第三十七話
「え――」
佑太くんの目が驚いたように見開かれた。
まさか今、この場面で自分の話が遮られるとは思っていなかったんだと思う。
「もしも佑太くんの話そうとしていることが私の想像してる通りなら……それを訊いてしまったら私は変わりきれないままで終わってしまう。きっとこれから先も流されるばっかりで、自分で何かを決めることなんて出来なくなっちゃう」
佑太くんは黙って聞いている。
じっと私の真意を見極めるように。
「私は変わりたい。ちゃんと変わって、これからは佑太くんや唯可たちと本当の意味で対等に関わっていきたい。だから……お願いします」
言い切って頭を下げた。
大丈夫だ、きっとわかってくれる。
そう思うけれど、この一秒一秒をこれまでのどの時間よりも長く感じて感じてしまう。
もし佑太くんのしようとしている話が、私の見当違いだったとしたら……今の私の話は全く意味のわからない言葉の羅列だったと思う。
困惑させてしまったかもしれない。
どうやって誤解を解こうか考えているのかもしれない。
怖くてたまらない。
瞼にぎゅっと籠められた力が抜けてくれない。
きっとまだ、私は根っこのところではほとんど変わっていないのだ。
だけど――
「わかった」
私は下に向けていた頭を上げた。
上げて、佑太くんの顔を見た。
「俺は別に文栞を対等じゃないなんて思ってないけど……きっと文栞の中では違うんだろうな。だからそれで何かが変わるのなら……聞かせてほしい。文栞の話を。これからもずっと……文栞とは関わっていきたいと思ってるから」
佑太くんは優しく笑んでいた。
私をいつも勇気づけてくれた笑顔を見せてくれていた。
――いつも思う。
やっぱり敵わないって。まだまだ私は肩を並べることなんて出来てない。
でもやっと、本当の意味で一歩踏み出せたよ。
今度は待っててもらったわけじゃない。
ちゃんと自分からきっかけを作れたんだ。
だからもう、大丈夫。
そう、確かに思えたから――
次の言葉は自分でもびっくりするくらい自然に、私の口から零れていった。
「佑太くん、ずっと好きでした。――私と……付き合ってください」
人生最初の告白は、想像していたものとは少し違って。
緊張に張り裂けそうな胸の高鳴りも、不安で竦んでしまうような足の震えもなくって。
その代わり、確かにいつもよりは速いけれど、それでも静かに優しく私の心の深いところを叩く心臓の鼓動が妙に愛おしくて。
私の目はしっかりと佑太くんに向いたまま……きっと口元は今までのどの瞬間よりも柔らかく綻んでいた。
佑太くんは私の告白を聞いた後、一旦目を閉じて反芻するように、うんと頷いた。
そして再び目を開けてまっすぐにこちらを見据えた。
「俺も文栞が好きだ。こちらこそ……よろしくお願いします」
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