宇宙を手に入れよう
……どたどたどたドタドタドタ、バアアアアアン!!
「おっはようございます、主いいいいいいっっ!!」
……。
……、……。
しーん。
* * *
「主っ、主っ、主っ! 起きてください起きてくださーい!!」
「う、ううん……まだ眠いよ……」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんですよー、起きてくださいよー!!」
電気を点けて、フライパンもガンガン叩いて、ぐるぐるどたどた走り回って上機嫌なマモン。
……お前そんなキャラだったか?
「主ーっ! ヘイカモン現実っ!」
独特な起こし方してるけど布団を頭まで被って無視。今時計見たけどまだ深夜三時じゃないか!
どこの子どもだよ、元気あり余ってんのか!
「主っ!」
「……」
「ねーねー主ーっ!」
布団を勢いよく引っ張ってくるがこっちにも意地があるんだ。
無視を決め込んでやる。
「主ーっ!! ねえねえ主ってばー!!」
「……」
無視無視。
「あーるーじっ」
「……」
無視だ無視!
「……」
「……」
「主っ」
「……」
無視!
――と。
ふと静かになった。
流石に疲れたか? と思ったが……違う。
何やらちっちゃなあんよが布団の上に乗って来た。
鳥か何か……。
流石に気になって、そちら側にちょっと目をやると一羽の烏がちょこんと肩に乗っかっている。
首をくるくる回して可愛い奴め。だが、あと二時間は最低でも寝かせて欲しい。
頼むからさ。
「ほれほれ、どっか行き給え」
しっし、と手で払うが烏はどーにかこーにかしてずっと肩に止まり続けている。
もうー、次から次へとしつこ――
と思った時。
「ッ」
耳元で不意に息継ぎみたいな音が聞こえた。
え。
っちょ、な、何。
何が起き
「カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
遠く何キロ先からも聞こえる超ドデカカラスボイスが耳元で炸裂!!
思わず飛び起き、ベッドから転げ落ちた。衝撃で頭をガツンと床にぶつける。まだ耳の中でキーンって音が鳴りやまない。
あ、お、音が、音が聞こえない……聞こえない……。
「おはようございますっ、主!! 今日は最っ高の日になりそうですねっ!」
「最悪の目覚めだわっ!!」
* * *
「宇宙戦争モノー?」
「はいっ!」
まだ頭がぼーっとしてて体も動かない早朝。
マモンがてきぱきと着替えをさせてくれている。
……。
……、……。
……あれ、今日槍でも降るかな。
「その……何だ。SFってのは、あれ? 前からマモンが言ってたあれ?」
「そうですそうです! 事前登録みたいなのしてたんですがねっ? それが今日から遂にリリースなんですー! やったー!」
「ふーん……」
もう殆どベッドに横になりながら適当に返す。
よくよく考えたら何だ、事前登録って。アプリじゃねぇんだぞ。
「ふ、ふーんってあーた。これはめたくた凄い事なんですよっ!? 宇宙ですよ宇宙!! ずっと欲しかった宇宙、夢にまで見た宇宙!! やっぱ、世界の王たるもの、宇宙ぐらい所有地じゃないといけませんよねっ!」
「誰が決めたルールなんだ」
「やだなぁ、私に決まってんじゃないですかー!!」
そう言ってまたるんるんし出すマモン。テンションの落差が激しすぎて胸やけしそうだ。
「主っ、そういう訳ですから決めましたよっ! 私っ! 今回のターゲットはSF! これで決まりです!!」
「……」
「宇宙を手に入れるんだー!」
「まあ、マモンがやりたいんららいいんじゃらーい?」
呂律も回らない程の眠気に襲われながらまた適当に返した。
でも。嗚呼この時。
――今なら。今ならはっきり言える。
嗚呼、どうしてこの時。
こんな思考力が低下したまま適当に返しちゃったんだ。
もっと話を聞いてから決めれば良かった。
昔のこと、例えば第一話でのあの会話とか思い出して、早くに違和感に気付くべきだった。
彼のこのテンションに流されなければ良かった。
だって、この後……。
「主。それじゃあ今回のお話の概要を説明しちゃっても良いですかっ?」
「はい、どうぞ」
「それじゃあ話しますねっ! 嗚呼、説明書がぴかぴかだっ。新品買った気分だなっ、嬉しいなっ」
「早く始めてよ……眠いんだよ……」
「はいはいーっ……おおー、誰のメモ書きも無いー。新鮮ー」
「……感動に浸ってるんなら僕、寝てても良いかな」
「だっ、駄目ですよ主! しゃんとしてくださいっ!」
「えーおほん!」
時はYYYY年。かつて海の向こうやってきた人間が「新大陸」に辿り着き、領土を拡大していったあの日のように。
宇宙も長い時を経て進化が進んだことで、遂にとある大きな星の宇宙人が我々の太陽系を発見した。
「完全新作ですよーっ! 今まで渡り歩いていた世界ってのはどれも中古品みたいなのばっかりでしたからねーっ! リリースされたばっかりの世界……新鮮!」
「で? 東海ナントカ膝栗毛みらいに星々を旅行でもするんかいね」
「いや、先ずは生命のいない惑星なんで……えっと、ああ、火星を乗っ取ったらしいです」
「へー、火星を……乗っ取ったアア!?」
急に目が覚めた。
の、乗っ取った……。
「真逆の宇宙戦争ものですか、今回」
「侵略ですねーわくわくしますねー!」
「そうか、ゴテゴテの科学戦争になるのか……」
「設定も新鮮ですねっ! 魔法が一切出てこないですよー、ほらっ! 日常の欠片もありませんっ!」
「作者らしくないなぁ」
「ええっ! 斬新ですねっ!!」
「こんなの作ることあるんだ、ストリテラ」
「楽しみ楽しみっ!!」
そうして抵抗する者もいないのであっさり取られた火星。
食用のナンチャラを栽培する為の巨大農園となった。
「このナンチャラって何?」
「これから名前が決まるんじゃないですか? ほら、ファートムはお話書きながら設定決めてくタイプじゃないですか」
……その癖に毎回完璧な設定よっこらしょしてきやがって。
ブレイクが一筋縄でいかなくなるから困るんだよ……ったく、アノヤロめ。
「――で、今度は王様の別荘として月があっさり取られ、そこでようやく人間達がパニくるって訳なんですね」
「……火星取られた時点で気付くと思うんだけどな」
「まあ、この作者、初めてですから。SF」
「うーん」
そうして月の異変に気付いた人間達。
海やら重力やらの気象的な色々の問題が起こり、彼らは太陽系防衛軍を急遽結成した。
「で、トランスウォランス艦なる巨大宇宙戦艦を組み立て、彼らは戦争に出かけた、と……」
「なるほどね。主人公は?」
「それが……」
「……何? 漢字が読めない?」
「い、いや、漢字は読めるんですが、その……」
「いっぱいいるんです」
「いっぱい?」
そう言って見せてくれた説明書には「主要登場人物」ならぬ「主要主人公」とかいう訳の分からない単語が並んでいた。
「何々? えー、艦長がダイキ・シブサワの、兵器開発局長がアンドリュー・シェリングで、副局長が……えー、カイセイ・タケシタとシュウヘイ・フルカワ二名」
「で、物語の花形であるエリート戦闘員がテラリィ、エクラ、トゥルエノ、カルド、セレナの五人……ほー。これ皆主人公ですか」
「……何か全員どっかで見たことある名前だな」
何かどっかで見たことはあるんだけど……駄目だ。頭が全然回らない。
「それじゃあこの中からテキトーに選んで補正をばしっと奪っちゃえば良いって訳なんですね。ミステリの補正があるから死にはしないし、積極的に向かっていけばいくほど運が強くなる異世界ファンタジーの補正に、全員の注目を引き、好感度高めの状態で接触が可能になる恋愛の補正もあります……これだけあれば直ぐにトランスウォランスに入れるでしょう。エリート戦闘員達に近付くのも容易そうです」
「……ところで話は変わるけど、その補正って今までちゃんと機能したことあったっけ? 取った後からの目立たなさが半端ないんだけど」
「そりゃあ分かりやすく恩恵受けてたらご都合主義みたいになっちゃうじゃないですか。目立たないからこそ、質が良いってもんなんです」
「ふーん……」
「それじゃあ残り文字数も少ないので話戻しますね」
「うーん。良いよ」
あー駄目だ。頭が回らん。物語の始まりなのに早速関係ない質問ぶちかましてしまった……。
「それで今回の作戦の発表なんですが」
「あい」
「ずばり」
「『科学兵器』vs『神仏』で参りますっ!!」
……。
……、……。
ん?
「あに?」
「だから、『科学兵器』vs『神仏』! 魔法が一切登場しないシリアスぶっちぎりの戦争にポッピンに魔法を捻じ込みます! こう、魔法少女が使うようなファンシーステッキを素敵に振って……なーんちゃってぇ!」
「え……? 科学隆盛の世界観にそんなモンぶち込むの?」
「宇宙服も一切着ず、私と主の魔力だけで全兵器を駆逐いたしますよ!! 戦争の序盤も序盤で最終兵器まで一気に無理矢理引きずり出し、敵の拠点たる戦艦を駆逐して物語を崩します。勿論、私達魔法使いの力だけで! ――あ、ああザコ敵は流石に別ですよ?」
「えっ、そ、そんなこと言っても僕、そんなにたっぷりないよ?」
「魔力?」
「うん」
「あっはっは! それはご心配なく! お弁当持っていきますから! 私の魔力使ってくださいよ!」
そう言ってガサガサと麩菓子を腹の中にしまい始めるマモン。
……何か今日はやけに多いな。いや、いつも多いけど。
「一体幾つ持ってく予定なの?」
「数……」
「――十本?」
「いや、数千本程……」
「明らかに多過ぎるよね!?」
どんどん度が増してくな、この麩菓子好き。
「体重くならない? 物語や作戦に影響しないようにして欲しいんだけど」
「そこは強欲。お任せください。質量さえも支配の範疇」
「ダイエットの神になりなよ」
「そういうのとはまた違うんですよ」
言いながらいつものように髪をゆるっとひとつにまとめた。
そうして背を向け、顔だけくるりと振り返ってくる。
「さ。今回は全編宇宙。無重力空間の中では特別な加護も必要なので私の背中から降りることは出来ません」
「空気無いから?」
「その通りです。それに空中泳げるのは宮○駿監督作品だけですからね」
なるほど。
「環境の変化に体に負担がかかることもあるでしょう」
「しかし、私が守ります。ご安心を」
「……頼りにしてるよ、マモン」
「お任せを」
いつものように背中にしがみつくと、マモンはいつもの潜入用扉を開いた。
いつもより高い。雲があんなに下にある。
どんどん目が覚めてきた。身が引き締まる。
向こうの方で太陽が輝きを増しながら登って来た。
大風が僕らの髪をなびかせ、マモンの長髪が美しい絹の旗のようにはためいた。
思わず胸がいっぱいになる。
これら美しさを守る為の戦いなんだ……。
胸に刻み、息を大きく吸い込み、吐く。
「飛びます」
「うん」
――体が投げ出された。
そうして重力に逆らいながら遥か頭上、これから戦場となる夜空に向かって飛んでいく。
全く前例のない、新作物語。
何が待っているんだろう。
(つづく)
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