夜のモブ その7
マスターは牛乳とオレンジジュースを取り出しながら続ける。
「しかしまあ、あの男についてるだけあって女も相当なもんだな」
「あの年でイジってるとは」
「気に入ったのかよ、そのフレーズ。まあ、世の中いろんな人がいるわな」
「だね」
マスターは棚から出したタンブラーに氷を詰め、それぞれウォッカとカルーアを注ぐ。それを横目で見ながら、僕はチャーム――――お通しのスナック類とオーダーのチョコレートを四角い平皿に盛り付けていく。
『俺もあと10歳若かったらなー。ラピちゃんと正面からオツキアイできるのに』
『えー、今はデートじゃないのお?』
『もちろんデートだよ。でもさ、青春ではないじゃん? だんだんお互いが好きになって、堪えきれなくなって心臓バクバクの中で告白して付き合って――――みたいなさ』
『レンジさんって意外とロマンチストだよね。アプリでかっこいい人かわいい人見つけてマッチして、実際に会ってそのままデートでいいじゃん』
『ラピちゃんこそ以外とリアリストっていうか、効率重視だよね』
この二人意外と面白いかもしれない。
一年バーでバイトして気づいたことの一つに、客の会話は誰よりもスタッフが聞いているというものがある。
ある程度仕事がこなせるようになってくると、自然と客の会話が耳に入ってくる。もちろんレベルが高すぎて何を言ってるか分からないこともあるが、だいたいは世間話や夢語り、他人の愚痴が大半を占める。それはわざわざこんな場所で話すのだから、話のネタになっている当人には到底聞かせられないような、穿った内容が散見される。それはそれで非常に興味深いのだが、僕が好きなのはそれ以外の少数派の話。
その中で特に好きなのが今目の前で繰り広げられている、男女の駆け引き。タダ飯を狙いホテルへの最短ルートを狙われる、恋模様と言えば聞こえのいい生存競争だ。不謹慎だが、一種の格闘技を見ているような気分になる。
どちらも自分の得意な攻め方に持ち込もうと技を繰り出し睨み合っている。女は小技で有効得点を稼ぐ逃げ、男は寝技(笑)が得意分野と見た。
「はい、オッケー。サーブお願い」
「了解」
マスターの声で人間観察を切り上げ、出来上がったカクテルとチャームをトレーに乗せてテーブルへ向かった。
最強のモブ 教祖 @kyouso505
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