グレ坊主

「最低限の文字数でとは思いましたが、ちょっと時間がかかり過ぎた。天井ぶち抜いて行きます!」


「ええっ!? 倒壊しない!?」

「大丈夫です、そんなに壊しません。せいぜい半分ぐらいの階まで」

「十分大災害だよ!」

「ふっふー。ここで壊れないのがフィクションの良い所!」

 楽しそうに言いながら右腕に何やらガシャガシャ鉄塊を纏わせ、バズーカに仕立て上げるマモン。

 ちょいちょいちょいちょい?

 ちょい??

「下がって!」

「ちょ――わあ!」


 ズドゴ――!


 ツッコむ間もなくその手から火柱を吹き上げ、天井五つ程に見事な穴を開ける。とんでもない量の瓦礫と土埃とが地下中に立ち込めた。

「げっほげっほ! えほえほ!! おええ!」

「よし、一丁上がりです。主、最短コース突っ切りますよ! きっと彼は五階に!」

「おええええ!」

 突然の瓦礫と土埃とハウスダストに目と鼻と喉をやられた座敷童を小脇に抱えてマモンは一気に飛び上がった。

 なるほど、本当に活き活きしている。一瞬ジジイになってたあのマモンはマジでどこ行った?

「こっ、これからどうするん」

「主、よくぞ聞いてくださいました! まずはこの話を聞いてくださいましね。この馬鹿マモン、先程まで忘れておったのです!」

「自分が馬鹿ってこと?」

「粉々にして差し上げましょうか」

 ヒイッ! 笑顔で怒らないで!

「ではなく、あんな外のお日様あたたかな場所で戦ったって我々に勝ち目はないという事を、でございます!」

「ほ、ほええ」

 言われてみれば……そうだよな。僕らは悪魔王の側についてるんだもんな。

「古代より陰陽という考えがあるように、『対』というのはどこにでもあるものです。例えば『男女』『敵味方』『貧富』、そして『天使と悪魔』。互いの特性が互いにとっての弱点であり、互いの特性が互いにとっての有効一打となる。即ち我々の闇の力は天使にとっての弱点、しかし逆に天使達の光の力は我々に有効一打を放つ。そうして互いが互いを抑制し合いながら商売仲間として存在し合い、歴史は紡がれてきたのです」

「へぇ」

「しかしご覧なさい、この『邪』に満ちた空間を! これぞ悪魔のホームグラウンド!」

「二回目だね、それ言うの」

「大事な事なので!」

 本当に元気だなぁ。

「ということは始めから急く必要はなかったのですよ、主。ここに来れば自然と我々の方が有利になる」

「なるほど」

「そうして我々が主人公の座を頂くって寸法です!」

「……んんん、途中抜けてますけど!? 肝心の作戦内容は!?」

「そんなん気合いですよ、気合い! 策なんか練らずとも今の我々なら勝てる!」

 そうして五階に到着。着地した真っ白二人。寸暇を惜しみ、走り出した。

「取り敢えず勇者を探します。そしたら一番初めに説明したのと同じ要領で主人公補正に干渉しましょう」

「はいっ――と、わああっ!」

 元気よく返事した瞬間床が崩れ、下からトゲトゲこんにちはああああああああああああ!!

 間一髪でマモンが腕を掴んでくれたおかげで助かった……。

 ひいい……。

「あ、気を付けて。そこ落とし穴ありますよ」

「遅い! 遅すぎる!」


 * * *


 その後、いくつものトラップに強敵にと圧倒的な力でぶっ潰し続けつつ進むも見えぬ勇者の背。

 ここまでで軽く一時間半は無為に過ごしていた。

 くっそー、どこにいるんだよ全く!

「落ち着きなさい、主。いざという時は魔王の部屋前までワープしますから」

 とか言いつつ、またそのまま一時間を徒にすごす。

 や、やべぇ……殺意が沸いてきたぞ、勇者の方に……。

「ちょい、何で見つからねぇんだよ! どこ歩いてんだ勇者オラァ! 出てこいあのクソガキ!!」

「楽しいですね」

「楽しくなぁい!」

 どうせなら魔王の部屋前まで天井ぶち抜いて待ち構えた方が楽だったけど、そこでもしも負けてしまえばシナリオの通常エンドに一直線だ。

 それはそれで困るということで、出来るだけ早く彼にエンカウントし、主人公補正を盗ってしまいたいというのは先程と変わらない。

 しかしいないのだ。しらみつぶしに探しているはずなのに、どこにもいない。

 いない。いないいないいない、いない!

 いないいないいないいないいないいないいないいないいない!!


 いない!!


「ねえマモン! ジャック、もう上の階に行っちゃってるんじゃないの!?」

「……」

 きょろきょろと左右を見つつ廊下を走るマモンは答えない。さっきまでハイテンションだったけど流石に怪しくなってきたのだろうか。

「ねえ、マモン」

 もう一度働きかけてみようと彼の方に顔を向けた――その時。


 石の壁を挟んだ向こう側の廊下の勇者と、丁度すれ違うようにしつつ窓越しに目があった。


あ。






「あああああああああああ!!」






 イタアアアアアアアアアア!!


「てんめ、いつもは大好きだけど今日という今日は許さねぇ!」

「ちょ、な、何!?」

「マモン、この壁ぶち壊せ。早急に」

「ほいきた」

 笑顔で構えるバズーカ砲! (肩担ぎバージョン)

「え、ちょ、待――!」


 ズガボオオオオン!!


 そうして瓦礫と土埃の向こう側から出てきたのは半ギレ座敷童、withマモンが変身した「強欲の鎌」。

「ちょ! マジ何なの!! 俺にサングラスかけた知り合いはいない!」

「知ったことか、この(とてもじゃないけど公衆の面前では言えないような悪口)!! 覚悟しやがれ!」

 流石は勇者、暴力的な一振り二振り全てを巧みに躱しながら逃げ続ける。

 でもさせねぇー。させねぇー。

「く、くそ! こうなったら」

 堪らなくなったらしく、そう言いながら背中に背負った大剣を取り出そうとするジャック。

 させませーん。させませえええええん!

「取り上げろ、マモン!」

「ほいきた」

 その瞬間物凄い磁力で大剣を鎌に吸いつけるマモン。

「わっ、わわ! ちょっと君達!」

 ここで終わると思うなよォ?

 今俺はなァ、キレてんだよ。

 キレてんだよ!!

「ほあああああああああああああああああ……!!」

 そのまま鎌を体ごとぶん回しながらハンマー投げの要領で――


「せいやあああああああああああああああああ!!」

「ちょっとー!」


 演出で雲を引きながら気持ちよくかっ飛ぶ大剣。かなり高い所にガキーン!! と良い音を立てながら当たり、ぶっ刺さる。

 そーこーにー。

「マモン。ロケラン」

「ほいきた」


 シュウウウウウウ……

 ズガアアアアアア!


「俺の大剣があああああああああ!」

 頬に手を添え、ムンクのなんちゃらみたいに叫ぶジャック。


 ――チャンス!


「マモン! 魔法陣!」

「ほいきた」

 鎌に込められた光を鎌ごと振って向こうに飛ばし、勇者にぶち当て、魔法陣を展開する。

 あーやったなー! やったなー!!

 俺の勝ちィィイイイイイイイ!

「ちょ、ちょっと! 本当に君達何なんだよ、もうー!!」

 勇者混乱中。そりゃそうだ。身に覚えのない罪でガチボコ殴られる人の気分だろう。

 しかし、しかしだなぁ。今回はそれに加えて「踏み潰されたアリンコは一生忘れない」現象も併発してるんだわ!! (因みに言うとジャックはミリ程も悪くない)


「覚悟ォォオ!!」


 ブン! と一筋、閃く軌跡!

 鎌は確実に頭部と補正の間を通り抜け、結合がカキンと良い音立てて外れる。

「やった……!」

 その途端僕らの背景を彩る世界にピシッとひびが入り、間もなく大小さまざまの欠片になって砕けた。

「え――」

「主……!」

 僕が呆然としている間にマモンは手をすり抜け、変身解除。まだ温みの残る補正をその手に掴みこちらにすっ飛んできた。

「補正を早く頭上へ! 急いで!」

「え、あ! うん」

 マモンから渡された補正を急いで受け取り、急いで頭上に浮かべる。

 すると世界は静かに元に戻っていった。

 いつの間にかジャックの背中には別のデザインの大剣が背負われている。


 ……。

 ……、……。


 ……あれ。


「い、今、補正取れたんだよね……」

「ええ。おかげで今、物凄く居づらいです」

 にこにこ笑いながらもその額には冷汗が伝っている。あ、ごめん。

 急いで補正を調整し、聖光をギリギリまで抑える。手にした瞬間その扱いが分かるようになるのだから何だか不思議。

「でも……あんまり変化が無いような?」

「ふふ。さて、どうでしょうか」

「――あ。そうだ、ジャック!」

 唐突な目標達成により突然我に返ると、目の前にはボロボログッタリのジャック。

「あ! ジャック、ごめんよごめんよ! 僕、悪いことしたか――むぉっ」

 謝り倒す僕の胸を突然下方から伸びた腕がわしっと掴む。

 え、え? え??


「悪いことした、じゃねぇんだわ。アァン?」


 ――あれ? ジャック?


「グレた?」

「おおー、グレましたねぇ」


夜露死苦仏恥義理ヨロシクブッチギリィ!」


 え、えー?

 えー??


(つづく)

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