第5話
猫に案内されて随分と山奥に入り込んだと思っていたけれど、私たちは走り出してすぐに山を抜け、元居た道路に出ることが出来た。
道路に飛び出すと、一台の車が急ブレーキをかけ、私たちのすぐ目の前で止まる。
「何してるんだ、危ないだろう!」
運転手が叫んだ。田所さんだった。
「戻って来てくれたんですね! 戻って来てくれるって信じてました! 乗せてくれるんですよねありがとうございます!」
ユウがまくし立てるように言って、有無を言わせずに乗車する。
「いや、違、どれだけ走っても戻ってきてしまって……」
「さあ行きましょう! はやく!」
ユウの出発の合図と共に、先ほどの化け猫が道路に飛び出してくる。田所さんがぎょっとして、あわててアクセルを踏み込んだ。
猛スピードで走りだした車に化け猫は追いつきはしないものの、離れることもなく、ぴたりと後を追ってくる。このままではまずいだろう。何か手はないのだろうか。
「ねえ、何持ってるの?」
ユウが私を指さす。
視線を向けると、私の手が光り輝いて……いや、私の手にある依り代の欠片が光っていた。これなら、あの化け猫も倒せるかもしれない。
私は窓を全開にして、そこから思いっきり欠片を化け猫めがけて放り投げた。
「ギニャアアアアアアアアアアア!」
耳をつんざくようなひどい悲鳴が上がる。
欠片は、まるで昼間のような強い光を放ち化け猫を包み込んだ。
「今のうち!」
ユウの指示に田所さんがアクセルを全開にする。
私たちは山道を抜け、見知った住宅街に入るまで無言でいたけれど、適当なところで車を止めてもらい、昇る朝日を眺めてから、ようやく危機を切り抜けたことを実感したのだった。
**
あの子はどこだろう。
いつも一緒にいた、あの子は。
体が妙に軽かった。
クロ、と呼ばれて振り返る。
あの子がいた。
でも、大きく育ったあの子じゃない。
幼い姿のあの子だ。
おいで、とあの子は言った。
それで、私は悟った。
全て終わったのだと。
あの子が笑っている。
笑っているあの子はいつぶりだろう。
私は返事に一声鳴いて、あの子の元へ走る。
誘い猫 洞貝 渉 @horagai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます