第3話 小型自動二輪免許②
「小型自動二輪免許②」
春になりました。ワシの住んでいた暗い山陰もやっと明るい春になりました。
期末試験も終わって何とか進級できそうでしたし、もうすぐ春休みだし天気はいいしでとても開放的な気分を味わっていました。ああ生きててよかった。
しかしワシは大問題を抱えて悩んでおりました。そうです。バイクの一発試験です。問い合わせたら次の試験日は「3月24日」と言われるじゃあないですか。「3月24日」って終業式の日じゃあないですか。成績表もらったり年度末の始末をしたりで絶対に休めんじゃあないですか。じゃあ次はということでまたまた問い合わせたら、今度は「4月10日」と言われました。もう学校が始まってる。絶対に無理でした。そうしたら次は夏休みまで待つしかない。そんなに待てない。どうしましょう。
ワシは無い知恵を絞って次のような作戦を考えました。「作戦」って?それはやっぱり「3月24日」に決行です。しかも終業式を休まずに決行してやるど。
3月24日、午前8時に試験場に行って手続きをしました。それからダッシュで家に帰って制服に着替えて高校に登校しました。ちょっと遅刻しそうでしたが何の問題もなく順調に「こと」が進んでいます。
実は当時ワシの住んでいた家(官舎)と高校はダッシュで5分。また試験場はダッシュで3分という好条件にありました。位置的には直角三角形になっていて、抜群の地理的条件だったのです。すごいでしょう。
ワシは朝イチで試験場に行って手続きだけして、それから学校に行って、学校が終わったら再び試験場に戻って、実技試験を受けようと思っていたのでした。
ここでポイントのなるのが「空白の二時間半」でした。
8時に試験場が開いたら即手続き。
9時から学科試験があって発表があって、全回もだいたい10時半ころから実技試験が始まりました。一人ずつなのでけっこう時間がかかるはずです。ワシの読みでは11時に学校が終わってダッシュで試験場に戻れば何とか間に合いそうだと踏んだのでした。何という完璧な作戦なのでしょう。ワシは絶対に何とかしようと心に決めました。ワシは前回に「学科試験」を受かっていました。だから受付開始から実技試験開始までの「空白の2時間半」があったのでした。
ところがですね。物事はうまくいかないもので、読みも甘かったので、いろいろあって学校がやっと終わったのはすでに11時半になろうかというころでした。
焦ってましたね。校長先生の長い長い話や一人ずつ声をかけながら丁寧に成績表を渡してくれる担任の先生。とてもありがたいことですがとにかく焦れていました。
そいでもって11時過ぎても終わる様子が微塵も感じられない。早退もできないしこの場を抜け出すこともできない。
そうしてワシはついに「あきらめた」のでした。あきらめました。仕方がないと。
だからやっと学校が終わって、トボトボと家に帰りました。それから着替えて昼前ぐらいになっていたので、仕方なく荷物や書類を取りに試験場に行きました。
そしたら
「あんた、どこにいっとったん。」
「すみません。ちょっと帰っていました。」
「今からじゃからすぐに用意してコースに出て。」
「はい。」
本当にたまたまですが、その日は受験者が多くて、まだ実技試験が終わっていなかったのでした。
でもこんな状態で受けても受かるはずがありません。頭の中は空っぽでしたから。もう受けないつもりでしたから。受けられるはずがないと思ってあきらめていましたから。
ワシは試験車のK125に乗って、今回は淡々と走りました。何も考えずに走りました。何も考えられんかったのでした。今回は一応最後まで走ることができましたが、絶対に受かっているはずがないと確信していました。
12時半ごろ、一人ずつ名前を呼ばれて「合否」を告げていただきました。
「合格です。」
「はっ」
「この書類をもって、これから警察に行ってください。」
「はい。」
そんな会話だったと記憶しています。なぜかワシは合格することができたのです。夢のようでした。まったく実感が湧かなかった。
でもそれから自転車に乗ってちょっと離れた警察署に行って、やっとこさ手続きが終わった頃には嬉しさがこみ上げてくるのでした。
「ワシ、バイクの免許をとることができたんだ。」
免許証の交付は2週間後ということで、警察まで取りに来るように言われました。
2週間後って。春休みの最後の日じゃあないですか。
まあええか。免許取れたんだし。
ワシは家に帰って両親に告げました。そしたらお父ちゃんが
「ワシのバイクに乗ってもええけど気をつけて乗れよ。」
と言ってくれて嬉しかったのを昨日のことのように憶えています。ワシは絶対に事故に遭わないように安全運転しようと心に決めました。
明日から春休みで、思いがけずに免許に合格して天気が良くて、そんな人生最良の日でした。
わからんもんですね。夢みたいでした。
でもそういう運命だったのだろうとそんなことを考えていました。
バイクについてのエトセトラ 詩川貴彦 @zougekaigan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。バイクについてのエトセトラの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
如是我聞もどき/詩川貴彦
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 10話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます