7、鑑定士
*
「今だ!やれ!」
灰色の空に立ち上る黒煙。
いまだに炎を上げている村には魔物の死体が転がっている。
そしてそんな村の中心にある広場では最後の戦いが繰り広げられていた。
「これで止めだぁー!」
全身を金属鎧で固めた男が魔物の足に剣を突き刺し動きを止める。
そして同じ金属鎧を見に纏った男が長剣を振りかざし魔物の首を落とす。
終わった。
被害がゼロ、というわけではないが被害は最小、死人は出なかった。
今回討伐した魔物は近隣の村々を襲っていたため、これでしばらくこの近隣に平穏が訪れることだろう。
村を救った英雄、人々は口をそろえてこう言うだろう。
「長剣の英雄ケイト、と。」
*
「おーい、ミナト?そろそろ通行許可出してくれよ。」
「はっ、ごめん。ちょっと視すぎたね。いいよ、ケイト率いる第一部隊、第3班に王都への帰還を許可、問題がないことをここに記します。鑑定士ミナト。」
ケイトの討伐に魅入ってしまっていたミナトはケイトの声に我に返る。
そしてなんでもなかった風を装い通行許可を出す。
正門で働くことになり一年が過ぎ仕事には慣れたがたまに今みたいなことが起こる。
それは訪れた者の冒険が濃い時だ。
「大丈夫か?勤勉もほどほどにしとけよ。そうだ、今日飲みにでも行かないか?明日は非番なんだ。俺の武勇伝をたっぷり聞かせてやるよ。」
ミナトの様子を勘違いしたのかケイトがそんなことを言ってきた。
今や若き英雄としてこの王都で名前を馳せているケイトが非番であるはずがない、おそらくミナトを気遣っての発言だろう。
こういうところは昔から変わらない。
「ケイトは英雄になるんでしょ?僕は大丈夫、それに君の武勇伝ならたくさん魅せてもらっているしね。」
「見てる?」
ミナトの発言に眉を顰めるケイト。
その表情を見て自身の失言に気づくミナト。
どうやら本当に疲れているのかもしれない。
「ごめん、聞いているんだ。ケイトの英雄譚はいろんなところで耳にするからね。」
「フーン、そうか。じゃあまた今度な。」
あまり納得してはいないようだが深く詮索はしないようだ。
ミナトから通行許可書を受け取るとそのまま門を後にする。
危ない、危ない。
ケイトの冒険を視たと言うなんて、気が緩みすぎかな。
それにしてもすごかったな、あの魔物との闘い。
リアルなだけにアニメなんかとは全然違う。
これは全てを知ることができる鑑定の能力の一つ。
対象者の記憶を知ることができる。
つまりは対象者が見てきたことをそのまま再生可能なのである。
ミナトがこの職を選んだ一番の理由がここにある。
テレビはもちろん、娯楽などないに等しいこの世界では他人の冒険に触れることが一番の娯楽になる。
もちろん視るだけなので危険にさらされることもない。
最高のスキルに最高の職業。
まさにミナトにとっての天職。
*
「おい、勇者一行がここに向かっているらしいぞ。」
同僚のそんな声が耳に聞こえてきた。
勇者が来るなど願ってもない。
いったい勇者はどんな面白い物語を見せてくれるのだろうか。
今から楽しみだ。
異世界転生して大賢者?
門番で十分だ。
最強の鑑定士はスキルを隠し門番として生きる 銀髪ウルフ @loupdargent
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