第三十六話

「じゃ、行くか」

「うん」


 二日間の文化祭の日程が終わり、これから後夜祭だ。

 私と佑太くんは教室の片づけが終わってから一旦別々に教室を出た。

 そして予定通り校舎外で落ち合ってから一緒に校庭へと向かっている。


 うちの高校の後夜祭では、今時は珍しくなってきたけれど伝統的にキャンプファイヤーをしている。

 定番の音楽もかかっているから踊ることも出来るし、実際に踊っている人もいるけれど、中央の炎を遠巻きに眺めながら話しているだけという人もかなりいる。

 私と佑太くんも例に漏れず、炎から少し離れたところで二人並んで立ち止まった。


「終わったなー」

「うん、そうだね」


 パチ、パチ、と火花が爆ぜる音が聞こえてくる。

 この二日間の喧騒が嘘のようにゆったりとした時間。

 周りにはたくさんの人がいるのに目の前の景色はどこか遠くの世界みたいで、隣に立つ佑太くんの存在だけが私に残された唯一の現実みたいだった。


「この二日間、楽しかったか?」

「うん。楽しかったよ。クラスで模擬店するのも、唯可たちと一緒に文化祭回るのも、みんな楽しかった」

「そっか」

「でも、これは佑太くんのおかげだよ」

「ん? 俺何かしたっけ?」


 佑太くんがきょとんとした顔でこちらを見た。


「佑太くんと話すようになる前の私だったら、きっとさっきの質問に『楽しかった』って答えられなかったから」

「どうだろ。俺がいなくても結局こうなってたと思うけどな。唯可たちと関わるようになったことに俺は関係ないし」


 佑太くんはわかってないみたいだった。


 夜の学校って特別だ。なんだか少し恥ずかしいこと言っても許されるような……ううん、むしろ話したい気持ちになってくる。

 特にこういう後夜祭の時なんかは、その空気が特に顕著になる。


 だから私は「ううん、それは違うよ」と首を振って続けた。


「私は人と関わることが苦手で、でもそんなに関わりたいとも思ってなくて、友達なんてほんの少し親しい人がいればいいやって思ってたの。だからもし唯可に話しかけられたとしても、前までの私だったらきっとなんだかんだ理由をつけてそれ以上仲良くなろうとはしなかった。そんな私が変わりたいって思ったのは佑太くんのおかげだから」

「……そっか。なら、よかった。なんでって訊きたいところだけど、それは訊かないでおく。――その代わり、俺の話、訊いてくれないか?」


 佑太くんの視線に力が籠もる。

 今までのどこか生温かった空気が一変した。

 真剣な表情だ。思わず気圧される。

 私の思い上がりでなければ、今から佑太くんが何を言いたいのかわかるような気がした。


 だからいつもならきっと頷いてしまうところを、その機先を制するように精一杯の覚悟をぶつけた。


「ごめんね、本当に悪いと思うんだけど、その前に私が佑太くんに話したいことがあるの。だから……どうか今から私の話を訊いてください」

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