さびしんぼを救う勇者
「唯菜がさびしんぼねぇ」
ってつぶやいただけでも、唯菜ちょっと笑ってる。天使ですねはい。
とここでそんな天使ってる唯菜を眺めながら俺は思った!
さびしんぼである唯菜。でも俺のセリフで笑ってくれる。つまりそれはさびしんぼ唯菜をさびしんぼさせない手段のうちのひとつに俺があるということ! 俺がいれば唯菜をさびしんぼさせずにできる! こういうことなんじゃなかろうかっ!?
「ゆ、唯菜はさ。俺といたら、さびしんぼじゃないんだよ……な?」
「うん」
うむ。
「俺は、唯菜のことをさびしんぼさせない能力を持っているんだよ……な?」
「うん」
うむ。
「俺は唯菜さびしんぼさせない能力持ちの、世界を救う勇者なんだよな!?」
「うん……?」
首を少々横に傾けていた気がしたけど、うむ。
「……お、俺が唯菜の横にいても、怒らな……いよな?」
「えっ?」
あーえっと、こほん。
「その。今日みたいに一緒に帰っても、怒らない~……とか?」
「……うん」
と、とりあえず伝わったか?
「……今日みたいな帰り方しても、怒らない~……とかとか」
小さくうなずいている。
「後でやっぱ怒りますとか言ってペットボトルロケットランチャー撃ち込んでくるとか、ないよな?」
首を横に振っている。
「ぇ、あるのか!?」
ああすごい勢いで横に振られた。またも踊る髪。
「……じゃ、じゃあ。よ、横に……いようぜ?」
なぜか位置を指定した俺。うん。唯菜はよくわかっていないようだ。大丈夫だ。俺も言っててよくわかっていない。
(ってあれ)
そこで唯菜は……いったんピンクいクッション、略してピンクッションから離れて、
(うぉ?)
テーブル挟んで向かいだった位置から、俺から見て、右の位置にセッティングして座り直した。なんか斜めに見合うことになった。
「よ、横来てくれて……さんきゅ?」
なるほど。確かに横にいようの提案に乗ってくれた。唯菜はココアもすぅーっと移動させた。
「横の気分を……どうぞ」
手で
「さみしくないです」
「なによりである」
唯菜は愛香と仲いいとはいえ、別にそこまでべったりなイメージとかもないけどなー。
「……蛍雪くんが隣にいてくれると、さみしくないし、楽しくて……でも、あの……」
両手が組まれてひざの上へ。
「おしゃべりが終わると、さみしいし、学校が終わると、さみしいし……」
「めっちゃさびしんぼやないか~いっ」
ここは思わずツッコミを入れてしまったぜ。ちょっと肩をすくめててへしてる唯菜。天使で……いや天使ってこういう使い方するものなのか? まぁ天使だからいいや。
「あ、でも蛍雪くんは、さみしくないんだよね? 私だけ、なんだか……」
む? それは一人っ子のときの話につながっているのか?
「俺も~、さみしい~、さ?」
「えっ?」
改めてこっち向いた唯菜。
「まぁさみしいっていうか、もっと会いたいっていうか……? 唯菜と会ってるときは楽しいから、また会いたい~……的な?」
本人に向かってこういうの言うのも、なんかちょっとてれっ。
「……私も。また蛍雪くんと、会いたい」
「おぅょ。また会おう
唯菜はゆっくりうなずいている。
「また会ったら……また会いたい」
「ぉぅ? また会おうZE」
哲学? 笑ってるからいいや。
「いっぱい……会いたい」
「いっぱい会おうZE」
唯菜からのいっぱいいただきました!
「……会いたい……」
(ん?)
これは俺に言うっていうよりかは、ぽつりとつぶやいた感じだった。
「……いっぱい……会いたい……さみしい……いっぱい蛍雪くんに会いたい。おしゃべりしたい。一緒にいたくて……私、私っ……」
「うえぇちょちょおーっ!?」
突然唯菜泣き出してしまったぞ!
「ゆ、唯菜、えーとあーなーえっとだな! 俺ここにいるぞー! これからも俺いるぞー! 日曜日とかも電話くれたら飛んでいくぞー! また一緒に帰ろうなー! いないいなーい……ぁじゃなくて、いるいるー、ばぁ~っ!」
世界でも珍しいであろう、いないいないばあならぬいるいるばあを披露したぞ!
セーラーのそでの先でちょっと涙を拭いていたが、それでもちょっとだけ笑ってくれた。
「……えへっ。私、さびしんぼだね。もう、蛍雪くんがいてくれないと……だめみたひゃっ」
好きな女の子からそんなセリフを、泣いてるやら笑ってるやらちょっと声振るわせてやらで言われたら、もう一生大切にします以外ないっスよね!?
「お、俺は唯菜のこと好きなんだぞ」
「えっ、あっ」
右腕を唯菜の後ろから右肩へ向けて、左腕を唯菜の右腕ごと、思いっきり抱きしめてやった。
「好きな唯菜と一緒にいたいし、楽しませてやりたいし、もっと笑ってほしいし。俺だって毎日唯菜と会いたい会いたい会いたすぴーって感じで寝てるしっ」
今唯菜の顔は右隣にあるから、これで笑ってくれているのかはちょっとわからない。
「そのー……あれだ。ゆ、唯菜も……俺の、こと……も、もしそうでしたらば、あのーごにょごにょ」
今まで気持ちを重ねてきたからなのか、言葉がうまくまとまらなかった。
(うぉ~国語もうちょっとまじめに勉強してたらよかったかー!?)
教科書も便覧も辞典も重いんだよ……。
「…………うんっ」
唯菜がゆっくり俺の背中に手を回してきて、これまたゆっくり抱き寄せてきた。
「あ、つ、伝わった系?」
うんかうなずくかくるかと思ったら、ちょこっとだけどさらに手に力を込めてきた。
「えーと…………じゃあその。彼女、さんになって、さびしんぼ人生とも、おさらばとか……いかがでしょうか」
セールスマンになれるのだろうか。いやこんなに気持ち爆発させてしまうのなら難しそうだ。
(ってうおお?!)
また力を込めてきた唯菜。くっ、余力を残していたとは!
「……私で、いいの?」
俺の右肩らへんで唯菜の声。
「唯菜に他の候補者がいるなら、俺身を引ぐえぇ!」
おいそれは締めすぎやろ! 能ある鷹は爪隠す?
「蛍雪くんがいいっ。一緒にいてほしい。あの。あのっ、あの…………」
ちょっとぷるぷるしてる?
「……だっ……大好きっ。大好きっ……」
女神ですねはい。ちょっとだけ顔を離して女神の顔見とこ。まばたきしまくりの女神や。たまらなくかわいかったので、唇へ向かっていった。
「蛍雪くん、来ていたの?」
「お、おじゃましてまーす」
ドアの開け閉めとただいまの声が聞こえたので、俺たちは一階へ向かい、愛香をお出迎えしたところ。愛香もウィンドブレーカー装備だった。もちろんセカバンも。
今日は愛香の髪もハーフアップっていうのだったと思うけど、今は正面だ。
「……もしかして?」
愛香が俺たち二人を見てくるなり、表情をさらに明るくさせながら、そんなセリフを放った。
唯菜は、下校のときは左隣をキープしていたのに、今は俺の左斜め後ろをキープ。というか身体半分くらい俺を盾にされてるけど。
「わぁ~! おめでとう~っ!」
愛香貫禄の両ほっぺた両手。
「お姉ちゃんっ」
全部盾にされた。レディーファーストならぬ俺ファースト。
「どっちから告白したの?」
「え~っと……どっちだ?」
ちらっ。
「蛍雪くんっ」
「ぅぇべっ」
なぜそこで俺の制服を引っ張るっ。隠れながら。
「ほら、唯菜は蛍雪くんと一緒にいたら、楽しそうだよね?」
「ああ。さっき本人からも聴ぐぇっ!」
だからなぜ俺の制服を引っ張るんだ唯菜!
でもそうやって俺で楽しそうにしてくれているのは、とてもうれしいものだ。
(あ。そうか。唯菜も自分をまっすぐ見てくれてうれしいとか、言ってたっけ)
俺はこれからも、まっすぐ唯菜を楽しませていってやりたい。
短編60話 数ある双子の一人のことがっ 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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