番外編
【番外編】文化祭が終わった後の咲良との電話
佑太くんと付き合うことになった日の夜、家に帰った私は咲良に電話した。
本当は直接伝えたかったんだけど、用事があったみたいで後夜祭には出ずに先に帰ってしまっていたのだ。
事前にメッセージで確認をとってから、大丈夫だという時間になってからかけると、数回のコールの後で通話が繋がった。
「もしもし、咲良?」
『うん。こんばんは、文栞』
「こんばんは、咲良。えっと……昨日言ってた後夜祭のことだけど……」
『――うん、どうだった?』
後夜祭に誘う、としか言ってなかったのだけど、さすがに何をする気なのかはわかっていたみたい。
だから私は余計なことを言わずに結論だけを端的に伝えることにした。
「うまくいったよ。佑太くんと付き合うことになった」
『……そっかー……。上手くいったかー。――良かったね。おめでとう、文栞』
「うん、咲良のおかげ。いっぱい力になってくれて、ありがとう」
『……私は何もしてないよ。文栞が頑張ったからだよ』
咲良の声は静かだ。
声色は優しいけれど、どこか淡々としている。
ちょっと思っていた反応と違うなと思うけど、まぁ文化祭が終わった後の夜だし、こんなものなのかも。
私は「ありがとう」と言いつつ、ふと、以前に咲良の言っていたことを思いだした。
咲良の恋愛のことを聞いたときの『私の方は、ちょっと難しいかも……』という台詞。実はずっと気になっていたのだ。
少し躊躇したけれど、もしかしたら今なら頑張る気になってくれるかも、と思って口に出してみた。
「次は咲良の番だね。私、出来ることは何でもするから」
『ん? なんのこと?』
「ほら、前に言ってたでしょ? 好きな人がいる……みたいなこと」
『あー、あー、あれね。うーん……』
咲良も思い出したみたいだった。
だけどしばらく言い淀んだあと、ようやく出てきた言葉は私の予想とは違ったものだった。
『私の方は……もういいや』
「――え? なんで?」
びっくりした。咲良から諦めみたいな台詞が出てくるなんて思わなかったのだ。
だから本当は訊き返すべきじゃなかっただろうに、思わず訊き返してしまった。
『もう終わっちゃってるからね』
「……もしかして、ダメだったの?」
『うん、まぁ、そんなとこ』
「そっか……。ごめんね、変なこと言っちゃって」
『そんな暗くならないでよ。別にそこまで落ち込んでないから。それより自分のことを喜びな』
「だって……」
後悔が押し寄せる。
いくら浮かれてたからって、『難しい』って言ってたのに余計なことを言ってしまった。
そのせいで咲良を傷つけたかもしれない。
だけど私のそんな心情を慮ってか、咲良が今日一番明るい声を上げた。
『あー、もう! じゃあさ、こうしようよ。――今度やけ食いするからケーキバイキング付き合って。あ、文栞のお祝いも兼ねてだけど』
「……そんなことでいいの?」
『うん。私だっていつまでも終わった恋を振り返るよりも、前向きたいからね』
さすが咲良はすごい。
きっと言葉通りの気持ちもあるんだろうけど、私に責任感を負わせないように出来ることを提案してくれている。
「わかった。何回でも付き合うよ!」
だからせめてそんな咲良の気持ちに応えようと力を込めて言った台詞に、すかさず『太るよ?』とツッコミが入った。
「う。そ、それは……。でも、咲良のためなら」
ちょっとたじろぐ私の声を訊いて、咲良は可笑しそうに笑っていた。
『ふふ。ありがとう。……ねぇ、文栞』
「ん? 何?」
『――大好きだよ』
なんだろう、突然。何の脈絡もない。
だけど私も別に迷うことなんて何もない。
「いきなりどうしたの? もちろん、私も大好きだよ」
『……ありがと。じゃあ、もう夜も遅いし……おやすみ、文栞』
「おやすみ、咲良」
通話を切った後、真っ黒になったスマホの画面を見て首を捻る。
なんかちょっと最後、変な感じだったなぁ。
でもまぁ……今度ケーキバイキングへ行く約束もしたし、もし何か話したければそのときに話してくるだろう。
話したくないなら話さなくてもいい。
気が済むまで食べて、その後遊びに行って、それを何度も繰り返せばいい。
元気づけようなんて気負わずに、今まで通り普通に過ごせばいいのだ。
きっと私に何か頼みたいことがあれば咲良から言ってくれるはず。
何も言わないということは、自分で解決出来るか、私には出来ることが何もないんだと思う。
咲良がいつかまた恋をしたら、そのときこそはきっと力になろうとそう誓って――。
私は部屋の電気を消し、布団へと入って眠りについたのだった。
【完結】内気な少女と人気者の彼 金石みずき @mizuki_kanaiwa
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