第十八話
「こ、これはちょっと可愛すぎるんじゃないかな?」
「男ウケ狙うんならこのくらいの方がいいんだって」
今、咲良と買い物に来ている。
明日遊びに行くときに着て行く服を一緒に選んでもらうためだ。
私が普段着ている服はダサくはないつもりなんだけど、なんというか地味だ。
だから少しくらい勇気をだして変わってみようかと思ったのだけど……。
「さすがに短いよ! 下着見えちゃうし!」
「えー? そうかな? このくらい普通だと思うけど」
先ほどから咲良が提示してくる服は確かに可愛い。可愛いけど、清々しいまでに男ウケしか狙っていない。
確かに咲良なら着こなせるかもしれないけど、私には無理無理!
「もうちょっと普段の私に近い感じで選んでみるのは駄目?」
「全然それでもいいけど、どうせならギャップ見せた方が長瀬くんもドキドキしてくれるんじゃない?」
「そこまで考えなくてもいいの! 私はただ、もうちょっと自信をもちたいなって思っただけで……」
「うーん……そんなに言うなら仕方ない。今回は私が折れてあげよう。でも、その前に一回これ着てみて! そしたらちゃんと選ぶから!」
「えー……これ着るの? 絶対似合わないよ?」
「いいから、いいから。単に私の趣味だから」
「まあ、そのくらいならいいけど」
咲良に渡された服を持って試着室に入る。
普段なら絶対に手に取らない感じの可愛らしい服だ。
だけどまあ、今着てみるくらいなら……。
――うん、やっぱり似合わないよね。わかってた。
試着室の中で色んな角度から自分を鏡に写して見てみる。
翻るたびにスカートがふわりふわりと舞って落ち着かない。
さっさと咲良に見せて終わりにしよう。
「咲良ー? 着たよ。でもこれ、やっぱり似合わないから早く着替えたい」
そう言ってカーテンを開けると同時に「カシャッ」と音が聞こえた。
目の前の咲良の手にはスマートフォンが握られており、カメラがこちらに向けられている。
「はー。眼福、眼福。文栞、すごい可愛い!」
「と、撮ったの?! 早く消して!」
「やだ」
「なんで?!」
「だってこれ消すと、二度と手に入らないもん。今日その服着てデートしてくれるなら考えてあげてもいいけど。あ、心配しなくても服の代金は私が持つよ!」
「そんな心配してないから! 着ません!」
私はさっとカーテンを再び引いて試着室の中へと戻る。
や、やられた。咲良はときどきこういう意地悪をする。
こうなると何を言っても無駄なのはわかりきっている。これ以上抵抗しても無駄だ。
早々に諦めた私はさっさと元の服に着替えて試着室から出る。すると咲良はまださっきの写真を見てにやにやとしていた。
「そんなの見て、何が楽しいの」
「えー。だって可愛くない? ほら」
そう言って画面を見せてくるが、どう見ても似合っていない。というか、ここで臆面もなく「可愛い」と言い張れるようなほど図太いなら、そもそも咲良に頼んで一緒に来てもらっていない。
「誰にも見せないでよ?」
「それはもちろん。だって私だけの宝物だからね!」
「それなら……まぁ、いいけど」
「認めてくれたんだ?」
「諦めたの!」
全く何を言っているんだ、この親友は。
でもこういう悪戯を気軽にしてくるからこそ、私も肩肘張らずに一緒にいられるのかもしれない。
もしかしてそういうのを狙って――ないか、さすがに。
「ほら、早く他のお店行こうよ。付き合ってくれるんでしょ?」
「うん、じゃあ次はね――」
それから数件のお店を回り、膝丈のチュールスカートとニットセーターを購入した。普段制服以外ではマキシ丈からミモレ丈くらいの長さのスカートしか履かない私にとっては大きな冒険だが、このくらいならぎりぎり許容範囲。
咲良も太鼓判を押してくれたし、自分でもそれなりに見れるようにはなったと思う。
これを着て、明日は頑張らなきゃ。
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