第十七話
私はスマホの画面を睨みつけながら、むぅと唸る。
表示されているのはもう穴が開くほどに何度も見た長瀬くんからのメッセージ。
『次の土日のどっちか、空いてる?』
――どっちも空いてる。というか、私にとっては土日に予定のある方が珍しい。
私は考えに考えた末に、ようやく返事を送った。
『日曜なら空いてるよ』
するとすぐに返信が。
『昼前に集まって、軽く何か食べてからどこか行こうか。それでいい?』
『うん。じゃあ、よろしくお願いします』
「はー……。疲れたー……」
身体ごとベッドに投げだし、ぼんやりと天井を眺める。
私が送ったメッセージは一時間ほど経って返ってきたのだが、その返事に夜までかかってしまった。
普段のやり取りはだいぶ慣れてきて、どちらかというとわくわくするくらいだけど、こういうやり取りになるとてんでダメらしい。
妙に心臓はどきどきするし、掌だってほんのり汗ばんでいる気がする。
――本当に空回りしてるよね。
咲良はああ言ってくれるが、長瀬くんにとっては友達を遊びに誘っただけで、他意はないと思う。
だって本当に釣り合わない。彼には小久保さんとか、咲良とか、ああいう可愛くて明るい女の子らしい女の子がお似合いだし、普通はそっちを好きになる。私にそういう目を向けるわけがないのだ。
私は偶然の歯車が嚙み合った結果、なぜだか少し仲良くなれてしまっただけの存在。
だと思う。わりと本気で。
でも今日の咲良の言葉が、何度も私の中をリフレインしている。
――これからもずっと逃げ続けるわけにはいかないでしょ?
私にとって痛い台詞だ。
衝動的に動いたこと以外で、きちんと意志をもって何かを出来た事なんて、今まで一度だってない。
偶然の歯車が嚙み合った。
そしてその歯車は少しの時間を共にし、また必然としてどこか別のところへと流れていって離れ離れ。
もう二度と、噛み合うことはない。
そんなのは嫌だ。
変わらなきゃいけない。少しずつでも、出来ることから。
私は顔の横に投げだしたままになっていたスマホを手に取り、着信履歴から一番直近の番号にコールする。
「――咲良ごめんね。今大丈夫かな?」
『文栞からの電話ならいつでも大歓迎だよ。で、どうしたの?』
「土曜日、何か予定ある?」
『ううん、一日空いてるよ』
息を吸い込んで、吐く。
これは決意表明だ。
いつまでも変われない自分に対する宣戦布告。
また咲良に甘えてしまうことにはなるけれど、それでも今よりは確実に一歩、前に進む。
「咲良の行きつけの美容院、紹介して欲しい。それと服も見たいんだけど、一緒に来てくれないかな?」
『――もちろん!』
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