第2話 処刑され追放


 この世界では"禁忌のスキル"というものが存在する。

 それが俺が授かった【呪縛】だ。

 数千年前、【呪縛】を持ったある男が王を殺し、国を破壊したという伝承がある。

 その男は"呪いの悪魔"そう呼ばれた。

 その男は世界から集められた王都を埋め尽くさんとする数の騎士に殺された。

 それからも禁忌のスキルを持つ者を処刑する様になったのだ。

 

 「それって…どういう事ですか…?」


 「やめろ、近づくでない!」


 「おい待てって…」


 「く、来るな!!」


 気づいた頃には厚い鎧を来た騎士達に、囲まれていた。


 「大聖女様を守るんだ!」


 そうだ、シェラだ。

 シェラなら分かってくれるはずだ。

 

 「シェラ!助けてくれ!」


 騎士にはばかれシェラがよく見えないが一瞬だけシェラの顔を伺えた。

 一瞬見ることが出来たシェラの顔は恐怖という感情に溺れていた。


 シェラ……

 何でだよ……

 

 「シェラ!!何でだよ!!」


 涙が止まらなかった。

 しかしシェラは悪くはない。

 俺はこの世界では不必要の"呪いの悪魔"なのだから。


 すると頭を何かに殴られ鈍い痛みがジワジワと広がる。

 

 誰だよ……


 意識が遠のいて行くのが分かった。

 そして俺は意識を失ってしまった。


 ◇


 気がついた時には牢の中だった。

 壁にかけられた松明だけが灯を灯していた。


 「此処は何処だ?」


 ゆっくりと何があったのかを思い出した。


 そうだ俺は【呪縛】のスキルを得てしまったのか。

 俺は普通で良かったのに。

 俺は平穏な生活を送りたかっただけなのに。

 何でこうなったんだ。


 俺は鎖で手足を拘束されていた。

 

 そうだ。


 「ステータスオープン」


――――――


名前 グレイ=オールン


種族 ヒューマン


レベル 1


スキル:【呪縛】


〈呪縛の鎖〉呪属性を持った鎖で標的を拘束する。【状態異常】: 呪い Lv.1


〈不死の自縛〉決して死ぬ事のない自縛の呪い。


――――――


 恩恵の日を過ぎると「ステータスオープン」という掛け声で自分のステータスを見る事ができるのを思い出した。

 

 やっぱり俺は禁忌の【呪縛】を与えられたようだ。

 

 すると何処かから誰かが近づいてくる足音が聞こえた。


 「呪いの悪魔め。目を覚ましたか」


 この騎士には見覚えがある。

 シェラを守っていた騎士だ。


 「此処は何処ですか?シェラは何処にいますか?」


 「そんな事悪魔に教えられるか。お前はこれから処刑されるのだ。」


 処刑だと?

 嗚呼そうか。

 俺が呪いの悪魔だからか。


 俺は処刑という言葉を聞いた後生きる意味を失った。

 考えるのはシェラが今何をしているか、家族が何をしているのかだ。

 考えても無駄か。

 もう死ぬのだから。


 騎士が俺に何かを唱えると身体が痺れ動かなくなった。


 何かの魔法か…


 意識が朦朧とする中二人の騎士に引き摺られながら何処へ向かっていた。


 ふと気がつくと俺は処刑台のような場所に跪いていた。


 周りには多くの民衆が俺を見ている。


 どうやら人々は俺が処刑されるのを見ているようだ。

 

 公開処刑みたいだな…


 「おい悪魔、首を垂れろ」


 先程の騎士が大剣を持ちながら俺に言う。


 俺はもう諦めていた。

 こんな筈じゃなかったのに。

 普通を求めて何が悪いのか。


 クソっ!


 何でだよ!!


 「何でだよ!!何で俺だけこんな目に遭わなきゃいけないんだ!こんなの理不尽だろ!俺が何をしたって言うんだ!」


 「黙れ悪魔!!」

 「とっととくたばれ!」

 「悪魔は黙って殺されろ!」


 周りの民衆が俺に向けて罵声を浴びせる。

 

 お前らには俺が悪魔に見えるのか?

 俺にはお前らが悪魔に見えるよ。


 騎士が大剣を振り上げる。


 クソっ!!

 何で俺だけこんな目に!!


 振り下げた大剣が首に届くまでの時間は短いようで長く感じた。

 

 そして首に当たる寸前まで俺は思っていた。


 お前ら絶対殺してやる!!



 騎士の持つ大剣が俺の首を刎ね頭が宙を舞う――


 そして――


 俺の首と頭が何かの鎖によって繋がれた。


 「何が起きたんだ……」


 騎士のその一言に静寂に包まれる。


 俺にも何が起きたか理解するのには時間が掛かった。

 そうだ。

 俺には呪いが掛かっている〈不死の自縛〉が。

 決して死ぬことはないのだ。


 「何故死なないのだ!?」


 再び俺は首を刎ねられる。

 そしてまた再生。

 刎ねられ、再生。

 刎ねられ、再生。

 それを幾度も繰り返したが俺が死ぬ事はなかった。


 「お前何をした!」


 「何もしていない…」


 一人の騎士が処刑に失敗したことを誰かに伝えに行った。


 ◇ 一時間後――


 俺が連れて行かれたのは王城の地下牢である。

 先程いた牢より綺麗であった。

 牢の向こうには周りの騎士とは違う豪華な服装をした男が立っていた。

 

 「お前がグレイ=オールンか」


 コイツは俺の事を悪魔とは呼ばないのか。


 「嗚呼そうだ」


 「お前は国外追放だ」


 「俺を殺すんじゃなかったのか?」


 「お前は殺す事ができない。だから国外追放だ。お前は生涯この国への入国を断固禁止する!」


 「国外追放か…」


 恐らくもう家族とは会えないだろう。

 シェラにもだ。

 最後にシェラを見たい。

 最後にシェラの料理を食べたかったな。


 「最後にシェラと会わせてくれ」


 「シェラだと……?大聖女のことか、ダメに決まっておるだろう」


 「そうか……」


 俺はこれから何処に行けば良いのだろうか――


 何も目的にして生きれば良いのだろうか――


 誰のために生きれば良いのだろうか――


 最後にせめて彼女の顔を見たかったな。

 彼女が最後に俺に言った言葉、あの笑顔を一生忘れることはないだろう。


 『やったわグレイ!!』


 俺は何処かへ向かい歩みを進め始めた。



 

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呪縛持ちは平和を望む〜スキルが禁忌の呪縛だったので国外追放されたけどその呪縛最強につき無双する。英雄になったけど国に戻るつもりはないよ?〜 御霊 @ryutamatama

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