まどい星、まもり星 -宵の明星と不死の円環-

みなはら

第1話 まどい星、まもり星 -宵の明星と不死の円環-

-まえがき-

社に住む狐の物語です。


先ほど投稿した拙作、かぜをみたいを書きつつ思いついたものです。

そうしたわけで、一緒に投稿したかったんですね(^ω^)


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秋の夕暮れはつるべ落とし。


ふと気がつくと宵闇が迫って来ている。



稲荷の社へ身を寄せて久しいわたし。

長き年月ののち、稲荷に仕える神使しんしとなりし狐であります。



空の暮れゆく紅と薄闇の青とのなかを、

使いの帰り道、少し暖かな胸のうちを感じつつ社へと戻る最中のことでありました。


https://28310.mitemin.net/i597429/



空には一番星、宵の明星が見えております。


知り合いの、人の身の御用人のところへのお使い。

神に仕える隣人との、久しぶりの気のおけない語らいの時間。


それは思いのほか楽しい時間で、ついつい長居をしてしまいましたのでありました。

彼と語らうと、時間を忘れてしまうのです。



年若い姿の彼とは、仕事柄の付き合いも多く、

時には仕事から離れたところで、友人として会うこともあるのです。

そうした時間は、何ものにも代えがたい大事なものでありますね。


縁は異なもの味なものとも申しますが、こうしたことをそう申すのでありましょうか……。



そんなふうに、ふと足を止め物思いに耽るうち、

夜の足音がそこまで迫りつつありました。


灯りを出さなければいけないかな?

人の目に触れないよう、すこし炎を細工して……。


そんなふうに思いつつ、ふと思い出したこと。



そういえば以前、

親友の猫又と一緒に、狸と猫の御霊みたまを連れ帰ったのが、この辺りの場所だったのに気づいたのでした。


あの子らとの縁、始まりは小さな出来事でした。

惑う御霊と執着する想いと、あやかし……。

一人の人から繋がった縁……。


あの青年との縁はあれきりでありましたね。

宵闇の中、すこしだけ、あの青年のことを想うのでした。


https://28310.mitemin.net/i597428/



霜の降る月。


秋の深まる時期、命は眠りにつく準備をはじめ、

現世で失われた魂が、澄んだ空に去る季節でもあります。


神使の眼を通して見る世界。

想いや魂がちりばめられ、漂い輝いて見える、美しくも寂しい心根となる世界であります。



当たり前の想いや御霊みたまは、漂いつつ、やがてこの世界より去りゆきます。


あやかしや神や、そうしたものに成る前の想いというものは、

世界に漂い、揺らめきながらとどまり、この世の片隅で眠りつづけ、

想いを集めつつ微睡まどろみを続けて、やがて新たな意志を持ち、

ふたたびこの世に目覚めたりするのです。


世界に生まれるもの、世界より去るもの……。

せかいはそうした想いと御霊に満ちているのでありますね。


https://28310.mitemin.net/i597645/



あの魂や、生けるものらの想いは、

古の物語や絵巻のように、月へと還るのでしょうか……。



宵の明星の見える季節。

惑い星につられて、迷う想いも多いと聞きおよんでいます。



人の想いというのは、

なぜ明るい道と暗い道とを合わせてつくり、考えるのでしょうね……。


迷うもの、迷う気持ちというのは、意識せず暗い道を選ぶこともあるのに。

こころ弱き時、さいなむ眩しさを避ける影を求めたりもするのに……。




不死の円環たる象徴の証、月……。

今は明るく満つる最中であり、やがては欠け、弦月となり、

新しき月、満つる月と繰り返すのでしょうね。


虹のもつ象徴、希望の円環のように、閉じた穏やかな世界……。


世は円環のようなもの……。

いつかはわたしも去り、また世界に生まれるのでしょう。


そのように、世は穏やかに歩んでほしい。


人の世も、そうして穏やかな時間を過ごせたらと思うのです。





https://28310.mitemin.net/i597646/



月の光の中、想いが旅立つ、秋の夜の宴の中を横切りつつ、

わたしは、皆の待っている社へと、家路を急ぐのでした。




「また来よう……。

今度は猫又タマちゃんと一緒にね……」



「あの人も誘おうかしら……」

ふと、そんな呟きが漏れた、明星の惑い星と月の夜のことでした。




-おわり-





「猫又ちゃん……。なぁに、これ?」


「ん?童話だよ(笑)

最近、ちょっと良いことがあって、嬉しげな稲荷ちゃんのことを見て書いたの♪」


「稲荷ちゃんの機嫌の良いのが、とても可愛くて(笑)

だからあたし、稲荷ちゃん主人公で書いてみたよ♪ ヒロインは○○(笑)」



「なぁによお~。

わたしだって嬉しいときは嬉しい顔するんだからっ!」


「もっと、嬉しい顔、寂しい顔、悲しい顔すれば良いんだよ(笑)

唐変木の朴念仁は言わないと分からないんだからさ(苦笑)」


「だってぇ~っ」


もじもじする稲荷ちゃんの姿は珍しい。

よっぽど嬉しかったんだろうな……。



「ほらほら♪」


でも、出来ないんだろうな……。


そう言ってはみるけれど、

相手から拒絶された経験を持つと、臆病になるものだ。




「ほっとくと、あいつは仕事の連絡とゲームの話しか、しないんだからさ~(笑)」


月の女神アルテミスとか、金星の女神ヴィナス、ククルカンとか、宵の明星の女神イシュタルとか、そんな(ゲームっぽい)話でもして気を惹く?(笑)」



「あいつ、知ってることは上っ面だからさ(笑)

はじめ、金星を象徴するのは、(読んだマンガで)明けの明星の天使ルシフェルだって思ってたんだよ(笑)

今はいろいろ覚えたけどさ、まだ宵の明星の天使ミカエルが、明けの明星の天使ルシフェルと双子だってこと、知らないんじゃないかな(苦笑)」




「えっ? そうなの!?」


「(笑)」


そうする説もあるんだよ(笑)



からかわれてると思って怒ってる稲荷ちゃんを見て、ちょっと思ったんだ……。


稲荷ちゃんはどんな道を選ぶんだろうね。


なんにせよ、稲荷ちゃんには穏やかに幸せになってほしい。

あたしはそう思ったんだよ。



〈おわじ〉

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まどい星、まもり星 -宵の明星と不死の円環- みなはら @minahara

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