回収した。

 構造とかはよく知らん。

「マモン!?」

「そんな軽装備で良く生きてたな! 早くそこの酸素ボンベ使え!」

 いつの間にか狭いコックピットの隙間に収納されていたらしい。目の前には何やら難しそうな機械盤や操縦桿そうじゅうかんをいじりながら鋭く叫ぶ青年。

「き、君は?」

「丈夫なのかどうかは知らんが早く酸素ボンベを着けろ! いい加減死ぬぞ!!」

「あ、は、はい!」

 とんでもない剣幕に慌てて傍にあったボンベを装着。

 余り体に変化はないけれどやってなきゃ怒られそうだな。

 何度か大きく深呼吸をすると目の前の青年がこちらを横目で見ながら短く言った。


「俺はテラリィ。グループAのリーダー。よろしくな!」

「……!」


 エリート戦闘員!!


 別格主人公の一人!


 * * *


 あー、目の前で補正が光ってるなぁ……! よだれ出る程欲しいなぁ! でもこの状況で補正取ったら落ちるよなァ、この宇宙戦闘機!

「あ、あ……あ! そうだ、そういえばマモンは!?」

「連れの若者のこと? 彼はフィロが回収した」

「通信取れる?」

「そんな余裕はない!」

 叫んだ瞬間前から飛んできたビームを右旋回で避けた。

「ウワアアアアアッ!!」

 ゴチーン!

 つつつ、右頬を思いきりぶった。

 痛てぇじゃねぇかよ!!

 そ、そういえば酸素ボンベ着けなきゃ生きていけないこの状況でどうやって会話成り立たせてるんだろう!

 これも主人公補正かな――ああああああっ!?

「酔うなよ!」

「あ……酔いやすいタイプで……」

「酔うな! 命令っ!」

 今度は慌てて酔い止めをバリバリ食った。

 スピードを一気に上げればさっきとはまた別の隊列に突っ込み、五機で一気に爆破していく。

 その圧巻たる操縦技術には目を見張るばかりだった。

 ……げぼじわるぐで全然楽しめないけど。

「どこで操縦習ったの?」

「習ってない」

「――え」

 なるほど、天才タイプか?

 習うより慣れろ、今までの経験と豊富な知識が教えてくれる、みたいな――


「乗れって言われたから乗ったら出発した! 今は全部でやってます! ボタンはあの……レバガチャってやつ! たのひぃーっ!!」


 そう言ってまたガチャガチャボタンをいじる。すると物凄い数の敵機が爆散した。火炎の中を気持ちよく通り過ぎていく。――って、えええ!?

「ええ!? 勘!?」

「ええ、勘です」

「え、ちょ、勘!? どのボタンがどの役割とか全くわからないの!?」

「ええ、今まで全部それでやってきました、全て勘です! おかげでリーダーにもなれたのでやっぱり勘は大事です! 勘大事!! ――ん。何だこれは。えい」

 ぽち。

 シュゴオオオオオ……。

 ドカアアアアアアン!!

「あ、ミサイルかぁ、すごーい!」

「えっ、あの威力のやつって、とっておきみたいなやつなんじゃ――」

「あ、でも今ので無くなっちゃった!」


 やっぱりな!!


「でもきっと大丈夫だ!」

「やだ僕、まだ死にたくなあああああい!」


 悲鳴をあげる僕はよそに戦闘機はどんどん進み、敵が待ち伏せる所目がけてずんずん近付いて行った。

「え、因みに作戦は……」

「勿論、俺が決めてます」

「え、因みに今はどんな作戦なんですか」

「んふふふー。聞いて驚くなよぉ?」


「皆俺に付いてこおおおおおおい!!」

「元気いっぱい言って何になるって言うんだ――おあああああっ!?」

 酔う、酔う!!


 * * *


「各員、各員に告ぐ!」

 そろそろ敵機が多くなってきた。テラリィが片手で操作しながら通信を取る。

 拠点とかそういう感じか?

『何?』

 しっかりした感じの女の子の声だ。画面の端にエクラって書いてある。

 エクラさんか。

「目の前に何かでっかいのあんじゃん! ほら、あの宇宙戦艦ヤ○トが縦に長くなったみたいなやつ!」

『あるね!』

 今度は元気な声。トゥルエノさん、らしい。

 ……本当にどっかで聞いたことある名前なんだよな。

「あれ、ボスっぽくない?」

『……またいつもの勘か?』

 これはカルドさん。ふむふむ、カルドさん。

 ……今「いつもの」って言ったか? この人。

「勘だよ! 俺の勘を信じろよ!」

『まあ、当たりますけどねぇ』

 この物腰柔らかそうなのはフィロさん。ほうほう。

「そーゆーわけなのでアレを破壊したいと思います! 協力しろっ」

『……』

『……』

『……』


 しーん。


『……いや、当たりはするんですけどね』

『どうやってやる気なの! アレ、どう見たって私達の攻撃ぐらいはどうってことないって装甲でしょ!?』

『まあまあエクラ。今はテラリィの話聞いてみようよ』

『煩いわねっ!』『ウルセェな!!』

『ひっ、ひぃぃ!』

 トゥルエノさんのなだめにエクラさんとカルドさんが同時に叫ぶ。

 余りの大声にまた耳がキーンってなった。

 勘弁してよぉ。

『大体、何で俺達がいつも酷い目に遭わなきゃなんねぇんだよ!』

『そうよ! バリアー展開するのは私なんですからね! 分かってんの!?』

『自分は遠くからぼーっと見ていやがってさ!』

「だ、だってそうでもしなくちゃ弱点見極められないだろ!?」

『『そんな考えてない癖に!!』』

「ひっ、ひぃぃ!」

 今度はテラリィが目の前で小さくなった。やっぱり勘で全てが上手くいってる、人望厚い完璧英雄リーダーってわけじゃないのか。

『それで? 一応聞いてあげるけど、どんな作戦予定してるの』

「え? あー……まあ行ってから決めよっかなーとは思ってたけど」

『『やっぱり考えてないじゃん!!』』

「うああああ!」

 なんやかんやゴチャゴチャ言い合いながらも仲良くそのボス戦艦とやらに突っ込んでいく五機。

 なんやかんや仲は良いのかもしれない。

「取り敢えず撃ってみるか!」

 また物凄く心配な「えい」を繰り出しながらビームを発射するテラリィ。


 シピュピュピュ。

 かきーん。

 シピュピュピュ!!

 第四機――カルドさんに向かって真っすぐかっ飛ぶテラリィのビーム。


 は、跳ね返ったァァァ!?


『ウワアアア!?』

『カルド!』


 ずがぼおおおん!


 咄嗟の所でエクラさんが展開したバリアーに弾かれて両機とも何とか一命をとりとめた。


「あ、ワリ!」

『『ワリ! ――じゃねぇえええええ!!』』


 この人達も大変だ。


 通信の向こう側でひたすらギャーギャー喚き散らすエクラさんとカルドさん。トゥルエノさんとフィロさんに至っては何も言ってこない。

「まあまあ皆ー、さっきの事故未遂は置いといて!」

『『置いとくな!!』』

「なるほど。外壁にビームを撃っても跳ね返ってきちゃうんだな」

『もっとドデカイ一発ぶち込む? 例えばこのミサイルとか』

「うーん……何か、今じゃない気がする」

『じゃあやめとくか』

「うん。取り敢えずは他四機がおとりになっといてよ! 俺、何か決定的な一打ぶち込めないか探してくる!」

『『またそれか!!』』

 またなのか!

 そうこう文句は言いつつも黙って従う他四機。

「……あ、あの、テラリィ」

「ん?」

「大丈夫? こんな風に離脱してきちゃって。皆大丈夫かな? 僕達だって、狙われないわけじゃないのに」

「大丈夫。きっと死なないさ」

「き、きっと?」

「そ。俺の勘は大体当たるから」

「……それって偶に外れるってこと?」

「うん。さっき二回連続で外したから今度は大丈夫だと思う!」

「思うって……!」

「さ、黙ってな。舌噛むぜっ!」

「あ、あ……あぎゃぎゃあああああ!!」

 弾幕をすり抜けながら戦う四機。その隙に戦艦の周りを周回するこちら一機。

 じっと黙ったままぐるぐる回り続けるテラリィ。全然話してくれなくて暇なのでぼーっと他四機を見る。

 彼らはこの心配リーダーと違ってちゃんとそれぞれの役割分担があり、その定めに従って行動をしているらしい。

 エクラは守護。

 トゥルエノはその速度を活かした翻弄。

 カルドはばりばりの攻撃役だ。

 そしてフィロさんはそれぞれのサポートに徹している。時々聞こえてくる通信では怒濤のフィロさん取り合い戦争が繰り広げられていた。

 大変だ。


「ア!! アレかも!!」


 ――と、その時テラリィが素っ頓狂な声を上げた。トゥルエノとエクラに連絡を取ってこちらに来てもらう。

「な、何?」

「え? 今からあの戦艦を行動不能にするんだ」

「撃沈とかじゃなくて?」

「んー、行動不能が限界かな。でも多分いける」

『来たよ、テラリィ!』

『何?』

「今から言う事をよく聞いて。まずはあの戦艦上部に付いてる大きなスコープ。あそこに向かってトゥルエノはまず一発ミサイル撃ち込むんだ」

『ええっ!? 貴重な一発を!?』

「良いよ。それでスコープが復活するのを待って……」

『わざわざ爆破したのに待つの!?』

「それでそのまま弾幕のおとりになって欲しい。頼める?」

『……うーん』

 暫し沈黙。

 そりゃあ悩むよな。

『それ、今回の勝利に繋がる?』

「うん。俺を信じてよ」

 さらっと軽く返すテラリィ。僕からすれば冗談じゃねぇって軽く掴みかかる所なんだけどトゥルエノは流石の優しさ。

『なるほど。じゃあ信じるよ』

と言ってさっさと作戦行動を開始しに行ってしまった。

 えええ……大丈夫か?

『私は?』

「トゥルエノがおとりになってくれている隙に……えーっと、あ、あそこ! あそこの何か美しい球を破壊する!」

『破壊したら?』

「うーん、あとは何とかなる!」

『……』

 またしても沈黙。

 そりゃそうだ。作戦の詳細を教えてもらっていないもの。そんな簡単にその身を預ける訳――


『はあ、分かったわよ。付いて行けば良いんでしょ?』

「わぁっ! 助かるぅ!」


 行くんかい!


 突然二機が急旋回し、戦艦のスコープ等の視野に入らないように器用に抜けていく。その時、頭上で爆音がした。

 トゥルエノのミサイルだ。

 その後直ぐにふいっと後ろを向いて逃げ出した。猛攻がトゥルエノを追いかけていく。


『「今だ!!」』


 息ぴったりに飛び出した二機。ビームを思いっきり撃ち込んで緑色した美しい球体の何かをパリン! と破壊。

 その途端、分かりやすく外壁等を覆っていたシールドが無力化。下の方でほったらかされてたカルドさんがたまたま放った一発がそのまま船底に激突した。

 ぼかん! と爆発して穴が開く。

『ん』

「おおっ、良いぞ良いぞ! カルド行け!! 沈めろカルドー!!」

『お、おお、何か知らんが目の前の戦艦が突然玩具になったぞ』


 そこからは早いのなんのって。

 カルドさんの容赦ないビーム攻撃がどんどん船体に穴を開け、彼らは活動不能になった。

 直ぐにシールドの機能は戻したために一命だけは取り留めたものの、見ても分かるガラクタっぷり。

 色んな所から煙を上げながらゆっくり下の方に落ちていく。


「よしっ!! 作戦かんりょー!! 作戦、お疲れさまでしたー!!」

『お疲れ様』

『お疲れ! テラリィ!!』

『うぃーっす』

『お疲れさまでした』


 そして何事も無かったかのように散っていく他四機。


 すっげぇ……。


 感想がこれしか出てこん。

 兎に角実況しかできなかった。早過ぎて、危なっかしすぎて。


 それ程の俊敏かつ鮮やかかつ素晴らしい戦績。


 これが全て「勘」だというのか。


「お待たせ、少年。作戦は終わったからトランスウォランスに帰ろうか。艦長に紹介してあげるよ」


 こんなにあどけない笑顔をしている少年が。


 ……。


 マジ何者だ?


(つづく)

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