第二十七話
週末の土曜日。
私たちは志保の家に集まっていた。
メンバーは私、唯可、沙苗、志保の四人だ。
せっかくお弁当を一緒に食べることになったし、休み時間なんかも一緒に行動することが増えてきたので、お互いのことは名前で呼ぶことになった。
いつまでも小久保さん、牧田さん、鈴見さんだと距離が遠いし、グループの中で私だけ綾瀬さんと呼ばれているのも不自然だしね。
そして今日は前に約束した通り、料理を教える目的で集まっている。
講師はなぜか私一人。作るのは唯可と沙苗で、志保はなぜか見学だ。
何を作ろう? と思ったけれど、これは沙苗の一言であっさりと決まった。
「料理と言えばあれやろ。肉じゃが!」
こだわればキリがないかもしれないけど、普通に作る分には肉じゃがは決して難易度の高い料理ではない。
だからちょうどいいかもしれないな、と思ったのだけど……。
これが想像していた以上に厄介だった。
だって私はこの催しが始まってからずっと叫び続けているのだから。
「手! 切るから! 猫の手!」「え⁈ なんでお酢? ……隠し味? そんなの今はいらないの! ちゃんとレシピ守って!」「ちょっと! 煮立ってる! 蓋ずらして……というか火、強すぎ! 弱めて!」「だーかーら! お醤油は最後! ――ああ、もういいや。入れちゃえ!」「あれ? なんでみじん切りにしてるの? くし切りだって――え? わからない? もう。切る前に聞こうよ!」「まだ火は止めないで! 煮えてない! 玉ねぎシャキシャキだよ!」「もう、お願いだから言うこと聞いてーっ!」
ぜぇぜぇと息を切らしながらも、なんとか最後まで出来上がったことにホッとする。
今日はもう一生分くらい叫んだ。しばらく何も話したくないくらいだ。
そんな私を見た沙苗が「なんか文栞ってお母さんみたいやな」とげらげら笑い、私は「誰がそうさせてるの……」とすっかり脱力してしまった。
そして気が付けば志保はなぜか少し離れたソファに座り、涼しい顔して紅茶を飲んでいた。
それを見た私はついつい恨み節を吐いてしまう。
「志保も手伝ってよぉ……」
「やだよ。こうなるってわかってたから今までやらなかったんだし」
「先に言って……」
出来上がった肉じゃがは火の通りが甘かったり、逆に通り過ぎていたり、味の染みがいまいちだったりしたけれど、それでもとても美味しく感じて、私たちは笑いながらお皿いっぱいに盛り付けられたものを全て平らげてしまったのだった。
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