第三十八話(最終話)
「じゃ、そろそろ行くか」
「うん、そうだね」
私は差し出された手を自然に取った。
心がじんときて、思わず笑みが零れる。
ここに来たときとほとんど同じやり取り。
だけど、そこに籠められた温度は全然違う。
「佑太くん」
「ん、どした?」
私は歩きながら声を掛ける。
「なんか唯可たちが私のこと気にしてくれてて、待ってるみたい。さっき連絡が来たの。これから顔見せに行ってきてもいい?」
「ああ、俺の方にも近藤と谷崎から連絡来てた。このまま一緒に行こう。俺も報告したいし、まとめて話せばいいだろ」
「そうだね」私はくすりと笑う。「じゃあ唯可たちには私がメッセージ送っておくね。近藤くんたちには佑太くんにお願いしてもいいかな?」
「ああ。場所は教室でいいよな?」
「うん」
私たちは手を繋いだまま、空いたほうの手で二人して「今から教室に行くから待ってて」とメッセージを打って送った。
*
廊下から見える教室には既に電気がついていた。
数人の話し声が聞こえてきて、どうやら唯可たちは既に待っているみたいだった。
私たちは顔を見合わせて頷き、教室の前から扉を開けて入って行った。
「お待たせ」
「あ、二人で来た。――てか手、繋いでる!」
「ということは……」
みんな一斉に駆け寄ってくる。
もうどうなったか多分わかってると思うけど、きっとこちらから言わないといけない場面だ。
念のため佑太くんの顔をちらっと見上げて確認すると、笑みを携えてこちらを見てくれた。
うん、じゃあ私が言おうかな。
「へへ。オッケーでしたっ!」
私はピースサインを作って答える。
するとワッと歓声が上がった。
「文栞ー! やったね!」
「やったなー。文栞!」
唯可と沙苗が抱きついてくる。私は佑太くんと繋いでいた手を離して、二人を抱き留めた。
揉みくちゃにされるけれど、悪い気はしない。
一人落ち着いた様子の志保も笑顔で「おめでとう」と言ってくれたので、「ありがとう」と返した。
佑太くんも少し離れたところに連れて行かれ、谷崎くんには肩を組まれ、近藤くんには背中をバシバシ叩かれている。
あちらもなかなか手厚い歓迎を受けているみたい。
佑太くんも珍しく照れくさそうにしている。
とにかく私たちのことをみんな祝福してくれていることが伝わってきた。
いい人たちと友達になれたな、と思う。
みんなとても優しくて友達思いだ。
本当にありがたいことだ。私は恵まれている。
きっとこれまで私が関わりを持とうとしなかった人たちの中にも、いい人はいっぱいいたんだと思う。
当たり前のことだし、頭ではわかっていたつもりだったけれど、今改めてそれを実感した。
これからはもっと色んな人ときちんと関わっていこう。
もちろん私は一人で本を読む時間も好きだし、そこを無理に変えようとは思わない。
だけどそれは人付き合いを避ける理由にはならない。
こういう時間も、これはこれで悪くないものだ。
ちょっとしたきっかけから始まって、ようやくそれがわかるくらいに成長出来たから。
きっとこれから次第だ。
私は、どんな私にだってなれる。
そう実感しつつ、ようやく解放された佑太くんの元に私は駆け寄った。
(了)
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