親子
かずぺあ
父と息子
小さい頃の思い出といえば何を思い浮かべるだろう。来年中学生になる息子を見てふと思う。年を重ねるほど曖昧な記憶。少年ながらの悩みや葛藤もあったはずなのだが、不思議と思い出すのはその時の感情よりも自分が見ていた人や風景を切り取ったものが多いと感じる。
頭の中にアルバムがあり、写真のように一枚一枚綴じられていく。それは時にはモノクロであり、時には鮮やかに彩られている。
何気無い日常を切り取ったものから、特別な日として刻まれているもの。どれもが思い出であり、それは今の自分の幸せのバロメーターになっている。
俺は息子に良い思い出を作ってあげられているのだろうか。中学生になればなかなか家族と出掛けたりしなくなる。これは、自分がそうだったからであり男子特有の生態かもしれない。
俺の両親は共働きで忙しく、家族との思い出を聞かれるとパッとは出てこない。だが、それが嫌だったと言うわけではない。友達とも目一杯遊べたし、好きなおやつも必ず用意されていた。遅めの夕飯も一緒に食べるのが好きだった。今では、そう思えている。
俺は息子に特別な日を作ってあげたいと思い、キャンプに行くことを計画した。妻には悪いが男同士の二人キャンプだ。田舎育ちの俺は自然に囲まれた土地で少年時代を過ごし、今となってはそれは貴重な体験だったと思っている。
それに妻から息子がキャンプに行った友達のことを羨ましがっていたと聞いていたからだ。
キャンプ当日、息子は俺が思っていたよりも楽しそうにしていた。一緒にテントを作り、火を起こし、川で魚を釣り、一通りのことを終えると二人で満足感を共有できた気がした。
「父さん、今日は特別なもの持ってきたんだ!」
そういうと息子はテントのリュックからあるものを持ってきた。みどりのたぬきだった。
「家だと母さんがうるさくて、食べようとすると夕飯食べれなくなるからダメだって」
さっきまで息子にたくましさを覚えていたが、やはりまだまだ子供だと思い自然と笑みがこぼれた。
「そうか、今日は好きにしていいぞ」
「やった!母さんのごはんも美味しいけど、これも負けないぐらい美味しいんだよね」
お湯を注いでいる息子の姿がまた一枚、俺のアルバムに綴られていく。
そして立ち昇る湯気を見ると、大好きだったおやつがみどりのたぬきだったことを思い出した。
あぁ、親子なんだと改めて実感すると息子を見ながらまた自然と笑みが溢れた。
親子 かずぺあ @kazupea748
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