6、就職
*
「よし、これで今年度の新人は以上だ。それぞれ持ち場に行き担当の上官から仕事の説明を受け次第、仕事に当たれ。解散!」
「「「「はい!」」」
王都グラシアス、そしてその王城の広間に集められた新人兵たちは騎士団長の激励を受け元気のいい返事を返す。
ここに居るのは厳しい採用試験を突破した優秀な兵たちである。
兵と言っても騎士から魔法使い、治癒師、ひいては庭師や調理師などの非戦闘職に就く新人も集められているのでその服装は様々だ。
なぜか国の決まりとして新人は皆一堂に会し、この広場からのスタートをすることを強制される。
そしてさらになぜかそんな新人の激励を王や宰相ではなく騎士団長が行う。
ミナトにしてみれば意味がわからない以上に時間の無駄だ。
なにせミナトが務める場所は王都グラシアスの正門。
王城からはかなりの距離がある。
「じゃあな、頑張れよ。」
騎士団の第一部隊に入隊が決まったケイトが広間から出ようとしていたミナトに一声かけると足早に自身の持ち場へと向かって行った。
ケイトが入隊する第一部隊は選ばれたエリートのみが入隊することを許されたこの国の精鋭部隊だ。
どうやらケイトは着々と英雄になる、という道を進んでいるらしい。
そんな友人を誇らしく思いながらミナトも自身の職場である正門までの長い道を進む。
*
「失礼します。今日からこちらでお世話になる鑑定士のミナトです。よろしくお願いします。」
王都をほぼ端から端まで歩いてきたミナトは正門脇にある詰所に顔を出す。
ミナトはこの国の兵士ではない。
名乗った通りの鑑定士であり、王都に入る者を視ることが仕事だ。
荒事は詰所にいる正規兵が何とかしてくれるため武力は必要ない。
「おう、お前が新人か。俺がここの統括を任されているモルトだ。第五部隊所属、よろしくな。」
そう言って現れたのは黒い立派な髭を持つ40歳くらいの男、背中に背負っている斧を見る限り事務仕事は向かなそうだ。
顔も騎士というよりは盗賊に見える。
だが鑑定スキルで見る限りいい人であることは間違いない。
王都での評判や国民からの覚えもいいらしい。
スキルは
驚いた、妻子持ちか。
ミナトがもつ【鑑定】はこのように知りたいことはすべて教えてくれる。
物心ついた時からこのスキルの存在を知っていたミナトはすでにこのスキルの能力をすべて引き出せる。
このスキルの隠し技能すらも。
そしてそんなミナトの洗練されたスキルはすでに神すらも欺けるほどの力をもっていた。
【鑑定】の隠しスキル【消去】と【書き換え】。
ミナトはこの二つを使うことで祝福の儀式の際に鑑定書に書かれた自身のスキルを消し、新たに記入した。
これは実際にスキルを書き換えることはできないが鑑定書や鑑定石に表示されるスキルは任意の者に書き換えられる。
この世界で最も信用されているこの二つを欺けばミナトのスキルを疑うものは誰もいない。
その結果、こうしてどこにでもいる嘘鑑定士として入国審査をする仕事を与えられたのであった。
「こちらこそよろしくお願いします。」
「おう、こっちに来いや。バリバリ仕事をしてもらうからな、覚悟しとけよ。」
願ったりかなったりだ。
これで衣食住の3柱がそろった。
これから始まるんだ、普通の生活、平穏な人生が。
目指せ老衰!
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