十六夜が明けて

 直後、私は家を飛び出して伊勢中川いせなかがわ行きの近鉄電車に飛び乗った。朝の駅は空気も澄み、ただ北風とまばらな人影だけが支配する場所だった。

「今からマックに行くんね」

 犬飼に通話で言うと、犬飼は昨日さゆさんを見つけたという公園の写真を送った。私は電車を降りてからマイクをオンにし、感想を言った。

「これはドラマチックすぎる」

 伊勢中川の改札を出て、踏切を渡る。私の前には変電所がそびえていた。

「変電所の写真送る」

 そう言ってカメラを構え、変電所を見上げるように数枚の写真を撮った。変電所は一昨日の月食も、昨日の十六夜も全て間接的に照らしていた太陽を上に見てディストピアの崩壊のような景観をただ朝の風景に加えていた。

 私が高茶屋に差し掛かった頃、犬飼は仮眠を取るといって通話を切った。私は万歩計を確認したが、1万4千歩の歩行距離を計算するのが面倒になって14590が14591になったときに万歩計のディスプレイを切った。そして私は、非日常の締めくくりの散歩を昼下がりに終えてマックのハンバーガーを食べ、再び勉強とその他色々に追われる高校生活へと戻ったのであった。


――完――

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十六夜に命ず 古井論理 @Robot10ShoHei

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